ディムルの本領④
キンっ。
執務室に、金属が打ち合う高い音が響く。
カナミとゲイルが切り結び、刃と刃をこすり合わせていた。
その手には、カナミには短剣、ゲイルには長剣が握られている。
リーチの差は技術を超える。
狭い空間ではフットワークも意味をなさない。
カナミの短剣はゲイルの長剣によって弾かれ、あっという間に斬り伏せられた。
真っ赤な血がぴしゃっと壁にかかる。
「愚かだな、貴様は」
ゲイルの言葉が冷たく振り落ちた。
彼はもう笑っていなかった。
敵を見る目で冷徹に見下し淡々と語る。
「主君に守られ、それにすら気づかず、考えもなく将を襲う。そして、己を守った主君を陥れる」
「はあっはあっ……なんだと……っ!?」
「当然だろう?王子の従者が将軍を襲ったんだ。我が国に敵意あり、問題にされないとでも思ったか?」
それを聞くと、カナミは額に汗をたらして必死に反論する。
「ち、違う!これは私が勝手にやったことだ!」
「関係あるか。重要なのは事実。貴様は主君を陥れたんだ。主君はあれほど貴様を守ろうとしたのにな。わが兵の凶刃から貴様を守ったのをはじめ、勝算がつくまで貴様を魔法で眠らせ続けた、一族の死により痛めた心のケアを続けた。どちらが主君かわからんほど徹底した献身ぶりだ。貴様はそれを無に帰したのだ」
ゲイルの言葉。
一つひとつが重かった。
カナミの頭の中で、ばらばらのピースがはまる。
ディムル王子が目を覚まして5日後、私は目を覚ました。
(私だけ目を覚ますのが遅れたのは、殿下が『スリープ』をかけていたから?)
自分をずっと眠らせていた。
眠らせていた方が都合が良かった?
自分は此度の策について何も聞かされていなかった。
とことん信用されていないという事か。
(いや、違う……)
殿下は、私に負担をかけないようにしていたんだ。
私が一族の死をただ悲しめるように。
少しでも早く、立ち直れるように……。
何故。
(何故、そこまで……)
カナミは折れそうなほど自分の歯を噛みしめた。
灼熱の痛みをこらえ、ふらふらと立ち上がる。
幸い傷は深くない。
尖った眼で眼前の男を強くにらむ。
「……獣のようだな」
脳天の奥底に、凍えるような低い声が響いた。
「激情に流されただ噛みつく。眼前の餌によだれをたらす犬コロにすら劣る」
ゲイルはカナミを侮蔑した眼で冷ややかに見下ろした。
その視線が言葉が、カナミの胸中に溶けて混じった。
(何も、考えていなかった……)
考えていたのは、力ずくで脱出することばかり。
子供二人ではどだい無理な計画だ。
そんなものは考えてるうちに入らない。
私は……。
「何故主君の気持ちがくみ取れんっ……この愚か者がっ!!」
ゲイルの言葉を何一つ否定できず、カナミはうつむいた。
主君の足を引っ張り、窮地に陥れる……これが護衛のやることか……!
私は……父者たちから何を学んでいたんだっ…………!!
「ぐ、あああああああああああああああっ!」
うなだれ、視界をふさぎ、次の瞬間ゲイルの長剣につかみかかった。
握りしめた掌に血があふれる。
ゲイルはそんなカナミをうっとうしそうに蹴り飛ばし、悶えるカナミの関節を締め上げる。
「あああああああああああああああああっっ!!」
それでも、カナミは叫びを続けた。
本物の獣のように。
痛みなんてどうでもよかった。
ただ、悔しい。
静かな夜の中、彼女の悲しい咆哮が響いた。
*
カナミは痛む身体を引きずり、離れの小屋に戻る。
もう深夜を回っていた。
部屋に明かりがついている。
恐らく、殿下が私を待っている。
「やあ、遅かったね。ご飯すっかり冷めちゃってるよ……って……血まみれじゃないか!!関節も外れてる……!?」
ディムルはすぐさま治癒魔法をかけた。
瞬く間に傷がふさがる。
カナミはまた助けられたようで嫌な気持ちになった。
自分が気づかなかっただけで、常にこうだったのかもしれない。
常に私を気にかけて……。
眼の前に落ちる小石を取り除いて……。
「わわっ、どうしたの!?まだ痛いの!?」
気づけば涙を流していた。
武人だというのに、恥もなく。
守るべき存在に守られている。
カナミはそれが悔しくてたまらなかった……。




