↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第二部 河の国編  第2章 剣士カナミ
PR
69/99

ディムルの本領③


「困難を茶番に変える力でも持っているんですか?」


「あっはは。茶番って、人聞きが悪いですよ」


「こちらは入念に準備をして、命を捨てる覚悟で敵国の奥深くまで潜入したんです。そうまでして手に入れた人質を、『こんないい子が死ぬなんて不憫だ。助けよう』なんてふざけた理由でひっくり返されたんです。茶番も良いところですよ」


「みんなのおかげで生きている。世界って素晴らしいね!」


 恨めし気にのぞき込むフォールに対して、ディムルは親指を突き立てる。


 フォールはため息をついて眼をそらした。


「これがあなたの言うパーソナルブランドですか」


 ディムルはにっと笑う。


 「彼」の前世は世界有数の経営者であった。


 しかし「彼」は並み外れた頭脳を持っていたわけではない。


 他者より画期的な発想力を持っていたわけでもない。


 何でもできるが何にもできない器用貧乏な青年であった。


 だが、「彼」にとってそれはさしたる問題になりえなかった。


 なぜなら「彼」は、一人で戦う必要などなかったのだから。



「コミュニケーション能力?」


「ええ。友達作りの力、と言い換えてもいいです」


「あなたはソレに秀でていると?」


「これだけは誰にも負けない。少なくとも、そんな自分でありたいと思っています」



 俺は無力な人間だ。


 圧倒的な力も、冴えわたる頭脳もない。


 そんな俺にできる事と言えば、味方を創り助けてもらうことくらいだ。


 俺にできないことはみんなにやってもらう。


 関係構築・対人折衝・人脈づくり。



 それが俺にできる、俺にしかできない俺だけの売り。

 俺のパーソナルブランドだ。



「本当は、どんなことでも負けたくないんですけどね」


 ディムルはいたずらっぽくほほ笑んだ。


 フォールはやれやれと肩をすくめる。


「しかし王子。あなたの読みには一つ穴があります」


「え?」



 しゅっ!



 フォールはディムルの腕をつかみ、懐から抜いたナイフを首に押し付けた。


 流れるような動作。

 抵抗する間もなく、首に冷たい感触が広がる。




「峰打ちですか、驚いたな」




 ぽりぽりと頬をかく。

 フォールの抜いたナイフには刃がなかった。

 あくまで反応を見るためのものだったのだろう


「こういうこともあるということです。あなたは交戦中の敵国の王子。皇帝陛下が愚君であれば、激情で殺されていた可能性は十分にありました」


 内心、フォールは舌を打つ。


 ディムルは眉一つ動かさなかった。

 刃が首に触れる瞬間までほとんど反応が見られなかった。


 恐怖も焦りも絶望も。


「人を動かすのは利だけではない。重要なのは情。もちろんわかっていますよ。正直、それが一番怖かった」


 こんな時でも、ディムルはにっこり笑う。実に楽しそうに。


「ララード大河域の偉大なる覇者、レイゾル・エスパーラ帝。この国の価値観、『奇貨、置くべし』。若くしてこれだけの城都を任せられるゲイル将軍。決して浅慮な判断はしない、そう考えました」


 どこまでも冷静な少年だ。


 フォールの襟に、わずかな冷や汗が染みる。

 それすらもディムルには見えていた。


 彼は底知れないニヒルな笑みを浮かべた。



 フォールはふいに恐怖した。



 刃がその身に迫っても動じないその胆力。

 敵国で多くの味方を作るその人徳。

 知恵とスキル、魔法と剣技。


 なにより、持ちうる力全てを従者の少女を守るためだけに使った。


(そんな人間がいるわけがない)


 これではまるで物語の英雄だ。


 底知れないこの少年。




 あなた、いったい何者なんです?




 問いは、夜の静寂に消えていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。