13話 お茶会前夜の一喜一憂
「……い、今、なんと言った」
「…だから、明日のお茶会にネオリムと参加するわ」
丁寧に盛り付けられた華やかな料理、シミもシワもない真っ白な布を被せたテーブル。控えには互いに信用している優秀な使用人たち。姉が嫁いでから少しだけ静かになったメディール侯爵家の食堂で――
「…アルちゃん?明日のお茶会は家族のみで行うものよ?」
「分かってるわよ」
「…えっとね、ネオリムくんも招待したわよね?………あっ、ネオリムくんは断ったってことね!」
「ネオリムも来るわよ」
「え?………ア、アルちゃんも参加するのよね?」
「当たり前でしょ。…あと、ネオリムと一緒にお母様たちに伝えたいこともあるから」
「…つ、つつ、伝えたいこと……っ…!?」
母であるミルシアの手から、持っていたフォークがかちゃん、と皿に落ちた。
侯爵である父、ガロードがナイフを止める。
兄のターテルは、一瞬手が止まったものの、黙々と肉を食っている
食堂に、静寂が流れた。
「……アルターナ」
ガロードがゆっくりと口を開く。
「その話は……その……」
珍しく言葉を選んでいる。
「ネオリム君も同席しなければならない話……なのか?」
「ええ」
アルターナは何でもないことのように頷く。
「だから明日のお茶会に一緒に来てもらうの」
「…………」
「…………」
夫婦は顔を見合わせた。
数秒。いや、十秒ほど。
そして――
「あなた」
「ああ」
二人は同時に頷いた。
((ついに……!!))
「アルちゃん……!」
ミルシアは両手を胸の前で組み、瞳を潤ませる。
「お、お母様?」
「言わなくていいわ!」
「え?」
「まだ言わなくていいの!」
「……?」
ガロードも何度も頷く。
「うん。そういうことなら、確かにネオリム君にも来てもらわないと困るな」
「ええ、そうでしょう?」
「二人のことだから、きっと色々悩んだ末に決めたんだろう」
「そうよねぇ……!」
アルターナは首を傾げた。
「……?」
何か勘違いしている気がする。
しかし何を勘違いしているのか分からない。
「お父様?」
「安心しなさい」
ガロードは優しく笑った。
「私たちは、どんな結果でも受け入れる」
「ええ。全力で応援するわ」
「…………?」
アルターナは困惑する。
(何の話……?)
〜〜
夕食が終わり、アルターナが出ていった後の食堂。
そこでは、緊急の家族会議が行われていた
「きっとプロポーズされたのよ!!そうに違いないわ!!」
「そうだよなぁ!!きっと、結婚式の日取りでも相談しにくるんだ!!」
夫婦がわいわいと騒ぎ、控えにいる使用人まで巻き込み始める
アルターナとネオリムの不仲を幼い頃から見守ってきた使用人たちの中には、喜びながら涙目になり「ついにここまで…っ」と呟く者もいた
「結婚式は春がいいかしら!」
「いや、王都の大聖堂を押さえなくては!」
「旦那様、招待客は何名ほど——」
「……いや、婚約解消したいっていう相談じゃないの」
喜びと祝福に満ち溢れた空気をぶち壊したのは、アルターナの兄であるターテルであった
あまりの嬉しさに踊り始めそうだったミルシアとガロード。使用人たちは固まる
そうだ。昔からついこの間まで、あの子たちは喧嘩ばかりしていた
初めての顔合わせの日、仲良く手を繋いで庭を散歩しにいったと思えば喧嘩しながら戻ってきて
初めて婚約者同士で参加した社交パーティーの最中、お互いがお互いの好みのジュースを把握していないという理由で喧嘩が始まり
貴族が集まる王宮の舞踏会に参加した際、ダンスを優雅に踊りながらお互いの足を踏みつけあっていた
“家族でお茶会でもしましょう”とミルシアが誘っても、今までは
「お母様、私その日はブティックに行くから」
「……僕はその日執務が…」
と、明らかに取ってつけたような理由を述べて二人とも断っていた。
“どうせ来ないのだから”と、招待状を出すこともなくなり、お茶会は前日に誘う程度になっていた
だから、二人が揃ってお茶会に来ることは奇跡のようなものであり、喜ばしいことなのに
食堂は、お通夜のような空気に変貌した




