↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱世の転生者  作者: 情熱のデンプシー
第一部 乱世転生編  第1章 師弟
PR
14/99

最期の奉公


『アクアエッジ!』


 ディムルが固唾を飲んで見守る中、開戦はイリーナの魔法から始まった。


 範囲攻撃アクアエッジ。水の刃が横に広がり、勢いよく相手に向かう。


 しかし、相手の3人は飛び、しゃがみ、あっけなくかわす。


「ひひっ、魔導士は距離をつぶせば無意味。詠唱する間もなく死ね」


 しゃがみ、地を這いながらそのまま飛びかかる老人。

 しかし、イリーナの元に刃が届くことはなかった。先ほどのように、下から盛り上がる樹のツタが老人の足をからめとる。


(なんと、無詠唱っ!?)


 ディムルは思い返す。

 イリーナは得意の植物魔法に限っては無詠唱で発動できるのだ、それもとてつもない精度で。

 

 老人はまんまと宙づりとなり、そのままブンブンと振り回される。

 まずは1人。


 次は正面から仕掛ける大男。

 盾として出した竹藪を太いこん棒でかきわけて進む。


 「おで、ぶん殴るっ!」


 大男がこん棒を振り上げる。

 応戦の詠唱を唱えるイリーナ。


「あっ」


 離れた位置から見えていたディムルが声を上げる。

 イリーナの死角である足元。大男の靴の先から仕込み刃が伸びた。


(太いこん棒を誇示しての、暗器だあああああっ!)


 しかし、その刃がイリーナに届くことはなかった。


「草木に教えてもらいました」


 草木から情報を入手できる、イリーナの特殊能力……!


 警戒していた攻撃をよけることは難しくない

 相手の蹴りをまんまと躱したイリーナは魔法で追撃する。


『スリープ!』


 大男は睡魔で混沌とし、膝をついた。

 2人目。

 

 残るはリーダー格の男、彼は仲間二人を囮にしてイリーナの背後に回り込み、剣を振るうっ。


「それも見えていますっ」


 樹の太いツタでガード、コンマ数秒の時間稼ぎは詠唱時間のためのもの。


『ファイアーボール!』


 最も詠唱を短縮できる攻撃魔法。それが直撃する。しかし……



「っああああ、ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



 声にならない悲鳴があがる。

 相手のではない。イリーナの悲鳴だ。


 剣の切っ先、それがイリーナの胸を切り裂いたのだ。


 ぷすぷすと、身体が焼け焦げたリーダー格の男がイリーナを見下ろす。


「斬られたくれえで恥もなく、甲高く叫ぶ。てめえ鍛錬を積んだ兵士じゃねえな?ファイアーボールも威力が途中で下がったぜ、殺さないようにとでも思ったか?カスみてえな優しさだな」


 裏目だ。


「おい、起きろデカブツ」


 リーダー格の男に蹴られて、大男はよろよろと起き上がる。見ると、力の弱まった樹のツタを切り落とし、老人も歩み寄る。


 相手を殺さずに制圧しようとした結果、すべてが裏目に出た。

 相手の3人、誰一人戦闘不能にできていない。


「終わりだ」


 剣を振り上げ、とどめを刺そうとするリーダー格。


 ディムルは、その前にゆっくり歩み出た。


「ああ、終わりさ。君たちの勝ちだ」


「あん?」


「君らの勝ちでいい。だから帰ってくれ。セリア王国なりなんなり、君たちの帰る場所があるんだろう?もう終わりにして、さっさと帰るんだ」


「ざけてんのか王子様よぉ。俺らが帰るのは、あんたを始末してからだよ」


「なら……」


 ディムルは一瞬ためらい、


「さっさと殺れ」


 そして覚悟を決める。


 誰かが死ぬくらいなら、まずは自分を。一貫してそうだ。

 彼は師のため、仲間のためなら平気で命を投げ出す。

 すでに一度死んでいるというのに、学ぶことなく。


 この年端も行かない幼き王子の覚悟に、3人の追手たちは眼に見えてひるんだ。


「王族が……下々のために命を差し出すかよ」


 リーダー格の男は顔をしかめる。

 

 この女はエルフだ。

 エメラルド国民ではない。

 恐らく正規の軍人でもない。

 死んだとしても、国から見れば惜しくもない人材だろう。


 それなのに、この幼き王子は命を張るというのか。


「……」


 彼の祖国、セリア王国はガチガチの身分制だ。

 優秀だろうが無能だろうが、平民は平民、貴族は貴族。

 

 それについては不満はない。

 とうの昔に祖国に忠誠を誓った身だ。

 いまさら不平も不満もあるはずがない。


 しかし、迷う。


 聡明と噂の王子。ただの雇われエルフのために命を張る王子。


 今、この子供を始末してもいいのか。


 民のために命を張る、そんな偉大な王子の未来を、今ここで摘んでしまってもいいのか。


 一瞬、ほんの一瞬だけ、迷う。

 

 そして、その一瞬が余力を与えてしまった。

 樹のツタが、竹槍が、追手たちに襲い掛かる。


「師匠っ!?」


「無茶、しないで下さい……。あなた様は王子です、それにまだ幼い。抱え込む必要はないんです。何より私のかわいい弟子です。弟子は師より先に逝くものではありませんよ」


 イリーナは、優しい声で教え諭す。まるで、いつもの授業のように。


 そんなはずはない。現にイリーナの胸からはとめどなく血が溢れる。

 痛そうに顔をしかめながら、油汗を吹き出しながら、傷口を必死に抑えながら、それでも彼女は気丈にほほ笑む。


「守らせてください。これは私があなたにできる。最期の奉公ですから……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。