5.ニサーカの予言
戦いのあと気絶したままの三人組が連行されながら、僕ら二人はニサーカ王国の第一王子・ソニスの招待によって王宮に足を踏み入れていた。アスチルは流石に状況を理解したのか、ずっと黙っていた。
「王子、僕たちはこれからどちらへ?」
「早速なのですが、噂を追っている旅人を父上にご紹介しようと思います」
「...いきなり国王に会わせていただけるのですか?」
「安心してください、父上の側近を通して面会の準備をさせていますから」
「あ、あの...ソニス王子、今更ですが大変失礼なことを発現してしまい申し訳ありませんでした。」
「あなたはこの国の者ではないと判断できましたので、今回は不問に付しますよ」
「あ、ありがとうございます!」
長い廊下を歩いて一番奥、他とは比べ物にならないくらいの大きな扉があった。ソニスは三回ノックをすると扉の向こうの声を待った。
「父上、ソニスです。側近を通して伝えた旅人とその同行者をお連れしました」
『入りなさい』
「お二人とも、私は許しましたが父上は違います...無礼のないように」
「「はい」」
扉が開くと先に王座が二つあり、片方は国王、もう片方は王妃が座っていた。一定の場所まで近づくとソニスは横に場所を移し、歩ききった僕は膝を折った。アスチルも横目で僕を見ながら動きを真似した。
「ソニスよ、この者たちがお前の言う旅人とその同行者か?」
「はい、本人様たちです。」
よく見るとソニスの横後ろにソニスと同じくらいの年と思われる女の子...おそらく王女が立っていた。遠くだからはっきりしないが、こっちを睨んでいる?
「旅人のガーベラと申します。ソニス様の招待により参りました」
(...?)
小声ですぐ横の耳で空気を振動させた。
(君も挨拶しろ!)
(あっ、ああ!)
「ええと...ガーベラと旅を共にしております、冒険者のアスチルです」
「ニサーカ王国現国王のセイフ=アレクス・ニサーカだ」
「国王の妻、ミリア=アレクス・ニサーカです」
とても威厳の感じられる重厚な声が空間中に響いた。
「おまえたちは、町で騒ぎを起こしていた外道者を制圧してくれたと聞いている。国を守ってくれたこと、我からも礼を言うぞ。」
「誠に光栄です」
「お主のことだからすでに知っているだろうが、最近世界に混乱を招くような噂が広まった。それを機に我が国でも先ほどのような外道者が増えてな、できるなら事を治めて確立した平和を取り戻したいと考えておる」
一国の王がただの”噂”を気にしていることにまず驚いた。僕は村でも、他の場所でも笑われて馬鹿にされたことしかなかったのに、アスチルを除いて共感してくれそうな人は初めてだった。そのせいなのか、今までの僕の行動が、どんな形であれ報われそうになっていることに安心感を覚えていた。
「だが、噂はただ噂だ。そのために騎士や魔導士を派遣するとなれば国民は疑問を持つに違いない、だから我は噂の真相を確かめてくれる協力者を探していたのだ」
「そして王は私に目を付けたのですね?」
「そうだ。世界は噂をただのいたずらとしか考えておらぬようだが、我としては平和を乱す要因はすべて取り除いておきたいのだ。どれだけ小さな可能性だとしてもな」
「では、私たちは何をすれば良いのでしょうか?」
「単刀直入に問いたい。一時的に我が軍の協力者として、噂の真相を確かめつつ状況を報告していただきたいのだ」
この王は本気だ。
「もちろん謝礼は用意させていただきますわ。協力してくださらない?」
王妃も本気なのか?ここまでされると逆に噂を追うことが馬鹿馬鹿しく感じてくるのだが、どうしようか...
「我も妻も強制のつもりは一切ない、考える時間も必要であろう?ガーベラ殿はもちろん、アスチル殿にも旅の仕方を決める権利はある。我はどんな答えが返ってきても、それを尊重することを約束しよう」
「...国王殿、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
(...?)
アスチルが部屋に入ってようやく二言目を放った。礼儀に背かないために目を向けることは難しかったが、これは疑問をぶつけるときの声だ。死刑にならないことだけを祈って会話を聞くことしかできなかった。
「許す、話してみなさい」
「国王は噂の真相を掴めた後、確立した平和が訪れてほしいと仰いました。しかし、俺...じゃなくて私には、”国を背負う”としてまで、ただの噂を気にかける理由がわからないのです。なぜか教えていただけませんか?」
(・・・)
「あなた、夫になんと無礼な発言を...将兵たち、この者を捕らえよ!」
「よいミリア!...さて、我が国王として噂を追う理由と言ったな?」
アスチルは国王から一秒たりとも目を逸らさなかった。
「まず、今からする話は公にすることができんのだ、すまないがガーベラ殿とアスチル殿、そしてソニス以外の者はこの部屋から退出してもらう。良いな?」
王の一言で王妃と王女、他の将兵たち全員が部屋から一斉にいなくなった。
「先ほども言ったが、この話は公にできない。故に絶対秘密を約束してほしい」
「約束します」
「私も誓います」
「うむ...本来これを知ることができるのはこの国の”王”のみだ、つまり先代の国王たちと我、そして次期国王となるソニスのみが知って良いことなのだ...説明を始める。我々は王になる教育を受けるうえで、ニサーカ王国とその王の歴史について書かれた書物を読むことになる。しかしそこにはひとつ、まだ誰にも理解されていない文章があるのだ」
「...一文ですか?」
話を理解するために質問をしながら聞く。
「そうです、その一文に書かれているのは『いつかの時代、”この世界”を揺るがす革命的な事件が起きる』とだけ。先代国王も父上の代もそのような出来事が起こることは今まで一度も無く、平和を貫いてきたため、誰もこの意味を知らないのです」
「なるほど、そしてこの前一時的とはいえ世界が揺らいだ噂が流れた...」
「この書物を書いた初代ニサーカ国王の予言と私たちは見ていて、もしそれが本当なら我々は”革命的な事件”を防ぐ必要があると考えました」
「アスチル殿、これが現国王の我と...次期国王ソニスが噂を追う理由の答えだ」
「...ええ、重要なお話を聞かせていただきありがとうございました」
「他の者には別の理由を話しているが、決して公に出さないように」
「ええ、理解しています」
「協力の件と共に考えてくれ、今夜は王宮の客室を使えるように手配しよう」
国王との面会を終え、ソニスに連れられて客室に案内されることになった。客室は一人一部屋のものらしく、実際に入ると目で見るからに昨日の宿と広さが段違いだった。四人くらいなら不便なく使えそうなものを一人で使えるなんて...やはり貴族はいろんな意味で何を考えているのかわからない。
部屋に荷物をまとめると、アスチルと共に警備員の許しを得たうえで、建物の階段を上った先にあるソニスの部屋に収集された。次期国王の部屋周辺なだけあって、見張りはとても強力そうな人が数名のみしかいない。
「ガーベラ殿にアスチル殿、お待ちしておりました。こちらです」
三人揃うと、また長い廊下を歩き始めた。
「失礼ですが、お二人は今おいくつで?」
「僕もアスチルも19です」
「奇遇ですね、私ももうすぐ19になるんです!」
やけに嬉しそうだった。王族同士の交流も、学校のような場所があるらしいからしているはずなのだが...珍しいことには変わりないのかもしれない。
「そういえば、ちゃんとした自己紹介をしていませんでしたね?これが私のプロフィールです」
画面を出されているだけなのにとても緊張する。
〈「名前:ソニス=ルーカス・ニサーカ」「年齢:19」「職種:王子」「ハートスタイル:光」〉
見ているだけで自分が小さな存在に思えてくる。特に王子なんて今まで見てきたカードで初めて生で見た。
(しかも全武器レベルが3以上、全魔法も4以上...才能でも努力だとしてもすごい...)
「・・・」
「どうかしましたか?」
「あぁ、はい...国の王族のプロフィールなんて見たことがなかったのでつい」
「確かに普通は見せませんね、ですが私はあなたに興味があって部屋に呼ぶことにしたんです。外道者を倒してくれたという住民の証言と私が責任を持ちますので、安心してくつろいでください」
「ところでソニス王子、噂を追う冒険者は俺ら以外にもいなかったのk...ですか?」
「...いるにはいましたよ。ですが正直言わせてもらえば実力不足、中には遊び感覚で無関係な人に拘束行為を行っている者もいるほどで、本気で立ち向かってくれる方を探すのにとても苦労しました」
「本当に噂を信じる人間はほぼいないに等しかったのか...」
「そしてある日...冒険者とは名乗っていませんでしたが、ガーベラの存在を知った」
未だに信じられない、一国の王子にまるでスカウトされている形が起こっていることが。有力な冒険者を差し置いてただの噂好きな旅人に目をつけるなんて...自分で言うのもなんだが、王子は人を見る目があるらしい。
「兄上!」
もうすぐ王子の部屋だと言われたすぐ後のタイミングで、後ろの方から少女の声がした。でも、ここにいられる女性と言ったら王妃と...
「...どうしたんだ、ソニア?」
王女しかいないだろう。
「兄上の連れてきた客人に興味が湧きましたの、ぜひ挨拶だけでもと思いまして」
「そうか...お二人とも、部屋に入る前に彼女を紹介させてください。私の双子、ソニア=ルナ・ニサーカです」
「ええ、ソニアです。ガーベラ殿とアスチル殿と言いましたね?良ければ、あなたたちの旅の話をわたくしにも聞かせてほしいのですが...」
「ガーベラです。王子の紹介の通り、旅をしている者です」
「同じくアスチルです」
物腰が柔らかそうな少女だった。これでもソニス王子と同じ19なのか...一見幼さが残っているように見えるが、そこまで僕が知る必要はないか。
「ソニア、私はこれでも大事な話の続きをするつもりなんだ。話のタイミングがいいところでお前も入れてやるから、それまでは外で待っててくれ、いいな?」
「フフ...承知いたしました。では、また後ほどお会いしましょうね?」
ソニア王女と目があった。
(...ん?)
やはり王族は一般住民の話を実際に聞くことは少ないんだと、誰かが言っていた気がする。王子も王女も、僕らの旅の話を聞くことで同じような日々を過ごしているであろう生活に刺激を与えることになるのだろうか?いや、そもそも貴族の一日なんて知らないんだ...知ったようなことを考えるんじゃないよ、ガーベラ。
客室用の部屋を見た後だから想像に難くなかったが、案の定王子の部屋も広い。
「先ほどはソニアが失礼しました、そちらにどうぞ腰を預けてください」
「ありがとうございます...」
「もし良ければお二人とも、私のことは”ソニス”と呼んでいただけませんか?ひとまずこの空間では、あなたたちと私は友人のつもりで接したいのです」
「もちろん構いませんよ、ソニス」
「俺もその方がありがたいな、俺らのことも”殿”は付けなくても構わないぜ?」
「わかりました、ガーベラにアスチル...改めていい響きだ」
「ところで王子...ソニア王女は確か、この国の第一王女なんですよね?」
「はい。実は現国王の子は長男である私と長女のソニアだけで、第一王子・王女とは名乗っていますが、下の子は存在しません」
「雰囲気は王子と同じ品のある人物に見えt...ましたが?」
「もちろん公に姿を現すときはしっかりしてますよ?でも...私生活となれば話は違います。事があれば私にちょっかいかけに来る困ったやつですよ、あいつは」
「先ほどの会話を見ていた僕には、王子にあまり笑顔が見られなかったように感じます、双子の関係も単純な話ではないのでしょうね?」
「お気遣いありがとうございますあなたにも兄弟姉妹がいるのですか?」
「ええ、まあ...」
「...?」
つかみのような話はさておき、王子は噂が広がることで起こりうる可能性の話を、これまでの行動と共に話してくれた。現国王も問題に対処しようと努力しているようだが、国王としての仕事に追われて今は王子に事の大部分を任せているらしい。
「起こりうる可能性について、具体的な想像ができているんですか?」
「ええ、書物から読み取れるだけの情報を集めて父上と編み出した答えがあります。一言で言い表せば...『別世界との融合』です」
「...なんだって?!」
「...なんだと?!」
二人には考えなくても想像できる。”この世界”と”あの世界”のことだとすぐにわかった。




