8話 双子の悪巧みと、一人の犠牲者
「…うーん」
リシュア=エスカディオは、書類の束を前にして唸っていた
母譲りの柔らかい髪が頬をくすぐる
「…うーん」
「うるさいぞ」
「…だって、今の時代の技術が思ったよりも…その…」
「低レベル」
「……うん」
わざわざ言葉を選ぼうとしたというのに、ストレートに言い切った彼の名は、アシュリー=エスカディオ。双子の兄である。
「ま、当然だろ。魔道具の技術が発達し始めたのは最近のことだったし。それに、前に父さんたちと話し合った時話してたろ?もしかしたら俺たちが今の時代の技術を底上げするのかもって」
「そうなんだけど…それ以前に、もう一つだけ問題があってね…」
リシュアは一枚の書類をアシュリーへ差し出した
「これ」
アシュリーは受け取る。
紙には小さな文字がびっしりと並んでいた。
『王国認定魔導技師資格試験規定』
『ミフティス王国魔導研究法第十二条及び第三十七条に基づき——』
『魔力伝導媒体の加工、調整、開発、設計並びに——』
『王国認定魔導技師資格保持者を除き——』
『——無資格者による研究開発行為を禁ずる』
「……」
「……」
アシュリーは数秒眺めた。
一行読んだ。
二行読んだ。
三行読んだ。
閉じた。
「読む気が失せた」
「早くない?」
「ああ。でも、失せてしまったものは仕方ないだろ」
「…まあ、失せちゃう気持ちは分かるけど」
「要点だけ言ってくれ」
「資格がないと魔道具研究できない」
「最初からそう言え」
アシュリーはリシュアに書類を押し付けた
「…ていうか、“王国認定魔道技師”の資格ならお前持ってたよな?この時代の試験なら余裕なんじゃないか?」
「うん。取るのは余裕なんだけど、今の時代に私の名前が残ることになっちゃうかもなって思って…」
「…あー」
なるほどな、と、アシュリーも唸る
「…まあ、そのあたりは父さんたちに相談すればいいんじゃないか?血縁検査も済んだことだし、これから本格的に俺たちを手伝ってくれるだろ」
「そうなんだけどね、この資格を持ってる人って、今の時代だと大体王宮勤めで、無所属の人を雇うにしても信頼できるかどうかは怪しいから…」
「…じゃあ、どうするんだ?お前ならとっくに案は出てるはずだろ?」
「…えっとね、その…」
「資格、要らないかもしれない」
「は?」
アシュリーが眉をひそめる。
「いや、正確には必要なんだけど……」
リシュアは書類をぺらりとめくった。
「これ、よく読んだらね」
指先が一文を示す。
王国認定魔導技師は、王国内において魔道具の製造、販売、研究を行う際に必要な資格である。
「研究するのにも必要じゃないか」
「そこじゃなくて、その下」
アシュリーが続きを読む。
数秒後。
「あー……」
納得したような声を漏らした。
リシュアは頷く。
「王国の許可を受けた研究機関に所属する補助研究員は例外」
「つまり?」
「資格が必要なのは研究責任者だけ」
アシュリーは天井を見た。
「なるほどな」
「私が責任者になると名前が残るかもしれない」
「でも補助研究員なら?」
「残らない可能性が高い」
リシュアはにこりと笑った。
「だから私ね、助手になる」
「誰の?」
「ふふふ、お兄ちゃんなら分かるでしょ」
アシュリーは即答した
「父さんだな」
「その通り〜!」
ぱっ!とリシュアが手を上げる。
アシュリーが当然のようにそれを叩いた。
「さっすがぁ〜!」
「お前もな」
続けて拳を合わせる。
両者とも、完全に悪巧みを思いついた顔だった。
「パパが研究責任者になって、私を補助研究員として登録するの!」
「…ま、理由がしっかりしてるなら父さんは嫌々でもやってはくれるはずだしな」
二人の意見は一致した。
未来へ帰るため。
そのためには避けて通れない。
避けて通れないのだが――
リシュアは手元の書類をめくる。
「ちなみに、研究責任者には報告書提出義務があります」
「うん」
「新規魔道具開発時は王宮への申請も必要です」
「うん」
「研究内容の説明責任もあります」
「うん…」
「事故が起きたら責任者が呼び出されます」
「うん」
「研究資金の管理もあります」
「……」
「技師会への出席義務もあります」
「………」
「研究内容によっては王家の監査対象になります」
「………………」
アシュリーは静かに目を閉じた。
「これ、王家に目を付けられないか?」
「たぶん付けられると思う」
「……父さん、ご愁傷様」
「ご愁傷様」
双子は揃って頷いた。
その頃。
ネオリムは、自分に降りかかろうとしている面倒事の存在をまだ知らなかった
安定して続きのお話をお届けできるよう、しばらく投稿をお休みします。
続きは必ず書きますので、再開した際にはまた読みに来ていただけると嬉しいです!




