表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/20

14話 期待と誤解のお茶会


翌日



「お嬢様!起きてくださいまし!!」


「…………むりぃ……」


「お嬢様!!お茶会ですよ!!」


「……………んぅ………………」


「「「お嬢様!!!!」」」


「…………ぅ…うるさぃ……っきゃぁ!?!?」



使用人に毛布を剥ぎ取られ、ベッドから引きずり下ろされた



「…ぅあっ!?…なっ、なにするのよ!不敬よ!」


「侯爵様から許可を得ております」


「許可を得ているにしてもよ!!」



アルターナが文句を言っている隙に、いつにも増して人数の多い使用人たちに顔を洗われ、拭かれ、寝衣を脱がされ着替えさせられ……



「…ちょっと!?なんでそんなに気合い入ってるのよ!?」


「大事なお茶会ですから」



アルターナがひっきりなしに文句を叫ぶ一方、メディール家の庭園では…




〜〜〜




「花瓶はこちらへ!」


「クッションの向きを揃えてください!」


「旦那様、奥様、お客様がお見えになった際は――」


「分かっている!」



ガロードは返事をしながらも、何度も襟元を整えている。

ミルシアはというと、落ち着かない様子で庭を歩き回っていた。



「あなた……」

「ああ」


ミルシアは不安気にガロードに近づく

無理もない。娘の未来がどうなるのか、このお茶会で知らされる……かもしれないのだから


「やっぱりプロポーズよね?」


「その可能性は高い」


「でも……万が一、婚約解消だったら……」


「……その時はその時だ。縁起でもないことは考えないようにしよう」


ガロードは妻の潤んだ瞳を痛ましく思いながら元気づけた。




〜〜




大事な大事な末娘のアルターナ。


その婚約相手が公爵家の一人息子・ネオリムとなった理由は、とても単純だった。


エスカディオ公爵エルヴィンと、メディール侯爵ガロード。


二人は学生時代からの悪友であり、酒を飲んでは馬鹿な勝負を繰り返すような仲だった。


ある日、酔った勢いでエルヴィンが言ったのだ


「お互い同世代の異性の子供が生まれたら、結婚させようじゃないか」


「いいなぁ!それ!」


そんな、半分冗談のような約束。


しかし年月は流れ、本当にエルヴィンには男児が、ガロードには女児が生まれた。


エルヴィンは約束を忘れていなかった。


そして正式に、エスカディオ家から縁談の申し出が来たのだ。


ガロードは酔った勢いで交わした約束なんかほぼ忘れていたが…

相手は長年信頼してきた旧友の息子。

可愛い娘を任せる相手として、これ以上ない縁談でもあった。

…それに、屋敷が近いため、嫁いでもすぐに会いに行ける。


そしてアルターナとネオリムが幼い頃、正式に婚約が結ばれたのである。


……まさか、顔合わせ当日から喧嘩ばかりになるとは思ってもいなかったが





〜〜





「父上、母上」


ターテルが現れた。いつも通りの落ち着いた声だったが、その表情にはわずかな呆れが浮かんでいる。


「まだ昨日のダメージ残ってるの?」


「だって!」


「だってじゃないよ」


ターテルは肩をすくめるようにして言った。


「期待しすぎると、違った時に落差でさらにダメージが…」


「縁起でもないことを言うな!」


「現実的って言ってほしいね。…っていうかそもそも、結婚についての話するとかアルは言ってなかったし……」


そんなやり取りをしていると


「ちょっとお父様!?さっき使用人が…!!」


アルターナが怒りながらやって来た


使用人たちから、丁寧に丁寧に整えられた髪。化粧。ドレス…


こんなにも可愛くて愛おしい娘が、今日のお茶会で何を告げるというのか…不安で仕方ない


「アルちゃん!お、おはよう。よく眠れた?」


「眠れたわよ?お母様こそ、目の下に隈が…」


そんなやり取りをしていると、門の方から門番の張り上げた声が庭に響いた。


「エスカディオ公爵家より、ネオリム=エスカディオ様がお見えです!」


その一声で、庭に漂っていたざわめきが一気に張り詰める。夫婦は同時に息を呑み、思わず顔を見合わせた。


「来たわ……!」

「来たな……!」


使用人たちまで緊張し始める。誰もが姿勢を正す。


「…あ、私迎えに行ってくるわね」


「「え???」」


…普段ならミルシアやガロードが「迎えに行ってあげなさい」と言い、「嫌よ」と即答し、不機嫌になるというのに


アルターナ自ら、迎えに???


アルターナの後ろ姿を見送りながら、ミルシアがガロードの腕にそっと手を添えた


「…もしかしたら、期待してる通りかも…!」


「ああ、ああ。私たちは座っていよう…!!」


ターテルが呆れたため息を吐いている






ほんのしばらくして、最初に現れたのは、いつも通り無表情なネオリムだった。歩みは静かで、表情にも大きな変化はない。その隣にはアルターナがいる。

こちらは先ほどより穏やかな様子で、周囲を見渡しながら庭へと足を踏み入れていた。



(…っ…あ、あなたっ!!アルちゃんが!アルちゃんがネオリムくんの隣を歩いて…!!)


(ああ、分かっている。分かっているとも…!!………ん…?待て、後ろにいるのは誰だ…?)




そして。



さらにもう一人。


見慣れない、十七歳ほどの少女がいた。


少女はネオリムのすぐ後ろを、少し緊張した面持ちで歩いている。慣れない場所に来たのだろうか、視線はあちこちを行き来し、手の置き場にも迷っているようだった。


「「…………」」


ガロードが固まる。

ミルシアも固まる。

ターテルだけが首を傾げた。


少女はどこかおずおずとした様子で周囲を見回している。そんな彼女に気づいたネオリムが、ほんの少しだけ振り返って声を掛けた。



「大丈夫か。」


「は、はい……!」



少女は緊張した様子で、ネオリムの服の裾をそっと掴んだ。


…ネオリムは、特に振り払う様子も、嫌がる様子も無い

アルターナに至っては、チラリとその様子を見たというのに、気にしている様子も無い



そのやり取りを見た瞬間、夫婦の頭の中で何かが音を立てて崩れた。



((…………え?))



ミルシアの笑顔が引きつる。ガロードの頬がぴくりと痙攣した。



アルターナと一緒に来る。

「二人で伝えたいことがある」と言っていた。

そこへ、招待していない若い少女。

しかもネオリムは、その少女を気遣うように歩調を合わせている。



(ま、まさか……)


(いや、でもアルちゃんも一緒にいるし……)


(いや待て、だからこそなのか……!?)



点と点が、最悪の形で繋がっていく。


見知らぬ少女の髪色が、顔が、愛娘とその婚約者にそっくりだということに気付く余裕など、今の二人にはなかった。




全ての点が繋がったその瞬間、夫婦は同じ結論へ辿り着いた。




((浮気……!?))


次の話は日曜日に投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ