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3話 双子を泊めさせたら、屋敷中からお菓子が無くなりました

エスカディオ家の廊下は、どこまでも真っ直ぐで静かだった。

白い壁と青の装飾が規則正しく続き、磨き上げられた床には窓からの光が細長く落ちていて…


「…わぁ〜!家具の配置がちょっと違う!……あっ、ねえねえお兄ちゃん!見て!この壺、お兄ちゃんが未来で割るやつ!」

「お、本当だ。…今から位置変えたら割らずに済むのか…?」


静かな廊下に似つかわしく無い呑気な声が二つ響いた


ネオリム=エスカディオは、一切歩幅を乱さずに、無言で歩いていた


…未来から来たと主張する、双子の男女。


顔は自分に似ていて、髪色は、事あるごとに喧嘩を売ってくる婚約者…アルターナと同じ。


先ほどこの双子を尋問していた際、アルターナはこの双子のことを少しだけ、気に入っている様子だった


しかし、ネオリムは違った


確かに、この双子たちに悪意は感じない。


だが、もしも、本当にこの双子が未来から来た…アルターナとの子供と、仮定するのならば



未来に帰るための魔道具作りにかかる費用。

保護している間、戸籍や身分はどうするのか。

“素性の知れない若者が二人いる”ことを社交界にどう誤魔化すのか。

未来を知ったことで未来が変化しないのか。

未来に帰れなかったときの対処は…………



考え始めるとキリが無かった。

ネオリムは深いため息を吐きながら、ピタリと二部屋の前で止まった


「お前たちには、しばらくこの部屋で過ごさせる。

部屋の前には常に兵士を置く。

不審な動きをどちらかが行った場合、即座に“公爵家の名を侮辱した侵入者”として王家の方々に報告し、適切な処置を行ってもらう。

……手足を拘束しないだけありがたいと思え」


「は、はいっ!」

「ありがとうございます。…ネオリム様」


リシュアとアシュリーが、少し縮こまりながら返事をした


ネオリムは

(…冷たく言いすぎたか。…いや、血縁関係の有無をはっきりと確認できるまで、隙を与えるわけには…)と、少しだけ痛んだ心から目を逸らしつつ、続けた


「…余計なことはするな。なにかがあれば扉を叩き、部屋から出ずに兵士に確認を取れ。それとアシュリー。お前の菓子袋はこちらが回収する」


「えっ」




〜〜〜





双子それぞれに用意された二つの部屋は、普段から手入れの行き届いている客室だった

扉の外には兵がいるようだが、悪いことはするつもりがないので特に気にならない


「……寝れない」


ベッドに仰向けになったリシュアが呟く。


隣室との間にある壁の向こうから、すぐに返事が来た。


「だろうな」


アシュリーだった。


双子の部屋は分けられたものの、隣同士になっている。


「だってさぁ……」

リシュアは天井を見上げた。


「過去だよ?」

「うん」

「若い頃のパパとママだよ?」

「うん」

「しかも全然仲良くない」

「それは知ってる」

「未来だとあんな感じじゃないのに」

「だから面白いんだろ」

「面白くないよ!」


即答だった。


アシュリーは隣室で少し笑ったらしい。


壁越しに小さな笑い声が聞こえた。


「お兄ちゃんは余裕ありすぎ」


「ないよ」


「ある」


「現実逃避してるだけ」


「それ余裕ある人の台詞じゃない?」


「ないない」


しばらく沈黙が落ちた。


やがてリシュアがぽつりと呟く。


「……怒ってたね」


「誰が」


「ネオリム様」


二人とも少しだけ黙った。


昼間の応接室を思い出す。


ネオリムは表面上こそ冷静だったが、双子への警戒はまったく解いていなかった。


部屋を用意したのも。


帰る方法を探すことを認めたのも。


保護を決めたのも。


全部理屈だ。


情ではない。


未来の父親を知っている二人には、それがよく分かった。


「まあ、当然だろ」


アシュリーが言う。


「知らない奴が急に子供ですって出てきたんだから」

「でも本当なのに」


「本当でも怪しいだろ」


「むぅ」


リシュアが毛布に顔を埋める。


「信じてもらえるかな」


「そのうちな」


「そのうち?」


「未来の父さんと母さんだぞ」


「……それもそうか」


少し元気を取り戻したらしい。


アシュリーは苦笑した。


未来の両親は、なんだかんだで面倒見が良い。

だからたぶん大丈夫だろう。


たぶん。


おそらく。


きっと。


「……腹減ったな」


「話変わった」


「重要な話だ」


「寝る前に食べたでしょ」


「足りない」


「知らないよ」


再び静かになる。


しかし数分後。


アシュリーは天井を見つめながら考えていた。

腹が減った。


非常に。


そして昼間に買った菓子は部屋に入る前に半分以上没収されている(半分は腹の中)


正確には、


「出所不明の食べ物を好きに食べさせるわけにはいかない」


というネオリムの判断で預かられた。


理屈は分かる。


分かるが。


腹は減る。


「……」


アシュリーは起き上がった。


未来ではよく使う簡単な生活魔法がある。


手元に物を呼び寄せる魔法。


危険性などほぼない。


子供でも使える。


たしか昼間、厨房の近くを通った時にクッキーの匂いがした。


一枚くらいなら。


本当に一枚くらいなら。


「……バレないだろ」


彼は小さく呟いた。

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