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4-3 突撃

 二の丸から三の丸へ続く。単騎駆けする気で進めば必ずキースとオリバー、そして騎兵、歩兵たちが追いかけてくれる。

 心強さに加えて、見なくてもわかる兵たちの姿とサンフィールド旗と帝国旗。


 賊軍の鈍い初動に対して騎兵で突っ込む。

 戦はすぐさま乱戦となり、それでもひたすらに騎馬隊を中心とした先鋒として三の丸の正門へとたどり着いた時には、息があがっていた。

 ただ、振り返れば城を守る兵たちも増援として出撃を開始する姿も見え、乱戦となった三の丸では戦いもサンフィールド兵に勢いがある。


「フランク!」

「こちらに」


 駆け寄るフランクは、息こそ上がっていたが声はしっかりしており、その表情から士気も十分にみえた。


「歩兵の指揮を任せる。三の丸を奪回せよ。私たちは騎兵で本陣に突撃する」

「承りました。ご武運を」

「フランクも」

「第一関門で生き残った勇者たちよ! 私に続け! 栄光はこのすぐ先だ!」


 騎兵たちの歓声に頷き、三の丸の正門から城下町へ出る。その目の前の敵部隊も突破した時だった。

 人ひとりすらいない、不気味なまでに静けさのある道の交差点、その前方に現れた人とも思えぬ砦で見た大男が、異様に黒く大きなオオカミに騎乗した姿だった。


「な、なんだあれは」


 後ろから震えた声をあげる兵。そして、動揺の声が後ろから広がっていく。

 自身の手も震えている事に気づき、剣を握りなおす。


「シトとランを連れていなかった事は、判断ミスか……いや、当主としては最高判断だったな」


 後ろの兵たちの恐怖からくる動揺の声が逆に自身を奮い立たせる不思議な感覚があった。

 理不尽に対する怒り。それが無謀だと思考では理解しながら止められない衝動が剣を前へ向けさせる。


「恐れるな! シトとランは倒せていたぞ! 我らサンフィールドの精鋭に出来ないはずがない。私に続け!」


 理不尽に負けたくない。個人では称賛され、当主であれば愚か者となる反発への精神で交戦が始まろうとした時だった。


 突然、目の前の閃光から眩しさに目を閉じ、直後に轟音とともに起こる爆風。

 突撃していた馬たちも足を止める。その眩しさが収まり新たな足音を察して目を開けた先にあった光景。


 二つの影は後ろに騎兵を連れながら徐々にはっきりとして見えた。

 その先頭には白銀のドレスをまとった金髪のツインテール姿の少女。そして、もう一人は全身の黒い鎧にその顔を隠す仮面。

 そして、その二人に少し遅れて騎馬隊が集まる。


 白と黒が率いる騎馬隊。帝国貴族であれば知らぬ者はいない。


「『双璧の魔女』」

 

 帝国の誇る第五騎士団の団長、副団長の二つ名をキースが呟いた。

 対して、白銀のドレスを纏う、神々しい姿の少女は、値踏みするようにじろじろと見ながら言った。


「ねぇ、クリス。必死に頑張っても報われない正義を助ける。それってまるで救世主みたいで私たち最高にカッコイイよねぇ」

「そうだね。それをサンフィールド伯爵に聞こえるように言わなければかっこいいかもしれないね。見方によっては、ぽっと出が美味しい所を総取りしたとも言えるけど」

「…………何よ!私に恨みでもあるの!」

「馬も鎧も汚れる土煙」

「器ちっさ」

「じゃあ、アイリスは私のせいでドレスが汚れても怒ったりしないよね」

「バカなの。殺すに決まっているじゃない」

「傲慢が過ぎる!」

「生殺与奪は神の特権、当然でしょうに」

「その傲慢も過ぎれば人は神を殺すんだよ」

「そうね。でもクリスはその傲慢で今も生かされているじゃない」

「…………おっしゃる通りです」

「勝ったわ!」


 満面の笑顔で拳を天にあげるアイリス騎士団長。

 生死を懸けた戦場とは思えないやり取りにその場にいる誰もが『双璧の魔女』に目を向け、ただ呆然とやりとりを眺めていた。周囲からの視線にようやく気づいたアイリスはこちらを見た。

 そして、値踏みする視線を向けて不敵に笑んだ。


「あぁ、あなたがサンフィールド伯爵ね。……そうね。ある本で読んだ言葉の一節を借りてあえて言いましょう」


 目の前の少女はポーズを決めてこういった。


「ここは私たちに任せて先に行きなさい!」

「……それ、アイリスが死ぬやつでは?」

「私にそんなことが起こるわけないじゃない。神を殺せるのは神か神殺しだけよ」

「実はそういう迷信を気にいってる?」


 直後、彼女の背後から狙撃の矢が少女めがけて襲いかかったが、矢を見ないまま黒い騎士が剣で叩き落とした。


「…………」

「…………」


 こちらを見るアイリスと目が合い、言葉への返事として頷く。


「サンフィールド軍、突撃! 私に続け!」


 サンフィールド兵たちはこの空気をよく読み、歓声とともに走り出す。

 そして、再び現れた賊の兵たちを薙ぎ払い、突破した先にあった本陣に居たのは意外な相手だった。


「……ハワード・ヘックス。それに」


 彼は椅子に座り、防具を身につけ軍配を手に睨んでいた。そして、その隣に馬上に乗っていた男。


「アーロン」

「主様……いえ、元主のサンフィールド伯爵。よくぞご無事でここまで」

「理由は?」

「今更それを言って何の価値があるのです」

「……それもそうだな。アーロン、其方は私が自らの手で決着をつけよう」

「成長しましたな」


 阿吽の呼吸でお互いに馬を走らせ、一撃を繰り出す。


「主様……お見事です」


 馬上からアーロンが崩れ落ちる音がした。そこへ何かを感じることはなかった。

 振り返らないまま、目の前に迫ったハワード・ヘックスを睨む。


「あなたが首謀者だったのですね」

「ヘックス家の子飼いだったサンフィールド家が偉そうに。だいたい若造のくせして、」


 話を聞く気などなかった。

 ハワードを守ろうとした側近らしき二人を斬り、続いて、軍配で防ごうとしたハワードの首を刎ねた。

 周囲のハワード兵たちが、その光景を目撃し立ち止まった。


「キース、オリバー、殲滅しろ」


 察した、オリバーとキース、そしてサンフィールド騎兵たちがヘックス家の家臣を斬り伏せていく。

 こうして賊軍の総大将の首をとり、戦う者は斬り、逃げ遅れた者も斬り、瞬く間に本陣はサンフィールド兵だけの空間となった。

 その直後だった、一息つく間もなく陣幕を突破した集団が現れた。

 その騎馬隊には帝国旗が掲げられ、その先頭にいたのはヘレナ子爵だった。


「あらあら。私が遅れをとってしまうなんて……。神の見えざる手が動いたようですね」

「そうだな。神の助けがあったおかげかもしれない」

「何をおっしゃるのかと思えば……。神は人を助けたりしませんよ」


 ヘレナ子爵は微笑んだ。しかし、その笑みの見せた瞳には背筋が凍る死を意識する感覚があった。


「この遠征は始まりから終わりまでずっとそうだったではありませんか」

「…………」


 返せる言葉はあった。ただ口を開けても言葉にできず、歯を食いしばり剣の柄を強く握り、睨むことしかできなかった。


「この勝利をサンフィールド伯爵はどう活かすのか……。実におもしろいですね」


 ヘレナ子爵が合図をおくると、ヘレナ隊は西へ進路を取り、もう戻ってはこなかった。



 ハワード・ヘックスの討死。

 これによって戦の趨勢は決した。


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