入店4回目 2 ~痛客~
実は、その女性のことは少し前から気になっていました。
担当ホストさんがお隣に座ってらっしゃらない代わりにヘルプの方がついてらしたのですが、そのヘルプさんが話しかけても一向にお返事されず全てスルーなのです。
おまけに、途中からヘルプさんを完全に無視してスマホをいじりだす始末。
もちろんヘルプさんはどう対応したらいいのかとお困りで、お気の毒だなぁと思っていたのです。
「いぶきはいつこっち来るの? さっきから待ってんだけど」
「いぶきさんは他のお客さまの対応中でして・・・」
「そんなの分かってるわよ。でももう三十分もたってんのよ? 早く呼んできてよ」
「分かりました。少々お待ちください」
どうやらいぶきさんというホストさん担当のお姫らしいです。
黒服さんは丁寧に応対して頭を下げるとその場から立ち去りました。
でも、その女性は明らかにイライラした様子で貧乏ゆすりをしています。
一人のホストさんに対して、そのホストさんを担当するお姫が二人以上同時に来店することを“被り”というらしいのです。
ランキング上位の人気ホストさんであればお客さまが被ることなど日常茶飯事で、それでもそれぞれのお客さまにどう楽しんで満足して帰っていただけるかというのが腕の見せ所でもあります。
黒服さんはほどなくして戻ってこられました。
「申し訳ありません。いぶきはまだ席を離れられないとのことですので・・・。もう少々お待ちください」
恐縮した様子でそう言うと黒服さんは深々と頭を下げられます。
「ふざけんじゃないわよ!」
ところが、イライラが頂点に達したらしい女性はそう声を荒げました。
突然の大声に、店内の何人かが何事かと振り返ります。
「いぶきのエースだかなんだか知らないけど、こっちだって同じ金払ってんのよ!? 平等に接客するのが筋ってもんでしょ!?」
続けてそう怒鳴り付けるお姫に、黒服さんは頭を下げたまま。
ちなみに「エース」というのは「そのホストさんにとってもっとも重要な客」のことです。
ホストクラブに通うお客さまは主に三つに分類されます。
一つ目は“太客”。
これは耳にされたことがある方も多いかもしれません。
ホストクラブだけでなく、広く接客業界で使われることもあるみたいです。
要するに常連かつたくさんお金を使ってくださるお客さまのことですね。
二つ目が“細客”。
来店頻度や使用金額が太客に準ずる方々。
最後が“繊維客”です。
言うまでもなく、私のように月一、二回しか来店せず、お金も大して使わないお客さまのことを指します。
それにしても繊維客って・・・。
お店に対する貢献度が低いから仕方ないのかもしれませんがちょっとへこむネーミングです。
必ずしもエース=一番の太客というわけではないようですが、今いぶきさんが接客中なのがいぶきさんのエースだとすると、そのお客さまからしたら心中穏やかではないのは当然かもしれません。
それにしても、そのホストさんのエースが誰かなんてどうして分かるのでしょう?
店内では被りのお姫同士の接触は禁じられているはずなのに。




