カナミの戦い③
その後もカナミは獅子奮迅のごとき活躍を見せる。
相手が筋骨隆々な大男だろうと華奢な技巧派だろうと関係なかった。
木刀で木刀を弾き返す打ち払う。
剣の技量では明らかにカナミが格上である。
この場にいる誰もカナミの隣に立てない。
あくまで剣の技量では、だが。
「剣はもういい。武器を持ち替えろ」
その場にいたエスパーラ兵士は約30人。
その全員がカナミに挑んだのを確認し、ゲイルは低い声で告げた。
ぼたぼたと汗を流した兵士たちはそろって修練場の端に歩く。
持ち替えたのは刀身が木で作られた長槍である。
カナミはそれをまじまじと凝視する。
「険しい山国であるエメラルド国ではあまり用いらないそうですね」
フォールが不思議そうに見つめるカナミに答える。
「これが我が国のメインウェポン、長槍です。平原の戦においては剣以上の武器。先のエメラルド国潜入の際にはエメラルド人に扮装するために剣を持ちましたが、あくまで剣は不慣れな武器。長槍を用いていれば、ディムル王子もあそこまで無双はできなかったでしょうね」
……別に槍を見たのは初めてではない。
エメラルド国でも槍を使うものはいる。鍛錬として立ち会ったことだってある。
しかし……。
(長すぎる……)
少なく見積もっても自分の背丈の三倍はある。
これほどの長さを見るのは初めてだ。
(こんなもの、振り回せるはずがない)
持ち前の速さを活かし、懐に飛び込んで終いだ。
「はじめっ」
カナミの予想は大きく外れる。
兵士たちは、手慣れた手つきで長槍を器用に振り回す。
ただ突くだけではない。斬り、打ち、払う。
カナミは手も足も出なかった。
あまりにリーチが違いすぎる。
懐に飛び込むことすらできない。
「か……っ」
みぞおちあたりに、めりめりと長槍がめりこむ。
膝から崩れ落ちて苦悶するカナミに男たちは容赦なく打ち込んだ。
「おいおいおいさっきまでの威勢はどうしたよぉ!」
「さすがは山猿のエメラルド人。人間様の工夫には手も足も出ないかぁ!」
周りからは嘲笑が飛ぶ。
敵国の剣士をぼろ雑巾になるまで殴りつけられる征服感か。
あるいは未成熟の少女をのたうち回らせる嗜虐性か。
兵士たちは盛り上がり、その日カナミは動かなくなるまで嬲られた。
*
戻ってきたカナミを見て、ディムルは眼を向いた。
鼻が折れ、皮膚は無残に引き裂かれ、肉の中は赤黒くうっ血している。
ディムルはかっとなって走り出そうとする。
やったやつを見つけて一人残らず地獄に送ろうと。
カナミはそんなディムルの袖をつかんだ。
「転んだだけです」
ディムルは毒気が抜かれてしまった。
カナミのあまりに強い眼に、何も言えなくなってしまった。
「辛かったら言うんだよ」
言えるわけがない。
カナミは今日も修練場に足を運ぶ。
そして無残なまでに長槍に嬲られる。
身体は、毎夜ディムルの治癒魔法で治してもらっている。
しかし、心の傷までは治らない。
恐怖で足がすくむ。震えあがる。
目じりには涙がたまる。
ゲイル将軍は強制しなかった。
「嫌なら辞めてもいい。所詮その程度の器だということだ」
カナミは辞めなかった。
修練場で、兵士たちはぎょっとする。
その少女の意志の強さに。
どれだけ嬲ろうとも、眼の光が消えない。
それに対する反応は様々だ。
一部の者はこれがエメラルド人かと恐怖をし、一部の者は芯の強い武人だと敬意を持った。
自他ともに認める下種であるイラリオなどは、舐めるようにカナミの身体を見回し、
「へし折ってみてえ」
「やってみろ」
カナミはその日もズタボロにされ、這い這いのまま主のもとへ戻る。
次の日も次の日も、カナミは修練場に通い続けた。




