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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
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責任




 その日もカナミはズタボロになって帰ってきた。



「いい加減、見過ごせるレベルを超えてるよ」



 痛々しいカナミの身体を癒しながら、ディムルはそう言った。

 しかし、何を言われようとカナミの問いは一つだ。



「転びました」


「またそれかい……」



 まるでイジメを受けている生徒と先生だ。


 カナミみたいに真面目な子ほど、ここで意固地になってしまうのかもしれない。


 俺は努めて優しい声をかける。


「たまには腹を割って話そうよ。力になるから」


 カナミが修練場に通っていることは知っている。

 それが彼女に与えられた仕事であることも。


 ゲイル将軍と交渉すれば、解決は可能かもしれない。



 しかし、カナミは自分から望んで通っているようにも見えた。


 3年前。

 ズタボロになってもラモスに挑み続けるローランの姿が彷彿された。


 また、そんなローランに俺も挑み続けた。


 彼女は武家の一族だ。

 彼女なりに譲れないものがあるのかもしれない。


 だとしたら、それをないがしろにするわけにもいかないが……。



「殿下だって、私に何も言わないくせに……」



 ようやく口を開いたカナミは、責めるようにじっと俺を見つめた。


 これは、想定外の反応だ。



「なんで、私なんかを救ったんですか!ご自分のことだけ考えておられればいいものを」


 カナミの口調はどんどん厳しくなっていく。



 彼女は怒っているようだ。

 知らずのうちに、プライドに傷をつけてしまったのかもしれない。


 カナミはじっと俺をにらんで、再び口を開いた。



「私が姉君に似ているからですか?」


「はい?」



 あまりに予想外の問いに、すっとぼけた返しをしてしまう。



「父や叔父が言っていました。私の顏はサラ王女殿下によく似ていると……酒の席の話ですが」



 顔を赤らめて言う。


 自分で自分のことを見目麗しい姫君に似ていると言ったのが、恥ずかしいのかもしれない。


 俺はそんな彼女をまじまじと見つめた。



 長いまつげ、切れ長の眼、高い鼻に小さい顔。

 髪色や雰囲気があまりに違うから気づかなかった。



 確かに、言われてみると……。



「…………ぷ、ふくくく。あははははははははははは。本当だ、全然気づかなかった!!似てるよ、似てるっ、あっはははははははは!!!」


「な、なんで笑うんですか!」


「い、いや、ごめ、気づかなかった自分が滑稽で、あっはははははは。ひいー、おっかしいぷくくく」


 何がそんなにおかしいのか、ディムルは完全にツボに入ってしまい笑い転げた。

 ひとしきり笑い終えた後目じりの涙を拭う。


「確かに似てる。14歳って年も俺の知ってる姉上ジャストだよ」


「……サラ王女のご婚礼が決まった時、王子殿下が暴挙に出たとお聞きしました。王陛下はまだ7歳のご嫡子を謹慎なさったとか」


「……うん、そうだよ。あの時は本当に冷静じゃなかった。信じられないくらいぶっちギレてたなあ」


「……愛しておられたのですね、姉君のこと」



 カナミは至極まっとうな感想のつもりだったのだろう。


 しかし、ディムルは意外そうに眼を丸くした。


 そして、くしゃりと顔を潰して無理やりほほ笑んだ。

 そんなんじゃないよ、と。


「俺が生まれてしまったせいで、彼女は立場を失った。だから、何が何でも助けたかった。明日も知れない人質になんてなって欲しくなかった。でも、俺は無力だった。だから、暴力にはしった。未熟だったんだなあ、心が」


 ディムルは、とても寂しそうに笑った。


 カナミは胸が苦しくなった。

 いつもにこにこしている方だが、こんな顔もするのか、そう思った。



「でも、関係ないんだ」



 ディムルの顏から笑みが消え、真っすぐとした眼でカナミを射抜く。


「俺がカナミを守るのは、俺にはそうする責任があるからだよ」


「責任、ですか……?」


 ディムルは、実に申し訳なさそうに続ける。



「ムーンストーン一族は、俺を狙ったエスパーラの一団に襲われた。俺が巻き込んだ。俺がいなければ君はここにいる必要も無かったし、家族も仲間たちも生きていた」



 ……カナミは、ディムルを直視できなかった。

 彼の顔を、今は見てはいけない気がして。


 それほどまでに辛そうな顔をディムルはしていた。



「カナミ、君は真面目でいい子だ。家族が亡くなった胸の喪失感をこらえて、俺を救うために君なりに動いてくれた」



 ディムルは、カナミの両肩を掴む。そして額をこつんとあわせた。



「ごめんね。本当に、ごめん……お父上のこと、一族のこと、仲間たちのこと。一生かけて償う。だから、今は守らせて?」



 ……ディムルの手は震えていた。



 違う、殿下が悪いわけがない。


 殿下はただの被害者で、我らは殿下をお守りするのが任務だった。

 我らはそれを失敗した。いわば自業自得だ。


 しかし、カナミは何も言えなかった。



 力のない、何一つ守れない自分には、慰める資格なんてないと思って。




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