4.二人の初陣
「おじさん、店内に避難しててくれ。俺はこいつらに物言いたくて仕方ねぇんだ!」
(頼もしいけど、迷わず喧嘩買うなんてどんな神経だよ!)
「なんだよ、お前ひとりで俺たち3人に勝てると思ってんの?」
「キャハッ!ぶっ飛んだバカじゃん!」
見ていられず、僕も体が勝手に動き出していた。
「あんたら、僕も相手だ。このお店は僕も気に入ってるからね。あとアスチル、1対3はいくらなんでも無謀すぎる、死んだらどうするつもりなんだよ!」
アスチルはどうも浮かない顔をしてこっちを見ていた。なんで喧嘩を買ったわけでもないのに出てくるんだって言いたげだ。
「えっと、その...」
「僕だって剣が使える、それに旅仲間がすぐに減ったら僕が困るしね...ほら魔導書持って。記念の君にとっての初陣なんだ、どうせなら華々しく飾るぞ!」
「おおよ!」
”Battle Mode On”
〈ガーベラ・旅人・レベル33・スチールソード〉&〈アスチル・冒険者・レベル31・クエイク〉
〈アリド・戦士・レベル25・スチールアクス〉&〈コリソ・盗賊・レベル17・ナイフ〉&〈ソリア・呪術師・レベル16・ブラックミスト〉
”Battle Start”
「おお、なんだこれ?!」
「”バトルフィールド”、戦いが起こったときに関わりのない一般人を巻き込まないように設定されるエリアだ。今このエリアには僕ら五人しか入れないよ」
「ほぇ~」
「さて...ぬかるなよ!」
言われるままに武器や魔導書を構えた。特にアスチルは戦闘が初めての割には姿勢が様になっている。
「なっ、こいつら戦いを知ってるのか?!」
「なに...旅人?そんなふざけた奴がウチの2倍以上のレベルって...!」
「なにビビってんだ!数ではこっちが有利だ、順番に殺っちまうぞ!」
(フッ、これだったらアスチル一人でもよかったかもしれないな!)
「まずふざけた職種の旅人、お前からだ!」
「へぇ~、そう来るんだ?」
「おいガーベラ、避けろ!」
なぁに、こんな奴らまとめてかかってきても怖くない。前に村を防衛しながら山賊10人以上を相手した時は本当に気分が折れたが、それに比べれば大したことない。
「...ハァアッ!」
ガーベラの振った剣から衝撃波が流れ、彼を囲もうとしていた3人まとめて吹っ飛ばした。ただアスチルも間違ってガーベラを助けに行こうと近くに来ていた。
「ぬぁっ...おい!!...あん?」
「どうしたんだよ、僕の剣に見とれてる場合じゃないぞ?」
「えっと、俺間違ってお前の攻撃に...」
「システムに仲間認定されてるからね、仲間認定されれば少なくともその一戦の間だけ、仲間の攻撃に当たることは絶対にないんだ」
「...だから俺だけ衝撃波に当たっても吹き飛ばなかったのか」
二人(ほぼ一人)の戦いは圧倒的であり、片方すら三人束でかかっても押し返されるほどだった。三人衆がケガを負っている間に会話をしているなんて、本当は致命的な行為なのだが...
「おぉい...やっぱこいつら強すぎるって!」
「諦めんな、せめて一人だけでも折ってやる!」
「いいのかい?戦い続けたら君らの武器が折れると思うんだけど」
「うるさい!全魔力を使って呪ってやるっ!」
奴らが立ち直ろうとしたので剣を構えたが、アスチルに止められた。
「ガーベラ、とどめは俺にやらせてくれないか?」
「いきなりの実戦で魔法は使えるのか?」
「もし滑ったらお前がやればいい話だ、とりあえず俺も一発殴らせろ!」
「いや、”滑る”の使い方間違ってるから!」
「細けぇこたぁいいんだよ!」
「お前ら...戦いの最中なのに淡々と会話するなんざ、礼儀がなってねえぞ!」
言い訳の才能はバカであるほど高い傾向にある。例に漏れず、こいつら三人とも怒り口だけは他に代われるものがなさそうだった...かわいそうな人間だ。
「ガーベラ、ちゃんと脚に力入れろよ...クエイク!!!」
「だから、僕には効かないんだって」
バトルフィールド全体に地響きが鳴り動いた。味方である僕には伝わりにくかったが、本来クエイクという魔法は相手にクリティカルヒットさせるためにかなりの技量が求められる。範囲攻撃であることは確かだが、技の精度が低いと相手の体の動かしようで簡単に耐えられてしまう。
(クエイク一冊だけでこんなにでかい地震を出す奴なんて初めて見た)
前言撤回、こんなの常人に耐えられる人がいるなら戦闘のプロしかいない。それを真に受けた三人はただ一言”ケガ”では済まない重傷を負ったようだ。
「うっ...ぷはっ!」
”Battle Ended”
”Winner:ガーベラ&アスチル”
「はい、おしまい」
「これで終わり?...なんだ一発しか打てなかったぜ」
エリアが解けると、バトルを見ていた住人は歓声を上げながら僕とアスチルに感謝を述べに来てくれた。
「倒してくれて本当にありがとうございました!」
「いやはや、何とお礼を伝えれば良いのやら...!」
大きな町であるほど、戦いは目立ってくる。世界のどこにも問題児は悪い意味で欠いておらず、困っている人を助けることは冒険者たちの間では暗黙のルールのようになっている。でもそれを面倒くさがらず、むしろほとんどの人が喜んで引き受けるのが不幸中の幸いだ。
「そんな、この洋菓子店が無くなってしまうのが嫌なだけですよ」
「そうだぜ、ここのお菓子はまだ食べ足りないんだ。潰れるとこっちが困る」
アスチルは初戦闘の割に落ち着いていた。魔法を使うのも初めてだというのに、迷いなく正確に当ててしまう人間だ。よほどの才能の持ち主なんだと改めて思った。
「お二人とも、私の店の試食品に美味しいと言ってくれてるだけでなく、迷惑客まで退治してもらってしまい、本当に申し訳ありませんでした!」
「いいえ、悪いのは全部あいつらです。お父さんが謝る必要はありませんよ」
「せめて何かお礼をさせてください、そうだな...」
「いやいや、バトルは俺らが勝手にやっただけなんだ。代金はちゃんと払うって」
バトルが終わってまだ興奮状態かと思ったが、結構冷静さを保っているアスチルに内心驚いていた。多くの冒険者は天狗になって好き勝手に勝利ムーブをかますが、ここまで律儀な冒険者を見るのもこれまた久しぶりだ。やはり僕の知らない”あの世界”での経験が彼をそうさせているのだろうか?
「それなら、箱入りのクッキーをプレゼントするわ。あなたたち、私の作ったクッキーを気に入ってくれたみたいね?」
お店のお母さんが出てきて、両手に大きな箱をひとつ抱えて出てきた。
「おお、それはいいな。お二人とも、ぜひ受け取ってもらえないだろうか?」
「別にそこまでしてくれなくても...」
(こいつ本当に謙虚だな、戦いの時は別人みたいだったのに)
「アスチル、遠慮ばかりしてるとせっかくの好意が無駄になっちゃうよ。ここは気分よく受け取るのが、今の彼らにとって最高のお礼ってものじゃないのか?」
「なら、お言葉に甘えさせていただきます!」
さっき試食したプレーン味を含めたクッキーの詰め合わせの箱をくれた。でもそれだけではもったいないと考えて、クッキー以外のお菓子も数個ずつ買った。今夜はお菓子だけでお腹が満たされそうだ。
一方、散々場を荒らしていた三人組は気絶したまま動かなかった。
「さて、こいつらどうしようか?」
「全員で遠くの森にでも運んでやろうぜ、この町に襲撃かけたこと後悔させるぐらいにやり返さないと気が済まねぇ」
『その必要はありませんよ』
人の集まりの奥から、やけに綺麗な声をした男性が声をかけてきた。しかも自身とその護衛と思われる人全員、”この世界”の貴族の証拠である白馬に乗っていた。
「どうやら私が駆け付ける前に事が済んでいたようですね」
「誰だあんた?白い馬に乗って登場する演出なんて、俺初めて見たぜ」
「アスチル、少し落ち着け。」
「えっ?」
さっきの一言目の発言が、三人衆に集まっていた人を一斉にアスチルを囲ませた。
「お主、我が国の王子になんて失礼な態度を!」
「せっかくお褒めがもらえるチャンスなのに、これだから冒険者は!」
アスチルにとっては何が起こっているのかわからないまま、大勢に言い責められているとしか思っていない。”この世界”を知らない故の失態を犯した彼のことをどうやって伝えればいいのか一生懸命に考えているが、思いつかない。
「皆さん落ち着いてください!まずは野蛮人たちを退治してくれた方々にお礼を伝えなければなりません。奴らを倒した者を誰か知っていますか?」
「俺だ!」
そう言い放つと王子は驚いた顔をしてアスチルを見つめたままだった。
「...あなたが、今回の成敗者と言うのですか?」
「...そうだ」
「さっきの大口を叩いてまだ気が済まんのか貴様は!」
「反逆罪で拘束するぞ!」
さすがの護衛も彼の態度の大きさには口を開けずにはいられなかったようだ。これでアスチルはとりあえず王宮に連行決定、僕が出るタイミングが完全に消えた。
「ちょっと待てよ、あんたもしかしてこの国の血筋の人だったのか?!」
「さっきからそうだと言っている!」
(...んなこと知るかよ!大体俺はこの町初めてなんだぞ、ガーベラも何か言え!)
目が合った気がする。全くこいつは...少しは僕の気持ちも考えてほしいな。
「待ってください、こいつは僕の旅仲間なんです。仲間と言っても新入りで、まだ世間に疎く落ち着きが保ちにくい性格なんです。なので今だけは許してやってください、お願いします!」
「あなたは?」
「申し遅れました、僕はガーベラと名乗っている旅人です。そしてこいつは...」
「俺はウ...じゃなくてアスチル、冒険者だ」
「”ガーベラ”ですって?」
「はい、そうですが...?」
「おい、俺たちに名乗らせておいて...あんたがどんな人間か俺は全く知らないが、こういう場合はあんたも名乗るのが道理ってもんじゃないのか?」
あれだけ言ってもまだ口が減らないなんて、本来なら即死刑にもなりかねない行為だ。怖気づくどころか逆に威勢に磨きがかかっているような...?
「貴様、いい加減にしないか!」
「お前たち、今はいい。お二人とも、私も失礼な態度を取ってしまったことは謝罪しましょう。私はニサーカ王国第一王子・ソニスと申します、以後お見知りおきを」
「本当にこの国の王子だったのか...」
「アスチル、頼むから今は喋らないでくれ。後で全部教えるから...」
「・・・」
王子の護衛も大衆もアスチルの世間疎さに呆れているのか驚いているのかわからない顔をしていた。無理もないが、僕としても簡単に”あの世界”の存在を知られるとやっかいなことになるから言い方がわからない。頭痛いです神様。
「まだ旅初めのものなら仕方がないですね、お二人が野蛮人を倒してくださったことには感謝を申し上げます。ところで...ガーベラ殿にぜひお伺いしたいことが。」
「もったいないお言葉です。なんでしょうか、お伺いしたいこととは?」
「私の知るガーベラという旅人は、少し前から世界を騒がせている噂をたどって各地を巡っていると聞いていますが、あなたのことで間違いないですか?」
「ええ、確かに僕はその噂の真相を確かめるために旅をしています」
「まさか、本当にあのガーベラ殿だったとは」
「王子こそ、どうしてこの場にわざわざ来たのですか?しかも護衛は数名しか付けていないようですが」
「騒ぎを近くで目撃していた一般住民から王宮へ連絡が入りましてね。三名が暴れているとのことでしたので制圧に出向いたのですが、今回は先を越されていました」
この町には自警団のような防衛団体が存在しないことが王子の発言からわかった。喫茶店のマスターが言っていた通り、この町は本当に住民から王宮への信頼が厚いらしい。昨日開催されていたという食事会といい、この城下町は賊に襲撃を仕掛けられる想定を全くしていない。
(...つまり今回の三人は、城下町の人間じゃないってことか)
「確かに王子の身ではありますが、賊の襲撃は珍しいので町内に自警団は設置していないので、大体の騒ぎは私が治めるようにしているんです」
「みたいですね、この町の住民は皆王族への信頼が厚いと見えます。今僕がここにいるのは偶然ですが...数日だけでも十分伝わります」
「本当にありがたいことです」
王子の機嫌を損ねることの無いように口を動かしていたが、そろそろ頃合いだろう。アスチルが連行されるかどうかはともかく、王子も噂に気になる部分がありそうだ。旅の発展にはちょうどいい機会かもしれない。
「ソニス王子、あなたは噂について何か知っているのですか?僕の旅に関わっていることはすべて耳に入れておきたいのです、聞かせていただけないでしょうか?」
そう言うと、ソニスはあからさまに嬉しそうな表情をして答えた。
「もちろん、私も興味があります。あなたたちの旅のことも良ければ聞かせていただきたい...もし本日時間がありましたら、王宮にご招待させてください。そこでゆっくり話をしましょう」




