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12話  昨日は王子、明日は義両親


「たった一日で随分とやらかしたのね」


「…ご、ごめんなさい……」


「その場にいなかった君にとやかく言われる筋合いは無い」



ジルニア王子の襲来から一日後。



アルターナは、とある用件のためエスカディオ公爵家に訪れていた。



通された客室では、ネオリムが不機嫌そうな顔で紅茶を飲んでいる。ネオリムの隣にはリシュアも同席しており、アシュリーはというと現在書類仕事中らしい。



「…まあでも、認知されたとはいえ、未来から来た〜とかはバレていないんでしょう?なら、なんとかしてリシュアの身元をはっきりさせておかないと……

ジルニア王子殿下は気になったことをとことん調べ尽くすタイプでしょう?」


「そうなんですか!?」


リシュアは思わず身を乗り出した。


「ど、どうすれば……っ」


アルターナは肩を竦める。


「私に聞かれても困るわよ」


「そんなぁ…」と項垂れながらも、リシュアは未来でのジルニア王子について思い返した。


ジルニア王子殿下。


未来では公爵位を授かり、魔道具研究への支援者として名高い人物。あと、パパと仲良し。


自由奔放

好奇心旺盛


そして、一度興味を持ったものは徹底的に調べる。


リシュア自身は直接会ったことこそ無かったが、研究費の大半は彼の支援金だった。


(いつかご挨拶したいなって思ってたけど……)


(まさか過去で先に会うなんて……)




〜〜




あの日、ジルニアと接触してしまったのは本当に偶然だった。

パパとお兄ちゃんが変な勝負を始めたから、これ以上あの場にいても得るものはないと思い、魔道具の研究資料をお気に入りの庭で読みながら散歩でもしようとしていた。


未来とは少し違う風景を楽しみながら広い庭園を一周。

そのあとは一番のお気に入りスポットである薔薇の見えるベンチで座っていた。



そこにひょこっと現れたのがジルニアだった。



銀糸のような髪。夕焼けを照らす太陽のような瞳。


……胸元には王家の勲章。


リシュアは一目見た瞬間に王族だと確信し、同時に悟ったのだ


(…に、逃げられない)



ジルニアはリシュアを見た瞬間、少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべながら話しかけてきた


「…おや、ここに人がいるとは」


「…っ…お、お初にお目にかかります。私はリシュア……と、も、申します」


「…うん。よろしくね。僕はジルニア=グリドット=ミフティスだ。ジルニアと呼んでくれ。

…ところで、君はここで何をしているんだい?初めて見る顔だけど…」


「…え、ええと、お散歩…を…」


「うんうん。姓はなんだい?」


「…えぅ?」


「リシュアが名前だろう?姓は?」


『エスカディオです!』


…だなんて言えるはずがない


「………リシュア=……ロンフォードですッ…!!」


咄嗟に、エスカディオの遠い親戚にあたる一族の姓を名乗った


「ふむふむ。歳は?出身は?家族は?」


「……じ、十七歳で、出身は……じ、事情があって言えなくって、か、家族は…と、遠くにいて…」


「……ふぅん…?」



先ほどから、じぃっと顔を見られている


私だって分かっている。顔がほぼパパの生き写しだってことも、こんな夕方にひとりぼっちで公爵家の庭のベンチで座っているという怪しすぎる女だってことも。



だから、上手く誤魔化そうとして、できなかった



「…わ、私は…エスカディオ公爵家のご長男、ネオリム=エスカディオ様の……」






「「「祖母の姉の娘の娘ですっっ!!」」」




その後、しばらく会話をして、魔道具の資料も見られて…あとは知っての通り。




〜〜




(うぅ……“祖母の姉の娘の娘”だなんて…!!思い返せば思い返すほど下手くそな誤魔化し方……っ…!もっともっと遠縁として伝えて調べづらくするべきだったのに…)



するとネオリムが口を開く。


「そもそも庭園で王子と雑談していた時点でだな――」


「あんたは黙ってなさい」


即座にアルターナが切り捨てた。


「なぜ僕だけ」


「リシュアを放置して仕事してたんでしょ」


「……」


反論できなかった。


ネオリムはコホンと咳払いをしながら言った


「…とりあえず、ジルが妙なことを思いつかない間に片付けよう。

リシュア、お前はジルにどこまで知られているんだ」


「…えっと……顔は確実に覚えられました。あと、名前はリシュア=ロンフォードを名乗りました。記憶が正しければ、おばあ様の遠い親戚の方の姓だったはず…です!」


「ロンフォード……ああ。確かに、交流はほぼ無いが親戚ではあるな。ジルが細かいことを忘れてさえいれば良かったが…」



ネオリムとリシュアはため息を吐きながら昨日の出来事を思い出した



あの時、ジルニアは確かに、心から面白そうに、愉しそうに言ったのだ



『…で、ネオリム?このレディーは君の“祖母の姉の()()の娘”……だったかな?』



(…………あれ…?ま、待って)


リシュアは一気に青ざめた



「全く…なんとかロンフォード家に連絡を取って誤魔化してもらうしか……」とネオリムが言っているが、もはやそれどころでは無い



「…パ、パパ……わ、わわわ、私、」


「なんだ急に」


「…ジルニア様と二人で話してた時、私、“祖母の姉の娘の娘です”って言ったの」


「………」


「な、なのに、」




『…で、ネオリム?このレディーは君の“祖母の姉の息子()()の娘”……だったかな?』




ネオリムは一瞬眉を寄せた。


ただただ覚え間違えただけではないのか


いや、その言葉を言った時の心から愉しそうにしていた表情。あいつなら……



ネオリムは頭を抱えた



「…やられたな。嘘だとバレた」




ネオリムは、ジルニアの性格をよく知っている。




あれは、ネオリムが十一歳の時だった。


公爵家の庭園には、ネオリムが八歳の頃から誰にも知られないように作り上げていた、ペットのダンゴムシたちのコロニーがあった。


ネオリムは定期的にそのコロニーの近くにしゃがみ込んで懸命に土をいじっていたのだが…


その姿がジルニアに見つかり、ネオリムは咄嗟にコロニーの存在を隠した。


その日から、ジルニアは会うたびに「ねえ、なんで土をいじってたの?」と聞いてくるようになり


それが一年ほど続いたある日、ついにコロニーの存在がバレてしまい、大笑いされた挙句



“ネオリムが隠していることには面白いことしかないから。

僕はね、ネオリム。君が何かを隠してるって気づいたら、本当に深刻なもので無い限り暴きたくなるんだよ!”



…と、言われたのだ






ネオリムとリシュアが絶望に打ちひしがれている中、アルターナは言った



「ジルニア王子は…別に悪い人じゃないしいいじゃない。ちょっと面倒くさいだけでしょ」


「その面倒くささが問題なんだ」


「あら、そう」


「ジルに“未来から僕の子供がやってきて、帰るために魔道具を作ろうとしている”だなんてバレたら……」



確実に、言う。

 


“僕も手伝うよ!”



…と。満開の笑みで。



ジルニアが絡んでくれば、絶っっっ対に面倒なことになることは目に見えている。



アルターナはどんどん暗くなるネオリムとリシュアにため息を吐き「…あんたたち、細かいこと気にしすぎ」と言いながら、今日この場に来た目的を果たすために、アルターナは手に持っていたカップを置いた。



「それで、本題なんだけど」



その声音に二人が視線を向ける。



「私の両親が、お茶会しようって」



空気が止まった。


「……」


「……」


「……」


誰も喋らない。


最初に反応したのはネオリムだった。


「…………お茶会?」


元々引きつっていた顔が、さらに引きつった


アルターナは頷いた。


「ええ」

「君の両親との?」

「ええ」

「僕が?」

「ええ」



ネオリムは静かに天井を見上げた。


嫌な記憶が蘇る。


三時間…いや、四時間。


婚約者とは何か。貴族とは何か。家とは何か。さらに飛躍して、人生とは何かを語られた、あの長すぎる説教。



「…………」



ネオリムは黙った。


一方、リシュアの目は輝いていた。


(おじい様とおばあ様……!!)


リシュアは先ほどまで絶望していたのにも関わらず、ほぼ立ち直ったかのような微笑みを浮かべた


優しくて、甘やかしてくれて、研究資料を一緒に集めてくれる。大好きなおじい様とおばあ様。


リシュアが穏やかな表情を浮かべる中、アルターナは苦笑した。


「まあ、断る理由も無いでしょう?」


ネオリムは即答した。


「ある」

「無いわ」

「ある」

「無い」

「ある」

「無いってば」


アルターナは息を吐いた


「いつもなら適当に断ってたんだけど……」


そこで一度、ネオリムを見る。


「今回は、行きましょう。」


ネオリムは、その意味を理解し、目線をアルターナから少し外した後



「……ああ。」



…と、頷いた



未来から来た双子の存在を、少々……いや、かなり大袈裟に喜びそうな人たちへ打ち明ける日が、ついにやってきたのだ。


次の話は土曜日に投稿します

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