2-2 手段
アクアランス伯爵、ドミニク部隊将、ヘックス子爵が集まった。
そして、沈黙の中で最初に言葉を発したのはアクアランス伯爵だった。
「緊急の軍議との事でしたが。その、ヘレナ子爵は何やらずっと西の大森林を眺めているようですが」
「あぁ。この大森林の西、つまりサンフィールド領で賊の襲撃を受けた」
「なっ!?」
アクアランス伯爵が立ち上がった。
「落ち着いてください。襲撃の知らせでこうして集まったという事は、サンフィールド城はおそらく今のところは無事。サンフィールド城が無事な間はアクアランス領もきっと無事でしょう」
「そ、それはそうだが」
ヘックス子爵の言葉にアクアランス伯爵が座った。
そして、ヘレナ子爵はヘックス子爵と目が合うなりは不敵に微笑んだ。
「今のところは。実に素晴らしい読みですね。まさにその通りです。しかも、サンフィールド伯爵の見立てでは、救援には三日以内のサンフィールド城へ到着する必要があります。そして、それが無理なら救援は諦めるしかないでしょう」
「だが、ここからサンフィールド城に戻るには……それに反乱軍が」
「そうです。私の計算では、サンフィールド隊が急いでも南の林道経由では帰還には七日はかかる。加えて、問題は賊が出現したのが森からという報告もあります。つまり、最初の軍議に出たフォレストと呼ばれる大森林の賊も、この反乱軍とも連携しているとみていいでしょう。それは、その街道では帰還できない。仮に帰還できても戦える余裕などないとなります」
静まった空気にヘレナ子爵はコホンと咳払いした。
「おそらくサンフィールド伯爵も同じ迷いに至った。そこで私は考えました。あの大森林を眺めながら」
「……まさか」
誰もが考えはした。だが、誰もが除外した選択をヘレナ子爵は堂々と宣言した。
「はい、大森林を横断します」
その表情は、輝きを放つほどに爽やかで、探求心があふれる笑顔だった。
それに真っ先に反応したのはヘックス子爵だった。
「ヘレナ子爵、お戯れを」
「本気です。反乱軍との交戦を避けてサンフィールド城へ三日目に到着できる方法。そして、今の遠征を継続できる方法。それができるのは唯一、この方法だけですから」
「で、ですが、大森林とはいえ、丘陵としての地形も多々あり鎧を身につけ、荷駄を率いるのは困難でしょう」
「ですので、サンフィールド軍の無傷で体力のある兵、私の率いる騎兵五十余騎で大森林を横断します」
黙るヘックス子爵。アクアランス伯爵が続いた。
「だが大森林にはフォレストという賊がいるのだろ、それに先住民もいる」
「フォレストについては、アクアランス伯爵ほどの方がそう思うのであれば、私たちが大森林へ行軍するとは考えないでしょう。仮に連合王国領側でフォレストや先住民が加勢していれば、敵兵はもっと多くなり、今回の砦攻略時にももっと苦戦していたはずです。この南北の砦の後方がその大森林なのですから。
そして、三日目での到着なら、反乱軍が察知したところで」
「三日では反乱軍がサンフィールド領には到着できない。……か」
「ご明察です」
「だが、肝心の問題が残っているフォレストと呼ばれる賊は大森林沿いと唯一の林道地域の賊であって大森林を横断できるとは聞いたことがない。歴史上、旧王国、連合王国、帝国の三度の行軍があるのに一度もないのだ」
「そうですね。では大森林にある林道があるのはなぜでしょう」
何かを言いかけたアクアランス伯爵を手で制す。
「意見はわかる。だが今は論じる時間も惜しい。他にできる手段があるという意見があれば聞きたい」
周囲を見渡しても他に手段を述べようとするものはなかった。
「……異論はないな」
「その、仮にその方法を選んだ場合、サンフィールド軍の他の者たちやアクアランス伯爵を含む我らはどうなさるおつもりか?」
ドミニク部隊将の問いに頷く。
「アクアランス伯爵、ヘックス子爵については連合王国軍とともに次の東西二つ並ぶ砦攻略にむかっていただきます。サンフィールド軍も私の荷駄隊もそれに同行します」
「私から補足説明を加えさせていただくと、主力軍はトートラント攻略に向かっています。予定では、主力の指示を仰ぎながら。砦の攻略を行い主力軍と合流を提案するつもりでした。既に早馬でサンフィールド軍の一部が離脱するとは伝えております」
静まるだけで意見は出なかった。
「決まったようだな。では、これより」
「お待ちを。出発は明日の日が昇る前まで兵に準備をさせ、よく休ませるのがよろしいかと。急ぎとはいえ、相手は大森林という自然です。強行して森で野宿となれば兵たちは疲労が大きくなるばかり、備えの不足は死に直結し、撤退の選択しか残りません」
手に力が籠る。歯を食いしばって声を飲み込んだ。
「…………わかった。申し訳ないが、大森林についての知識ある者を探して話を聞き、備えさせ、よく休ませよ」
再編、準備、そして出立前の休息。無傷な兵たちの隊長へは通達し、ヘレナ子爵も慌ただしく動き出した。




