ファガレスとイラリオ
エメラルド国に潜入した決死隊の一人、ファガレスは苛立っていた。
毎日毎日修練場に通うカナミの姿に。
カナミの眼の輝きに。
「ちぃ!」
強く強く舌を打つ。
苛立っている理由は分かっている。
カナミの姿は、似ているからだ。
勝ち目のない戦いに挑んだ、やつの主君に。
『どうだい?秘儀、超下段の構え~!!』
『ショック!!』
ぱりりっ!
ぶるっ!とファガレスは体を震わせた。
感覚が消えない。
あの日あの時、ディムルにやられた奇天烈な魔法の。
身体がしびれ、一瞬で意識が混沌とした。
これまで感じたことのない脅威。
ファガレスは気づけば冷汗を吹き出していた。
思い出しただけでこれである。
受けた屈辱は彼の中でトラウマとなっていた。
「イラつくぜっ……」
あんな子供に惨めにやられた自分に。
まんまと生き延びているあの王子に。
処刑もできないこの国に。
全てにイラつく。
憎しみは、日に日に増大していった。
「よっ。今日も機嫌悪そうだな」
木陰に腰を掛ける自分に、近づいてきたのは下種のイラリオだ。
ファガレスとは違い、機嫌がよさそうな笑みを見せる。
「……てめえは、おかしいとは思わねえのか。なんでエメラルドの猿女が稽古に来てんだよ……」
「別によくね?剣については学ぶこと多いし。なにより、なかなかの上玉じゃん?まだ子供なのが残念だけど、あのレベルの女をぐちゃぐちゃにできるのはゾクゾクするね。折れた時の姿が早く見たいよ」
ふざけている。
イラリオ自身はいたって真面目なのだが、ファガレスはその態度にいら立った。
「なら、王子を殺そうぜ」
だからだろうか。あっけからんと彼は決めた。
「主君が死ねば、あの女の絶望顔も見れるだろ」
「あはははは!冗談。んなことバレたら極刑じゃあすまね…………。本気?」
イラリオは、二の句が継げなかった。
冗談には到底見えない、ファガレスの形相を見てしまったから。
彼の眼は、暗かった。
憤怒と憎しみが深い深い沼を作る。
ソレのあまりの深さに、イラリオは一瞬のけぞるが、
「手伝うよ」
真面目な顔でのぞき込む。
「ダチが一人で無謀しよってんだ、見過ごせねえよ。それに何より、お前の案はいい案だ。主君が眼の前で殺されたカナミの顔、想像するだけでぞくぞくする。その後でゆっくりと胸を貫かれるカナミの逝き顔、ぜひ見たいね」
……やはり、この男は下種だ。
……しかし、だからこそ信用できる。
ファガレスとイラリオは、熱く拳を打ち合った。
ファガレスとイラリオは前章の『ディムルの3年』でディムルにやられた男たちです。
「覚えてないぜー」となった方は前章を是非ご覧ください。




