閑話休題 ~お盆休み~
八月も半ばを過ぎて、私の会社も一週間程度のお盆休みに入りました。
私は実家暮らしですし両親も東京の人間なのでお盆の帰省は関係ありません。
せいぜい両親の菩提寺にお墓参りに行くくらいです。
親戚の集まりなどもないので正直お盆休みは暇です。
コミュ障の私には学生時代からの友人もいませんし、地元の同級生たちとも交流はありません。
そんな私を見かねたのか、幸子さんがお出かけに連れ出してくださいました。
渋谷に新しく出来た商業施設を一巡りして、先日テレビで紹介されていたというオーガニックカフェでお昼。
うろうろと歩き回るには暑すぎるため、涼を取る目的も兼ねて映画館で映画鑑賞。
その後で今流行りだという天然氷を使ったかき氷屋さんでおしゃべりすることに。
「しかし、愛香も変われば変わるもんだよねぇ」
山盛りのイチゴ練乳かき氷と奮闘しながら、幸子さんはしみじみとおっしゃいます。
「何がですか?」
私が食べているのは抹茶あずき。
何しろ量が多いので、頭がキンキンし出さないか心配です。
「何がって・・・髪型と服装」
「ああ・・・」
純さんに美容院に連れていっていただいてからまだそれほど時間がたっていないので、時々自分がイメチェンしたことを忘れそうになります。
自分の中のセルフイメージはいまだに地味子のままですし。
「ホント、もっと早くやればよかったのに。さっきも気づいた? 通りすがりに愛香のこと振り返っていった男が何人もいたよ」
「え、そうなんですか?」
それは私の格好が変だからでなく?
幸子さんは絶対にいい意味で言ってくださっているのですが、どうしても想像が悪い方へいってしまいます。
「そうだよー。だって愛香めちゃくちゃ可愛くなったもん。あんなホストに貢いでないでちゃんと彼氏作りなよー。もったいないよ、本当」
「別に貢いでいるわけではないのですが・・・」
正直、私は“貢いだ”と言えるほどお金は使っていません。
「そういう幸子さんは最近彼氏さんとどうですか?」
「えー、私? 私は順調ですよ」
確かに、そう答えた幸子さんの指にはファッションリングがはまってます。
彼氏さんとおそろいだそうです。
近頃では私もペアルック(古い)やおそろいに憧れますし、素直に羨ましいと思えるようになりました。
すると、私の携帯がLINEの着信音を鳴らしました。
幸子さんに了解を取って見てみると純さんからです。
『毎日暑いねー。今何してるの?』
『暑いですね。お盆休みなので、今日は会社の同僚とお出かけしています。純さんは何をなさってるんですか?』
『俺も買い物してるー』
『お店もお盆休みでしたっけ。熱中症にはお気をつけくださいね』
『ありがとう。愛香ちゃんも気をつけてね』
最近ではホストクラブも福利厚生に気を遣っているところが多いようで、ブルダも寮が完備されている上にお盆休みや慰安旅行もあるようです。
『ありがとうございます。お盆休みが明けたらまた純さんもお仕事大変でしょうから、今はゆっくりお休みくださいね』
『そうだね・・・。でも八月は閑散期だから・・・今月は厳しいかもしれないんだよね』
そういう時期もあるのですね。
私にもっとお金があればたくさん通って差し上げられるのですが・・・。
『愛香ちゃん、今月もう一回くらいお店に来れない?』
次に届いた純さんからの返信に、私はハッとしてしまいました。
おそらく純さんは他のホストさんに比べてあまりうるさく営業する方ではなく・・・今まで来店を促されることは一度もなかったのですが・・・。
このまま通い続ければ一度くらいはそう言われる日もあるのではないかと薄々思っていましたけれど、意外に早くその日が来たようです。
私は何と返信しようか一瞬迷って、チラリと幸子さんに視線を向けました。
でも幸子さんはまだかき氷の山と格闘中のご様子。
私はすぐには返信できませんでした。
しばらく迷って・・・でも、結局答えは最初から決まっているのです。
純さんに求められたら嫌と言えるはずがありません。
先日美容院に連れて行っていただいたことですし・・・そのご恩返しだと思えば。
『分かりました。いつうかがえばよろしいですか?』
『え、本当に来てくれるの? ありがとう! 締め日だと一番嬉しいけど、愛香ちゃんの都合のいい時で大丈夫だよ』
締め日というのはその月の最終営業日のことです。
少し考えた末、お店のお盆休みが明けた日に行くことにしました。
カレンダーでは平日ですが、私の会社はまだお休みです。
『本当にありがとう。じゃあ、お店で待ってるね』
純さんが喜んでくださってるのを見ると、承諾してよかったなと思います。
金銭的には少々厳しいですが・・・まぁ、少しはボーナスも出ましたし、何とかなるでしょう。
私としては純さんにお会いできる時間が増えるのは嬉しい限りです。
突然ご機嫌になって鼻唄など歌い出した私を、幸子さんは不思議そうに眺めていらっしゃいました。




