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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
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ディムルの本領④



 キンっ。



 執務室に、金属が打ち合う高い音が響く。



 カナミとゲイルが切り結び、刃と刃をこすり合わせていた。

 その手には、カナミには短剣、ゲイルには長剣が握られている。



 リーチの差は技術を超える。

 狭い空間ではフットワークも意味をなさない。


 カナミの短剣はゲイルの長剣によって弾かれ、あっという間に斬り伏せられた。


 真っ赤な血がぴしゃっと壁にかかる。



「愚かだな、貴様は」



 ゲイルの言葉が冷たく振り落ちた。


 彼はもう笑っていなかった。

 敵を見る目で冷徹に見下し淡々と語る。


「主君に守られ、それにすら気づかず、考えもなく将を襲う。そして、己を守った主君を陥れる」


「はあっはあっ……なんだと……っ!?」


「当然だろう?王子の従者が将軍を襲ったんだ。我が国に敵意あり、問題にされないとでも思ったか?」


 それを聞くと、カナミは額に汗をたらして必死に反論する。


「ち、違う!これは私が勝手にやったことだ!」


「関係あるか。重要なのは事実。貴様は主君を陥れたんだ。主君はあれほど貴様を守ろうとしたのにな。わが兵の凶刃から貴様を守ったのをはじめ、勝算がつくまで貴様を魔法で眠らせ続けた、一族の死により痛めた心のケアを続けた。どちらが主君かわからんほど徹底した献身ぶりだ。貴様はそれを無に帰したのだ」


 ゲイルの言葉。

 一つひとつが重かった。



 カナミの頭の中で、ばらばらのピースがはまる。



 ディムル王子が目を覚まして5日後、私は目を覚ました。


(私だけ目を覚ますのが遅れたのは、殿下が『スリープ』をかけていたから?)


 自分をずっと眠らせていた。

 眠らせていた方が都合が良かった?


 自分は此度の策について何も聞かされていなかった。


 とことん信用されていないという事か。



(いや、違う……)



 殿下は、私に負担をかけないようにしていたんだ。


 私が一族の死をただ悲しめるように。

 少しでも早く、立ち直れるように……。


 何故。



(何故、そこまで……)



 カナミは折れそうなほど自分の歯を噛みしめた。


 灼熱の痛みをこらえ、ふらふらと立ち上がる。

 幸い傷は深くない。


 尖った眼で眼前の男を強くにらむ。



「……獣のようだな」



 脳天の奥底に、凍えるような低い声が響いた。



「激情に流されただ噛みつく。眼前の餌によだれをたらす犬コロにすら劣る」



 ゲイルはカナミを侮蔑した眼で冷ややかに見下ろした。

 その視線が言葉が、カナミの胸中に溶けて混じった。



(何も、考えていなかった……)



 考えていたのは、力ずくで脱出することばかり。

 子供二人ではどだい無理な計画だ。


 そんなものは考えてるうちに入らない。



 私は……。



「何故主君の気持ちがくみ取れんっ……この愚か者がっ!!」



 ゲイルの言葉を何一つ否定できず、カナミはうつむいた。


 主君の足を引っ張り、窮地に陥れる……これが護衛のやることか……!



 私は……父者たちから何を学んでいたんだっ…………!!



「ぐ、あああああああああああああああっ!」


 うなだれ、視界をふさぎ、次の瞬間ゲイルの長剣につかみかかった。

 握りしめた掌に血があふれる。


 ゲイルはそんなカナミをうっとうしそうに蹴り飛ばし、悶えるカナミの関節を締め上げる。



「あああああああああああああああああっっ!!」



 それでも、カナミは叫びを続けた。


 本物の獣のように。

 痛みなんてどうでもよかった。


 ただ、悔しい。



 静かな夜の中、彼女の悲しい咆哮が響いた。






*






 カナミは痛む身体を引きずり、離れの小屋に戻る。

 もう深夜を回っていた。


 部屋に明かりがついている。

 恐らく、殿下が私を待っている。


「やあ、遅かったね。ご飯すっかり冷めちゃってるよ……って……血まみれじゃないか!!関節も外れてる……!?」


 ディムルはすぐさま治癒魔法をかけた。

 瞬く間に傷がふさがる。


 カナミはまた助けられたようで嫌な気持ちになった。


 自分が気づかなかっただけで、常にこうだったのかもしれない。


 常に私を気にかけて……。

 眼の前に落ちる小石を取り除いて……。



「わわっ、どうしたの!?まだ痛いの!?」



 気づけば涙を流していた。


 武人だというのに、恥もなく。




 守るべき存在に守られている。

 カナミはそれが悔しくてたまらなかった……。




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