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10話 書類の山は片付けた(問題が片付いたとは言っていない)


ネオリムは眉間を押さえつつ、書類に目を落とす


『王国認定魔導技師資格試験規定』


その資格の存在自体はは知っている。最近研究者たちの間で盛り上がっている魔道具作りに興味を示した国王が、魔道具技術を推進・管理するために、正式に定めたものだ。


「…とりあえず、なぜ俺がこの資格を取らなければならないのかを説明してくれ」


リシュアは「はい!」と頷き、特に意味のない身振り手振りを交えつつ、説明した。


ネオリムは深くため息を吐く


「………つまり、補助研究員として登録さえできれば今の時代に名は残らない。ただ、この資格を持っている信頼できる人物がいないため、僕に試験を受けさせる…と。」


「「その通りです」」


「僕にそんな時間があると思うか??後ろの書類を見てみろ」


アシュリーとリシュアはネオリムが指した机の上を見る


……書類の山脈ができていた


ネオリムは椅子に座り、頭を掻きながら言った


「…僕だって未来の子供のためなら出来る限りの協力はしたいと思っている。…資格もそうだ。書類に追われる時間さえ無ければ僕は協力できた。だが、いつ帰ることができるかわからないお前たちに、四六時中構ってやれるわけでもない。」


リシュアは「で、でも…」と言ったが言葉を呑み込み、アシュリーは書類の山を見ながら何かを考えているようだ。


ネオリムは続けた



「…仮にこの資格を取り、研究を始めるにしても王宮への報告書を書くという義務が発生するだろう。技師会への出席義務だってある。」

「………未来でお前たちと僕がどんな親子関係なのかは知らないが、僕は今を生きることで精一杯なんだ。あまり甘え過ぎるな。」



そう言い切ると、ネオリムは書類の山から一枚取り出し、万年筆を手に取り作業をし始めた。



リシュアが「…あ……」と悲しげな表情を浮かべているのが視界の端に見えて、ほんの少し胸が痛んだのは気にしない。…気にしていない。



「…僕だって忙しいんだ。アルターナにでも頼ったらどうだ」



「…で、でも、ママは機械音痴だから論外で……」



すると



「……あの、俺が書類仕事全部引き受けられる…って言ったら、試験を受ける気になりますか」



リシュアがハッとしてアシュリーを見る。ネオリムはゆっくりとアシュリーに目を向けて言った


「ああ、お前は長男だから…」


「はい。未来の次期公爵は俺です。なので、今の父さ……コホン。ネオリム様と同レベルかそれ以上の効率で書類仕事を進められます。」


ネオリムのこめかみがピクリと動いた


「…僕以上に速く進められる自信がある、と?」


「もちろん。毎日父さんに“偉いな”って褒められてましたから」


「…………」


アルターナと普段から交わしている売り言葉に買い言葉の癖のせいで、挑発的な口調でアシュリーに問うてしまったというのに。

未来の自分と息子の関係性が垣間見えてしまったせいで、ネオリムは何も言えずに黙りこみ…



「……じゃあ、今。ここで。ここにある書類の山ひとつを片付けてみろ。僕は君が片付けた書類を順々にチェックする。書類一枚にかかる時間も、正確性も測る。いいな?」


「任せてください。」



あわあわしているリシュアを完全に放置し、かなり長丁場になりそうな戦い(?)が始まった



アシュリーはネオリムが座っていた椅子に座り、万年筆を手に取り、書類を一枚手に取る。

ネオリムはアシュリーの隣に椅子を置き、アシュリーが処理し終えた書類に目を通す。



リシュアは二人に声をかけようとしたが、二人はあまりにも書類に集中しているため、声をかけるのをやめた



「…う〜ん、お庭で散歩でもしてこよっと」


リシュアは部屋から退出した。






〜〜〜






窓の外が夕焼け色に染まった頃。


「……っ終わった!!」


「…ああ。」


書類の山は、見事に全て処理済みの山になっていた。


元々は一つの山を片付ける予定だったが、二人とも集中力のゾーンにのめり込み、ノリで全てを片付けたのだ。


そして


「合格だ。僕の目に通す必要のない書類は全てお前に任せる。」


「…っ……ありがとうございます。」


二人はペン胼胝のできた手で、熱く硬い握手を交わした。


多分、本来の目的は二人とも忘れている。脳の使いすぎである。




すると




ノックの音がした。

ネオリムは「入れ」と指示する。



全く。少しいい気分だったというのに今度は何事だ。



「…失礼いたします。坊ちゃま。

ジルニア王子殿下が、門前までおいでになさっています。」


「…ああ、前に貸した書斎の本を返しに来たんだろう。……まさかとは思うが、殿下を門前に放置していないよな?」


「はい。殿下は現在、庭園を散策中でございます。」


「また薔薇目当てか……」




ミフティス王国の第四王子であるジルニア王子殿下は、王子たちの中でも自由奔放で好奇心旺盛として知られており、公爵家のネオリムの遠い親戚にあたり、幼い頃から交流があった。

ジルニア王子は十五歳。ネオリムは十七歳と、ネオリムより二つ年下なのもあり、兄のように慕われ、懐かれている。




アシュリーは伸びをして、不躾にあくびまでしながら言った



「…リシュアに鉢合わせないか心配ですね。まあ、流石にないでしょうけど」


「…………流石に、ないだろ」



と、言いながらも



二人は立ち上がった



「…俺、部屋見てきます」


「…ああ。僕は王子を探してくる」




二人は廊下で別れた


互いに、嫌な予感を抱えながら






〜〜〜






エスカディオ家の庭園は、屋敷と同じように隅々まで美しく整えられている。

白い石畳のあいだを季節の花が彩り、剪定された木々の向こうでは噴水が静かな音を立てている。



そんな庭園の、とあるベンチにて……



「そうなんだね。つまり君はネオリムの祖母の姉の娘の娘……僕の遠い遠い親戚、というわけだ!」


「…は、はい!かなりかなり遠い親戚です!!」


「そうか!………に、しても。本当にネオリムとよく顔が似てるね。まるで…ネオリムを女にしたみたいだ。髪色は全く違うけど」


「そ、そうですかね、ふふ…ふ……」



リシュアは庭園でばったり鉢合わせたジルニア王子と、二人仲良くベンチで雑談中であった


リシュアは乾いた笑みを浮かべていた


(……だ、誰か助けてください…っっ!!)


すると


ジルニアがふと首を傾げる。


「……うん?それ、なんの書類?」


「へ?」


「それ」


王子の視線がリシュアの腰元へ向く。


そこには、庭で実験をする際のイメージのために持ち歩いていた紙束があった。


リシュアは嫌な予感がした。


「これ…ですか?」


「うん」


「えっと…その…」


「見せて」


「…いえ。これは機密文書ですので。」


「機密文書を、エスカディオ公爵家の遠い遠い親戚が、庭に素のまま持ち出しているだなんてね?

…我が友人であるネオリムの親戚に失礼な疑いはしたくないんだ。

さ、どちらにせよ確認させてくれないかい?」


ジルニアは一枚を指差した。

ごもっともな王族の命令に、逆らうわけにもいかず…


リシュアは恐る恐る紙を手渡した


ジルニアが書類を見ると…




魔力伝導効率向上案

複層式魔力回路

出力損失率三%以下……など、専門用語と図式にまみれていた




「……」


「……」



王子が瞬きをする。




そして。





「これ、王宮の研究所でも聞いたことがないんだけど」





にこりと笑った。






「君、何者?」






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