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フォレスト・ロード  作者:  .
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1ー6 城郭都市戦

 待機しながらも順次経過の報告に向かった早馬。

 その戻りからの報告により、連合王国・帝国の主力は海岸沿いの主街道を通って道中の二つの砦、更に南下してフィースポート城の攻略を既に終え、決戦は起こらず、更に南下したフォーサイド市の市街地戦にも勝利して制圧した、という報告を受けた。

 そして、別動隊は大森林沿いから南下を続け、残りの五つの都市と砦の攻略するよう命があった。

 ドミニク部隊将からの報告によれば、王国軍側の早馬にも同様の命があり、すべてうまくいけばトートラント城で合流することになっている。


 そして、行軍して次の城郭都市ライスに辿り着くと、軍議が始まった。


「次の砦は平野の街道を南に進んだ小規模な城郭都市です。使者による交渉は通用しませんでした。ここはフォーサイド市陥落と略奪発生の情報をあえて流し、動揺を誘い、裏切りを装って開門させる、というのはいかがでしょう」


 常人なら計画したとしても無謀と思える策だ。ただ、結果を出したヘレナ子爵に疑問や反論する者はいなかった。

 結果、軍議は左翼を王国軍別動隊、右翼にアクアランス隊、中央にヘックス隊とサンフィールド隊とする配置のみ決めて終わった。


 こうして始まった城郭都市ライス攻略戦。

 ヘレナ子爵の兵はその策を成し遂げ、一斉攻撃ののち、予定通り内側からの開門が行われた。

 その報告を受け、サンフィールド隊として全軍前進するために立ち上がった時だった。


「お待ちください。率いる将軍は後ろでどっしりと構えるべきかと」


 ヘレナ子爵の一言にアーロンは拳を強く握るだけで何も言わなかった。

 だからこそ一軍の将として答える。


「助言には感謝する。だが、戦場で人を率いる者なら、前線は見ておくべき光景だ」

「例えそうであったとしても、それは海を眺めて海を知ったと語るようなもの。本質の理解とはなりません」

「そうだな。だが、私は海を本からの見聞だけで理解できるほど天才ではない。見るべきものは見ておきたいのだ。それが私の判断だ」


 ヘレナ子爵はただ黙って見つめるのみだった。


 意を決して、馬に乗り、アーロンたち護衛と共に兵を率いて前線へと向かう。

 そこは流れ矢も飛ぶ中であり、さまざまな声が飛び交っていた。そして、姿に気づいた伍長や兵たちが雄叫びを上げて、さらに前進していく。

 そんな折、一本の流れ矢がすぐ横を通り過ぎた音に鼓動が止まりそうになり高鳴る。本能か、それとも恐怖ゆえか。


「全隊、前へ進め! 勝利はもう目前だ!」


 気づけば鼓舞し、前線の兵たちに加わろうと馬をさらに前へ前へと進めていた。


 そして、不意に我に返ったとき、ヘレナ子爵も馬に乗り、フェミニアを連れてすぐ傍にいた。

 対照的に、ひたすらに淡々と城郭都市を眺めていた。その目が合った。


「サンフィールド伯爵。ご満足ですか?」

「あ、あぁ……」


 それからほどなくして城郭都市ライスは降伏した。


 今、馬上から見える景色に、物語にあるような美しさはなかった。ただ、喜びの雄叫びを上げる者、それを祝福する者、それを妬むように見る者、安堵の息をつく者、不満を隠そうともしない者、傷つき苦痛の表情をする者、不穏な動きをする者。そして、倒れて動かなくなった者。

 戦いの緊張から解き放たれた気の緩みに似た、それぞれの表情があるのみだった。


「勝者は敗者に何をしても大抵は闇に葬られ許されます。それが戦というもの。

 ですが、もし帝国と連合王国とのいざこざ等を避けられたいのでしたら、兵を集めて弔いをさせることをお勧めします。宴も労いも、勝利を称えることも大事でしょう。

 ですが私どもの南下は続きます。城郭都市の扱いについては連合王国軍の方々に任せ、功績ある者にのみ宿に泊まることを許し、他は野営と祝杯を許す程度がよろしいかと」

「……わかった。酒の用意は頼んでもいいか」

「承りました」


 ヘレナ子爵が礼をして、去ろうとしたところへ言葉を足す。


「あと、留まる間の城郭都市内で兵を見張って欲しい」

「私の兵に監視役をということでしょうか?」

「そうだ。それに監視役であれば城郭都市内で泊まるのも必然だ」

「なるほど。…………ふふん。たしかに適任かもしれませんね。では裁量で裁くお許しもください。それが条件です」

「認めよう」


 ヘレナ子爵の助言に従い、制圧が終わると、城郭都市ライスは連合王国軍のルイス部隊将に任せ、死者の弔いを行い、一番槍、二番槍、三番槍の功を称え、褒賞を約束した。

 功ある者への宿も無事手配され、都市の監視役もヘレナ子爵に一任し、帝国軍は野営した。


 その晩は、ヘレナ子爵が用意してくれた酒を振る舞い、兵たちを労うべく陣内を歩き回る。兵たちの様子はいろいろで、真面目に武器の手入れをする者、休む者、酒ではしゃぐ者がもっとも多く、欲望を語る者たちまで。そして中には不満を語る者も。それでも活気があるのはたしか。礼には礼で返し、見回りを終える。

 

 そして、戦場の跡へ、アーロンのみを護衛として連れ、足を運ぶ。

 城郭都市の門前は夜陰の中、既に死者は埋葬され、矢や武具も粗方は回収され、日中の出来事は嘘のような静けさだった。


「……アーロン。戦とは儚いものだな」

「儚い、ですか?」

「あぁ。父上の話ではもっと、名誉を懸けた華々しいものだと聞いていた。高揚感に溢れて、名誉のため、褒賞のため、そして何より勝つため。そして勝てば皆が喜び私を信じ、讃える……そう思っていたんだ。

 きっと私もそのように語り、兵の武勇を褒め称え、それを勝利として語るのかもしれない。……けれど、その景色も、たった数時間でこの静けさだ。数年後、数十年後には帝国史からも忘れられてしまうのだろうな、と思ってな」

「そうかもしれませんな。……ですが、御身、自ら戦の場に立たれ、兵たちは栄誉と褒賞を得られた。彼らにとっては、それは自らの誇りとし、家宝とするでしょう。戦場の兵たちは、歴史に名を残すことよりも、主様に自らの名誉を認められることを望むものです。そこに周囲からの尊敬と憧れという、命を懸ける価値があるのです」

「そういうものか?」

「断言しすぎましたな。もちろん異なる目的の者もいるでしょう。なればこそ主様は胸をお張りください。前線に立たれた主様の姿。それが必ず勝てる理由と信じれば、兵たちは我先にと戦うでしょう。この度の戦いは、その印象としては最高のものでした。先代様もご存命であればさぞお喜びになられたでしょう」

「ありがとう。アーロン」


 戦いの前線を何度も経験してきたアーロンの珍しく感情的に語る姿。

 血すら乾き、消えた地を眺め、先ほどの戦場の景色を思い浮かべた。


「…………」




 陣地に戻ると、夜も遅いのにヘレナ子爵が訪れ、待っていた。


「何か忘れていたか?」

「いえ、……予感がしたもので」

「予感?」

「ええ。ただ…………。備えるに越したことはないかと」


 ヘレナ子爵にして驚くほど曖昧で要領を得ない言葉。

 そんな報告で、その日は終わった。


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