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乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第一部 乱世転生編  第3章 家族
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透明の姫君


 今生において、俺には姉が二人いる。


 年の離れた姉と年の近い姉。

 腹違いの姉とそうでない方の姉だ。


 年の離れた姉、サラ・エメラルドは父の前妻の子に当たる。


 サラ姉上の母君は、大変美しい人であったらしい。

 しかし、平民の出であったらしい。


 王族とはあまりに身分違い。

 しかし、二人は結婚した。

 周囲の反発を押し切って。

 その過程にどんなドラマがあったのかは知らない。


 ただ二人は愛し合い、その証に子を産んだ



 それがサラ姉上である。




「エメラルド国は、資源にとんだ小国です。常に他国の脅威にさらされ、王家の方々は国を守ろうと果敢に戦い、果てていきます…」


「つまり慢性的な王族不足、か」




 あれは、いつだっただろうか。


 ある雪の日のことだ。


 問い詰めたことがある。

 俺の姉上のことを。


 アイシャは語った。

 俺が生まれる前のエメラルド国を。



 透明の姫君、サラ・エメラルドの人生を。





 王族はどんどん増やさなければすぐに在庫切れだ。


 身分違いの王妃は、繁殖用の羊のように、多くの子を産むことが望まれた。

 それもできれば男の子を。


 エメラルド国はどちらかといえば男性優位の気風を持つ。


 王妃の最も重要な仕事は、次の王となる男子を生むことに尽きる。



 しかし、サラ姉上の誕生から5年。

 二人の間には子宝が恵まれなかった。


 女子を一人生んだだけの、身分卑しき王妃様。


 王城内での立場は決して盤石ではない。


 父にとっても、5年の空白は長すぎた。


 嫡男となるべき男子を求める周囲の圧力にかなわず、二人目の妻を取る。

 この世界において、一夫多妻など珍しくもない。


 選ばれたのはエメラルド国4名家の一つ、アクアマリン家のご令嬢。

 名はポニャ・アクアマリン。



 俺の母だ。



「ポニャ王妃は、すぐに子を産んだそうです。王子の実の姉君、サーシャ・エメラルド王女殿下ですね」


「そして一年後、俺が生まれた………」



 第一王妃は立場が無くなった。


 嫡男が生まれた後、出自が平民の王妃の胸中はいかなるものだっただろうか。


 後ろ盾となってくれる家もない。

 支えてくれる家臣もいない。


 武人でもない彼女は、王とともに戦場へ出立することもできない。


 高度な教育も受けていないため、政治家としての素養もない。


 自分を侮蔑してくる敵しかいない城内で、幼い娘と取り残される。




 ……その後王妃は自ら命を絶った。

 1人の娘を残して。




「私はまだ城に仕え始めたばかりのころでした。細かい事情は知りませんでしたが、それでも噂は聞こえてきます。当時の正妃様は呪いを残しただの、王家の血を汚しただの、蔑まれていました。サラ殿下は……針のむしろだったでしょうね」


「…………」



 正真正銘、敵だらけだ。


 王城にぽつんと残された幼い姫に、味方は誰もいない。


 王家の血が半分、平民の血が半分。

 王家のまがい物と、彼女は陰から笑われた。


 常に滅びと隣り合わせるエメラルド国は質素で豪胆な気風を持つ。

 周囲から山猿と呼ばれるこの国は、身分による格差が少ない方だと聞く。


 それでも8歳の子供の心を折るには十分だ。



 ……いや、折れたとみなされるには十分だった。




「あの事件がきっかけかもしれません。私のような武闘派が、王子の守り役に選ばれたのも」


 アイシャは息をふっと吐き、静かに呟く。


「当時まだ7歳のサラ王女殿下による、王子暗殺未遂事件……」




 その事件の後、彼女は誰もが触れない、誰の眼にも止まらない。


 透明の姫君となった。




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