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19話 協力者と約束


「すごい、すごい! じゃあこっちの設計は何のために?」


「これは魔力の流れを調整するための回路を安定させるために——」


「なるほど! じゃあこの補助式は?」


「それはですね、魔力波長の揺らぎを——」




「………」




窓の向こうでは、とうに夜の帳が降りていた。

星が静かに瞬く時間になってなお、エスカディオ公爵家の応接室に居座っているのは、王子ジルニアである。


そして、その隣にぴたりと座り、目を輝かせながら図面の解説をし始めたのはリシュアだった。



二人とも完全に夢中だった



アシュリーはとっくの昔に「俺はもう無理」と言い残して部屋を出ていった。執務室へ戻ったと言っていたが、今ごろ机に突っ伏して寝ていてもおかしくない。



ネオリムはというと、王子を年頃の娘と二人きりにさせるわけにもいかず、先ほどからひたすら二人の見張り役をしていた。


だが、さすがに限界だった。



「でもそうなると魔力伝導率が——」



「ジル。リシュア」



「いえ、それに関してはこの素材を使用しているので——」



「……無視するならその書類を一週間没収するぞ」



「「ごめんなさい」」



ぴたりと二人の口が止まる。



ネオリムは机上に散らばる紙を指先で揃えながら、冷えた声音で言った。



「時間を見ろ。王子がいつまでも他家に長居していい時間じゃない」


「ええー」


「えー、じゃない」


「でも今すごくいいところなんだよ」



ジルニアが心底名残惜しそうに言う。

隣でリシュアまでこくこく頷いた。



「私も、あと少しで説明が……」


「お前もだ」



ネオリムが睨むと、リシュアはすっと視線を逸らした。

この子は未来の公爵令嬢にしては感情があまりにも分かりやすすぎる。一体誰が教育をしたのか…



「続きは明日でもできるだろう」


「じゃあ明日も来るね!」


「誰が許可した」


「今の流れだとそう聞こえたよ」


「聞こえてない」


「聞こえたよね?」

「……聞こえたかもです」

「リシュア」


「ごめんなさい」



ネオリムは深く息を吐いた。


――本当に、どうしてこうなるのか。


だが結局、資料を抱えて立ち上がったジルニアは、帰り際に少しだけ真面目な顔をした。


「ネオリム」

「なんだ」

「今日のことは話さないよ」


さっきまでの軽さが、ほんの少しだけ薄れていた。


「面白いから、じゃなくて……君が言いたくないなら、僕も言わない」


ネオリムは一瞬だけ黙った。

……こうも真面目にされてしまうと、隠し子だと騙しているのが心苦しい


「……そうしてくれ」


「うん。…君との約束は、絶対に守るからね」


ジルニアは満足そうに笑い、それからくるりとリシュアを振り返る。


「リシュア嬢、続きはまた今度ね」


「は、はい!」


「アシュリーにもよろしく」


「……それは本人に言ってください」


「じゃあ次はそうする」



そう言い残し、ようやく王子は帰っていった。


静かになった応接室に、ネオリムはその場で目を閉じる。



「……今日は本当に疲れた」


「お疲れさまです……」



リシュアが小さく言う。

その声に責める色はなく、むしろ申し訳なさが滲んでいた。


「……ごめんなさい。私が図面なんて持って庭に行ったから」


「今さらだ。起きたことは仕方ない」


「でも」


「反省するなら次から気をつけろ」


「……はい」



しゅんとするリシュアに、ネオリムは視線を向ける。

叱られた子供みたいな顔だった。実際、未来から来たとはいえまだ十七の娘なのだから当然なのだが。



「……部屋へ戻れ。明日は父上たちが帰る」


「………えっ?」



リシュアの背筋がぴんと伸びる。



「お、おじい様とおばあ様……ですか?」


「その呼び方を今はするな」


「あっ……はい」


「朝食の場で紹介する。余計なことは言うな。聞かれたことだけ答えろ」


「が、頑張ります」



頑張る、で済む話ではないのだが、今ここでそれ以上言う気力は残っていなかった。






 ~~~






その夜、隣り合う客室では、静かな声が交わされていた。


「……お兄ちゃん、起きてる?」


壁越しに、リシュアが囁く。


「起きてる」


返ってきたアシュリーの声は、眠そうではあったが、まだ意識はあるらしかった。


「明日、おじい様たちが帰ってくるんだって」


「そうだな」


「緊張する」


「分かる」


アシュリーが「くぁ…」と欠伸をしている音が聞こえて、リシュアは眠たげに微笑む


「……でも、ちょっと楽しみ」


「それも分かる」


リシュアは「ふわぁ…」と欠伸をした。完全にアシュリーのが移った。


「…ねぇお兄ちゃん」


「なんだ」


「ジルニア様、すごかったね」


「それはもう、びっくりするくらい面倒くさかったな」


「でも悪い人じゃなかった」


「まあな」



アシュリーは寝返りを打ちながら、小さく息を吐いた。



「父さん、頭痛そうだったけど」


「うん」


「母さんがいたら、たぶん“ざまあみろ”って言ってた」


「言いそう」


くすり、と壁の向こうでリシュアが笑う。


「…ママも、こっちの屋敷で過ごしてくれたらいいのに」


「…いや、流石に無理だろ」


「…でも、さみしいじゃん」


「寂しいのは…まあ、分からなくはないけど」



アシュリーの声が小さくなっている

おそらくもう眠気が限界に達しているのだろう



「……じゃ、おやすみ、お兄ちゃん」


「…ん、おやすみ、リシュア」



リシュアは目を閉じた


明日はいよいよ、おじい様とおばあ様に会う。


楽しみと、不安を胸に抱えたまま…


双子は静かな眠りへ落ちていった


次の話は月曜日に投稿します

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