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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編   第4章  語り部リット
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フォールとカノンノ



 秋の気配が忍び寄る時期は、多くのエメラルド国民を憂鬱にさせる。



 穏やかな夏が終わり、人の身にはあまりに厳しすぎる冬の到来を、冷気を含んだ風が教えてくれるからだ。



 しかし、隣国エスパーラでは違った。



 肥沃な大地が広がり、穏やかな気候に包まれたこの河の国では、秋と言えば実りの季節である。



 農作物が次々と収穫され、市場も活気があふれる。



 神々への感謝の祭りが城下の街をにぎわし、風に運ばれた雑多な香りが城内に軟禁されているディムルのもとにも漂ってきた。




 しかし、今のディムルにはその香りを楽しんでいる余裕はなかった。





(強い……!!)





 ボードゲームの盤をはさみ、涼しげな顔でたたずんでいるのは参謀フォール。



 明敏なこの青年は、盤面に冷ややかな視線を落とし、いくつか思案をしている。





 ディムルにはそんな余裕はない。





 滝のように汗をだらだらと流し、疲労にあえぐ脳を気力で酷使して読みを進める。




 この日、ディムルはフォールに勝負を仕掛けた。



 城内のみの自由を許されている人質である自分だが、今日この日だけ外出を許してくれないか、と。



 外では秋祭りの楽しそうな喧噪。

 美味いものもたくさんあるようだし、ど派手な芸などもやっているようだ。

 前世のころよりイベント好きの身としては、なんとしてでも行ってみたい。



 幸い、このオスチャッカというボードゲームは得意科目だ。



 この世界特有のゲームであり、軍術の鍛錬にも使われる。


 動き方がそれぞれ違う駒たちを操り敵のキングを取る。

 とった駒を自由に打ち込めるところといい、将棋にすごく似ている。


 将棋と決定的に違うのは、最初からいくつかの駒を持ち駒としているところだろうか。


 そのせいで将棋よりずっとややこしい展開になる。

 今生に生を受けて以来、ディムルはこのゲームが大好きであり大得意であった。



「ちょっと、まだですか?あなた少し長いですよ」



「静かにしてくださいよ……今考えてるんですから……」



 にもかかわらず、劣勢なのはディムル。このフォールと言う男、あまりにも強い……。



 ふわ。


 風が吹く。


 秋祭りの香りが、またしてもディムルの鼻腔をくすぐる。


 そしてそれがインスピレーションを刺激して……



(見えた!)


「これを、こうだっ!!」


「はい、こうなってこうこうこうこうです」



 こ、渾身の一手がノータイムで破られた!?



 前世じゃあ奨励会まで行った俺が勝てないなんて……。



 国許でも誰にも負けなかったのに……。



 ディムルが敗北感に打ちのめされぎりぎりと歯を食いしばっていると、フォールは興味深そうにディムルをのぞき込んだ。



「負けたら笑顔が消えるんですね、あなた」



「うがーっ!」



 ディムルはぎらぎらと怒気をまき散らしながら再戦を挑む。

 もう祭りなんてどうでもいい。今夜気持ちよく眠るためにも挑み続ける。

 しかし、何度挑んでも勝てなかった。



「ウルトラマジガチ激ムカつくね……」



 幾度となく負け続け、ムカついてムカつきすぎて、ついには脱帽してしまう。



(あー、くそ。驚くくらい頭が切れるんだよなぁ。この人。)



 一夜すぎたレッドフィール。



 悔しさで寝付けず睡眠不足のディムルであるが、そんなことで早朝の剣の鍛錬をおろそかにはしない。


 多くの若い武人たちが鎬を削りあうこの鍛錬場で、ディムルは一人の少女と相対していた。




 その少女はカノンノ。




 フォールの妹であり、レッドフィール城主であるゲイル将軍の秘書官でもある。



 しかし、文官ながら武に関しては超強い。



「やああああああああっ!!……え?」



 すぽーん。



 勢いよく打ち込むディムルの木剣が、少女の細腕に力ずくで吹き飛ばされる。



 おかげで丸腰のディムル。


 そして木刀を構えたカノンノが、



「ちょ、嘘!?待ってタイムタイムっ!!」


「たあっ!」


 がしっ!


「はあっ!!」


 ぼきっ!


「やあっ!」


 ぐちゃっ!



 妙齢の女性特有の艶のある掛け声とともに、ディムルはぼっこぼこにされた。



 後にかの王は語る。



 やー、えぐいっす。



「口ほどにもない。雑魚ね」



 ちなみにディムルは嫌われている。よそ者は好きではないらしい。



「次は私がやる」


 ゆらり。

 流水のごとく静かな怒気を帯びた声がやってくる。



 かの王が第一の臣下、カナミである。

 

 主が侮辱され、彼女は怒っているようだ。



「お!あの二人がやるのかよ!」


「剣術ならカナミだろっ」


「乱闘でカノンノが負けるかよっ」


「それもそうだカノンノだっ」


「俺ぁカナミに1000ゴールド出すぜ!」


「カノンノに3000!」


「俺もカノンノだ!」


「カノンノっ!」


「穴狙いでカナミだっ!カノンノの泣き顔が見てえ!」


「俺もだ!」




 夢のカードの実現に、周囲の若人たちは歓喜する。


 オッズはカナミ3のカノンノ7くらい。


 ちなみに胴元はディムルである。

 彼は時折こうして路銀を稼いでいる。




 そして結果は……。




「も、申し訳ございません……ぐふっ」


「……えーと、気にすることないよ?」



 ディムルは一人で立つこともできないほど嬲られたカナミに治癒魔法をかける。


 彼女は悔しそうに目じりに涙をためていた。



「実際すごいよね。文官なのに。この城都№1の実力らしいじゃん。彼女」



 カノンノは見た目華奢な少女である。


 しかしどこから力が出ているのか分からないほどのパワー。

 それに頑丈な身体を持っている。


 技術に勝るカナミでもなすすべがなかった。






 誰よりも速く深い思考のできる捉えどころのない知恵者フォール。




 頑丈で屈強な肉体を併せ持つ文官の皮を被った武人カノンノ。



 城都に仕える二人の若者。




 その正体は、残虐にして狡猾な魔人の末裔。




 

 大陸歴1531年秋。

 此度の事件は、この二人を中心に巻き起こる。





「面白そうな国ね、エスパーラ。くすくすっ」





 ディムルたちのやり取りを観察し、怪しく笑う女の声。



 帝国に這いよる暗い影に、かの王はまだ気づいていなかった。




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