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2-1 早馬

 別動隊は更に大森林沿いの道を南下。次は南北にある二つの小さな砦。

 その軍議では、珍しくずっと静かなヘレナ子爵。そして対照的に、アクアランス伯爵、ヘックス子爵、連合王国軍別動隊のドミニク部隊将が話を合わせたかのような提案がなされ、南砦を連合王国軍別動隊が、北砦を帝国軍で攻めることとなった。

 そして、それぞれが速やかに配置に着き、そのまま攻城戦は始まった。


「主様……」

「言うな」


 アーロンが言いかけた言葉を遮り、周囲を見渡し、声を潜める。


「積極的な意欲を削げば不満に変わっていた。この戦いに不安があっても失敗でなければそれでいい」


 軍議でのヘレナ子爵のらしくない態度。

 その不安を払拭するかのように、速やかな行軍ののち、間を置かず始まった攻城戦。兵たちの士気は高く、梯子を用いた攻城によって南北の砦はともに死傷者を出しながらも一日で攻め落とした。


 一番槍、二番槍、三番槍の功を賞賛して、遠征による疲労はありながらも士気は最高潮。死者は少ないようだが負傷者は少なくなかった。

 あと二つは主力と合流してからでも問題ない。むしろ、その方が合理的という、既にほぼ役目は果たせた劇的な勝利の初陣となったはずだった。


 ボロボロな姿に、くたびれた馬の早馬が現れた。

 サンフィールド軍の各部隊長を集めて被害状況を確認していたとき、その早馬の知らせによって空気は一変した。


「急報! 至急、サンフィールド伯爵にご報告を!」


 天幕に入った、息も絶え絶えな兵が叫んだ。


「サンフィールド領の東の大森林より、突如として大軍の襲撃あり。御前様は……その、私が主様の、もとへの到着が三日目より先であれば、報告をするな。と」


 苦しそうに涙を流しながら崩れる兵の姿。


「…………ここまで何日かかった」

「に、日数は……五日目に、なります」


 高鳴る鼓動と眩暈で真っ白になりそうな思考。その意識を保つために地に着いた足に力を入れ、歯を食いしばる。

 落ち着け、と目をつむり思い出したのは許嫁の言葉と微笑む姿だった。


 そして、再び目を開けば、周りの景色が見えた。

 周囲の重い沈黙。不安を示す迷いの答えを求める視線が一斉に集中していた。


「報告ご苦労だった。まずは休むとよい」

「申し訳ございません」

「謝るな。そして確かに伝えた事を誇れ」

「ありがとう、ございます……」


 周囲を睨めば、彼に向けられた無意味な批判の目は逸れた。


「アーロン、アクアランス伯爵を至急の用だと伝えてくれ」

「わかりました」

「キースはヘックス子爵を、オリバーは南の砦に向かってドミニク部隊将とデリック部隊将を」

「ですが、それでは護衛が」

「これは何よりも最優先の命令だ」

「わかりました」

「それとヘレナ子爵、頼みがある」

「何なりと……」

「可能であれば、三人が最短で辿り着けるようヘレナ子爵の騎兵をつけていただきたい」

「承りました」


 ヘレナ子爵が視線を向けると、フェミニアは頷き三人を追いかけるように出た。


「……さて」


 その後ろには部隊長、什隊長の四名も控えていた。


「それとロビン騎兵部隊長、フランク一番歩兵部隊長、チェスター二番歩兵部隊長、すぐに強行軍でも耐えられる者を分けて隊の再編を」

「「承りました」」


 返事をしなかったロビン騎兵部隊長が顔を上げた。


「恐縮ながら、もし負傷者を残すおつもりでしたら私にお命じください。 マーシャルの名に懸けて見事に役目を果たして見せましょう」

「もとよりそのつもりだ。そして、よく名乗り出てくれた」


 什隊長たちもいなくなり、天幕にはヘレナ子爵だけが残った。


「…………それで、人払いまでして、どうなさるおつもりですか」

「…………」


 口を開いた。ただ、迷いから言葉が出なかった。


「遠征の勝利を確信したところへ故郷とご家族の危機です。おそらく聞き耳を立てる兵たちもいるでしょう」


 無言で頷く。


「選択は二つ。遠征から離脱してすぐ帰還するか。遠征のお役目を果たしてから帰還するか。

 早馬の報告では既に三日目を過ぎて五日目、普通であればお役目を優先するのが正しい。ただ、私情としては帰還を選びたい。

 そして、サンフィールド伯爵は決断より先んじて後者の準備を指示した。それにも関わらず私の問いに答えなかった理由。それは、解決しなければならない問題がある。というところでしょうか。そしてそれは」

「……日数」


 ヘレナ子爵は二度も頷いた。


「もっとも安全な道は北からの迂回でしょう。それでは急いでも十日はかかります。最短の道なら大森林で唯一の道、南東から北西へ繋がる林道を通る方法でしょう。けれども道中は反乱軍がおり、早馬の様子からそれでも急いで五日以上はかかります」


 頷いた。


「気になるのは、サンフィールド伯爵の留守を狙って起こった事でしょう。もしこの反乱軍と関連があれば、林道で待ち伏せしている可能性は高いでしょう。辿り着けたとして、兵たちがサンフィールドで戦える体力が残っているとは思えない」


 天幕の外から覗く者がいないことを確認して頷いた。


「それでも……勝算はある。率いる者として勝算がなければ話にならない」

「そう、でしょうね……」


 ヘレナ子爵は首を横に振ると、手を顎に当て俯き、沈黙した。


「ちなみに、サンフィールド伯爵の見立てでは、残された日数はあと何日ですか?」


 小指と薬指を二つ折った手を見せる。


「運が良ければ、そして、今日を含めずにだが」

「根拠は?」

「ない。だが、母上が早馬を送ったのなら助けは必要という事だ。三日と見立てたのであれば、行軍にはその倍近くと見立てて伝えた可能性は高い。もしそれ以上の日数を持ち堪える計算なら、帝都へ援軍を依頼しているはずだ」

「……なるほど。ちなみにサンフィールド領の地形は?」

「南北が低い丘陵の森林地帯に、西は大森林の地形だ。早馬に時間がかかったのも、森林を避け、道を使った迂回が必要だったからだろう。この大森林さえ越える事ができれば……」


 直後、ヘレナ子爵は顔を上げた。


「それが事実ならば、…………サンフィールド伯爵にとっては不幸中の幸いかもしれません」


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