入店4回目 3 ~痛客~
「もういいわよ! あんたじゃ話にならない!」
業を煮やしたらしい女性は立ち上がると黒服さんを押し退けてお店の奥の方へと歩いていかれます。
どうしても気になって目で追っていると、お店の一番奥まった席、私からも辛うじて見える席までツカツカと歩を進められました。
私からは頭しか見えませんが、その席に女性と男性が座っているのが分かります。
「ちょっとあんた、どういうつもり!?」
私の席まで聞こえる声で女性が怒鳴っています。
「いぶきはあんた一人のものじゃないのよ!? こっちにも来させなさいよ!」
当然のように黒服さんはその女性の後を追いかけて制止しようとなさいましたが、女性は自分の腕にかけられた手を思いきり振り払いました。
「だっていぶきがあたしと一緒にいたいって言うんだから仕方ないでしょ?」
すると、エースらしい別の女性の声が聞こえてきました。
その余裕ぶった話し方は、どこか相手を挑発しているようにも思えます。
「仕方ないってなによ! こっちだっていぶきには金かけてんのよ!」
「あたしなんて先月タワー二回もしちゃったんですけど。悔しかったらあんたもタワーしてみたら?」
タワーっていうのはシャンパンタワーのことだと思います。
私はまだブルダで実物を見たことがないのですが、グラスをピラミッド型に組んでシャンパンを流す例のやつですね、多分。
値段は確か50万くらいすると聞きました。
エースさんに言い返す言葉を見つけられないでいるのか、女性の声は聞こえてきません。
代わりにいぶきさんらしき男性の声がお二人をどうにかいさめようとしているのが伝わってきます。
「だいたい、金かけてるったってせいぜいショボいシャンパン下ろすくらいでしょ? それであたしに張り合おうなんて百年早いっつーの」
エースの女性は完全に小馬鹿にした口調でそう言い放ちました。
「なんですってぇ!?」
そこで、女性の堪忍袋の緒はプツンと切れてしまったようです。
大声で叫ぶと、どうやらエースさんに掴みかかろうとしたようでした。
すかさず黒服さんが止めに入り、周りにいらしたホストさんたちも立ち上がります。
「いい気になってられるのなんて今のうちなんだからね! どーせあんたなんて金しか必要とされてないんだから! いぶきと寝たこともないくせに!」
「ふざけんのもいいかげんにしなさいよ!?」
今度は女性の挑発にエースさんが乗った形になり、あわやキャットファイトが始まろうかという一触即発の事態。




