6.兄妹の誘い
「...『別世界との融合』です」
「...なんだって?!」
「...なんだと?!」
”この世界”と”あの世界”のことだ。
ニサーカ初代国王の予言に、一気に信頼度が増した。アスチルの話をどこで切り出すべきかに迷った。
「信じられないかもしれないけど、我々のいる世界とは別の次元の世界があると考えれば、矛盾がないんだ」
「アスチル...?」
「...仕方ねぇよ、今の俺らにはすんなり受け入れられてしまう事実だ」
二人がもっと驚くと思っていたのに、全く驚かないどころが、当たり前のような雰囲気を出しているのに逆にソニスは驚いていた。
「な、なぜ二人は普通に会話しているんですか...別の世界が存在するんですよ?!」
「そのことなんだが、俺から言うことがあるんだ...大声出すなよ?」
「...はい?」
「...俺、実は別の世界から来たんだ。」
アスチルはソニスなら理解してくれると思っていたのだろうが、ガーベラは真逆の結果を容易に想像できていた。
「...はい?お疲れでしたら一度休憩しましょうか?」
(...やっぱりな)
「あれ、もしかして信じてもらえてない...?」
「王子、気持ちはわかる。けど彼の言うことには矛盾が無いのも事実なんだ」
「!・!・!・!」
本当に何も喋らなくなってしまった。まあ、普通はそうだろう。いきなり別の世界から来たんだと言われて簡単に信じる方がおかしい、だからソニスは正しい。
「そう、俺転生者なんだよ!」
「一応聞きますが...アスチルの言う『転生』は”世界を転移すること”や、”生まれ変わること”の意味で間違いないですか?」
「ああ...そうだが?(この返答どこかで聞いたような...)」
僕はこの場で、二人に求められない限り何も言わないことにした。
「やはり信じられない...やはり一度休みましょうか?」
「...待て待てぇ!信じてくれよぉ、本当に俺”転生者”なんだってぇーーー!!!」
ドアの向こうで、我慢できなかったソニアが耳を傾けて話を盗み聞きしていた。ソニスの側近部隊の見張り役が王女に離れてもらうように説得していた。
「ソニア様...ソニス様の言いつけは守らなくてもよろしいのですか?客人との重大なお話を盗み聞きはやはり...」
「黙りなさい...今大事なことを聞いているの」
「しかし...!」
中々引き下がらない王女に見張り役は手を焼いていた。
「お前、いつから兄上の元にいるの?」
「はっ、3年前よりソニス王子側近部隊として仕えております!」
「言いたいことはわかるが、私とて国の直の娘。国を治める一族の者として多くの人の話を聞くことは必要なことだと思うが...お前はそうは思わないのか?」
「お言葉ですがソニア様、将来的に次期国王となるのはソニス様となっております。ソニア様にはソニス様とは違う重要な役割をお持ちのはずです!」
「黙りなさい!...これ以上物を言えば父上に一族に対する反抗の意思ありと見なし、王座の前に差し出しますよ?」
(ソニア様、ソニス様の言いつけを守るどころか俺を脅すとはなんて卑怯な...!)
しかし自分がクビにされるわけにもいかないため、渋々了承するしかなかった。
「・・・」
「...わかればいい、あとこの行為も見なかったことにするんだよ。勝手に伝えれば、わかるね?」
「...承知いたしました」
しかし、今の会話で重要なことを聞き逃してしまった可能性が高い。せっかくの一般人の来訪者が来たというのに会話ひとつもまともにできないまま帰られるのは嫌だった。
(もう...今ちょっと大声が聞こえた気がするのに邪魔が入るのよ、兄上まであんな風に言うことないでしょう...?)
「あーもう、やっぱり耳を澄ましても全く聞こえない!」
ソニアは自分だけ仲間外れにされた気分になってイライラしていたようだ。
「じゃあ、つい昨日に”この世界”に冒険者・アスチルが誕生し、魔導書と服装が整えるために初めてのニサーカ王国訪問となったということか。」
「そう。元々”あの世界”での名前があったが、怪しまれないためにガーベラと同じく花の名前の一部を借りて旅を始めたってわけだ」
「...話の筋は通っていても予言以上に驚いた気がするよ」
「俺ももう二度とこの受け答えはしたくないな...」
「でも、話してくれてありがとう」
「さて、話も整ったことだし...これからの動きをどうするかだね」
だが相手はまだ噂でしかなく、敵がいたとしても姿が全く見えない未知の領域の推測をしながら動くことしかできない。
「僕ら二人は、これからも噂の真相を追うための旅を続けようと思う。でもニサーカ王国に報告をすることになったとして、どんな形で報告すればいいんだ?」
「その件なのですが、私がひとつ利用できそうな機会があります」
「...”利用できる機会”ってなんだぁ?」
「”この世界”の各国の貴族は二十歳前後に一年間、自国以外の場所へ旅立つ、または自国に同じくらいの年の方と共同生活を送るという決まりがあります」
「へぇ~...でもソニスがそれを使って報告をするとなっても限界があるんじゃ?」
「そこで、父上にお願いし『自国以外の場所へ旅立つ』と言う名目で、私があなたたちの旅に同行するんです。そうすれば自国からは旅立つことになりますし、王子として平和のために責務を果たせるとなれば十分な使い方だと思います」
「...国王は許してくれるかな?」
「...一番の問題はそこですね」
王子が僕の旅に同行するとなれば、伝令も出しやすい。国王の頼みを聞く前提になっているが、旅が進むなら悪くない話だ。ただそれ以前に王子の身を保証できる人間が誰もいない、もし王子が死んでしまうようなことがあれば二人まとめて死刑は確定だろう。旅は面白そうだが責任を果たせるか不安だ、葛藤している。
「私が国王に頼むのは自分でなんとかしますが、その前にあなたたちの答えが出ないといけない。父上の申し出友人としても王子としても、改めてお願いしたい」
「アスチル?」
驚いた表情もせず、真顔で僕の返答を待つスタンスを取っていた。
「旅のリーダーはあんただ、俺は答えがなんでもついていく」
「...わかった。王子...僕ら二人は国王の申し出を受けようと思います」
「...ありがとうございます!」
「よっしゃ、やる気出てきたぜ!」
「ソニス王子、もう一度国王をお呼びできないだろうか?」
「承知いたしました!」
自分で言うのもなんだが、意外とあっさり決まった。初代ニサーカ国王が導き出した予言、そして現在騒ぎを起こしつつある噂の両方を調査するという目的が、元の一人の噂好きの旅に追加された。
ガチャ...
ソニスがドアを開けると、背筋がよく伸ばされている側近兵が立っていた。
「私は国王をお呼びする、返事が来るまで二人の身の安全を最優先にして待機してほしい。もちろんソニアには何も言わないでくれ、頼んだよ」
「はっ!」
二度目の国王の返事は早かった。側近兵に連れられてさっきの大きな部屋に入ると、王妃や王女の姿はなかった。余程この話は特別なことらしい。
「ソニスから答えが出たと聞いたが...ガーベラ殿にアスチル殿?」
「はい、我々は国王の申し出を受け入れます」
「ほう、それは真か!」
「我々の旅はもとより噂の真相を突き止めることが目的であり、初代ニサーカ国王の予言に行動を起こそうとしている国王や王子と利害が一致していると考えます」
「それはありがたい...改めてよろしく頼む」
(さあソニス、君の番だ)
「父上...彼らの了承が得られた今、私からもお願いがございます!」
「...なんだ?申してみよ。」
「私はまもなく他国交流の時期に入ります。それを今回、ガーベラ殿の旅の同行に使用させていただけないでしょうか?」
ある程度予想はしていたが、国王の判断は残念ながら「国王」としてではなく「父上」としての返答だった。
「いかん、お前の安全は誰が保証するのだ!それに他国交流というのは他国の王子や王女と交流するのであって、一般人と旅をすることではない!返答を許したのは我だが、お前とて勝手なことを言うのは国王以前に父親として許さん!」
「しかし、初代国王の予言が本当なら対策を打つべきです!それにガーベラ殿とアスチル殿はただの一般人ではありません、世の秘密を知る重要人物です!国を背負う者として世界の平和に貢献できるのならば私は本望です!」
「いかんと言ったらいかん!...お前も今日はよく休め、以上だ」
「父上...!」
「「・・・」」
親子の問題にはガーベラもアスチルも手助けできるはずがなかった。
空気が締まらないまま会議は解散され、二人は夜の食事までもう少し自由時間ができた。客室に戻るなり旅の方針を決める相談が行われたが、王宮の部屋とはいえあるのは最低限のアメニティのみで、思った以上に部屋でできることが少なく暇になっていた。
「王子がいるか否かで旅の進み方が全く違うものになる、どうなることやら...」
「なあガーベラ、さっきまでずっと置きっぱなしだったから忘れてたけど、おじさんからもらったお菓子食べようぜ?」
「今?この後夕ご飯があるってソニスも言ってたじゃない」
「まだ数時間先だろ?...それに全部食べるなんて言ってねぇよ」
「まあそれもそうか、じゃあ...」
”コンコン”
クッキーの箱に指が触れた丁度のタイミングで、ドアにノックがかかった。
「...今度はなんだぁ?」
アスチルはもう疲れているとわかった。答えないわけにはいかないので、黙って内側から扉を開けると国王でもソニスでもなく、王女ソニアが立っていた。
「あなたは...ソニア王女ですか?」
「おや、覚えていてくれてのかい?」
「お~いガーベラ、誰だった?」
「アスチル、口直せ。王女様がお尋ねだ」
「えっ?!」
木製の建物ではないはずだが、急いでこちらに向かってくる足音がはっきり聞こえた気がした。ソニスは王女のことをあまり良く言っていなかったが、自分たちにとってどんな存在なのかを知るいい機会だ。こっちから失礼をかますわけにはいかない。
「失礼いたしました、アスチルです!」
「いいんだ、兄上の話からお二人様のことは大体わかったからね」
言葉の一つ一つがなんと言うか、僕の想像する貴族そのまんまだった。
「ところで、私たちのどのようなご用件でしょうか?」
「いや、特に大きなことはないんだ。これは私の興味本位で、ぜひお二人様の旅の話が聞いてみたかったんだよ。王女としての生活で一般住民と交流できる機会は本当に少なくてね、世を知る意味でもお願いしたいのだが...どうかな?」
そう来たか、自分より先に相手を探るための話術がこの王女にはなされている。これも身分の高い者としての教育に入っているのか、それとも王女自身のその能力が高いだけなのか、うまく話を回す必要がありそうだ。
「申し訳ありませんが王女、私はつい最近からガーベラの旅に同行し始めた者でして、期待に添えるお話ができるかどうか...」
おいおい、王女に媚びてないかこいつ?無礼の件はソニスの寛大さで解決したし学んだだろうに...それともただただ異性だからか?
「そうなのか?...もちろん無理に話せとは私も言えないが、聞かせてもらえるならぜひお願いしたいんだよ」
一対一か...勝手な妄想の範囲だが、王女の目がやけに明るいのがどうも困る。作法から身だしなみまでちゃんと綺麗に整えられているし、王宮外の世界によっぽど興味があるらしい。ある意味その純粋さに飲まれないようにしないとなんか怖かった。
「でしたら、私の話だけでも良ければ」
「本当かい?ありがとう!...早速だが私の部屋に案内するよ」
「...え?」
後ろにいるから見えないが、アスチルの視線を感じる。王女も僕の反応に驚いているようだった。
「おや、もしかして荷物の整理がまだ追いついていなかったのかな?廊下で待っているよ、準備できたら言ってほしい」
(...え?)
異性を部屋に入れることになんの抵抗もないのかこの王女は?本当に純粋というかなんと言うか...ソニスがちょっと面倒くさそうな感じだった理由が少しわかった気がする。あの様子だとさっきの話術も自然と身に着いたんだろうなぁ。
...言い忘れていたが、僕は今動くことができない。
なぜなら目の前の扉の向こうで、王女に僕を待つ姿勢を取らせてしまっていることに加えて、後ろではアスチルの厳しそ~な視線が待っている気がしたからだ。準備しているフリをしないといけないのに部屋に入れない...誰か助けてくれ。




