幕間 ――超一流のバルフォアと、S級のネイト
「は……? ま、待て待て、なにかの間違いだろう?」
「超一流のこのわしが間違えるかバカタレ。先ほどわしが言ったとおりじゃ」
たじろいでいたネイトに、派手な格好のバルフォアは告げる。
「この灰は、本物のヴァンパイアの灰。それも、真祖の灰じゃ」
告げられた素材の名に、ギルド内は一気に静まり返った。
焦りの顔を浮かべる冒険者たち。
――当然だ。
これを持ち寄った仲間の一人を、たった今、集団でなじったばかりなのだから。
「ば、バカなっ! そんな伝説上の魔物、誰がどうやって倒すっていうんだ!? ――おいジジイ、デタラメぬかしてんじゃねぇぞ!」
「このバカタレが! 超一流の鑑定眼を求めたから、わしに依頼を出したんじゃろうが! だというのにこのわしを疑うのか!? バカタレ、それは自分が無能だと口走っていることと同じじゃ!」
意見を差し込まれたバルフォアが怒鳴る。
王都セントクロヴィス。
さまざまな錬金術師や鑑定士、職人が住む街。当然、腕利き揃いだ。
リリィに恥をかかせようと、一番の腕を持つ者に依頼したネイト。
その鑑定眼を疑うということは、自らの無能を晒すことと同義。
――今この街で一番の鑑定眼を持つのは、間違いなくこのバルフォアなのである。
「クソが! そんなものを倒せるとしたら、せいぜい勇者くらいしかいねぇってのに……よりにもよって、あのリリィの仲間がだと……!?」
悔しさに涙浮かべるだけだったリリィは、討伐者から自然と除外できる。
となると、倒したのは乞食のジーノか、奴隷のクリスティーナか。
ネイトはテーブルを叩く。
その手がわずかに震えていたのは、恐れからだろうか。
S級のネイトを含め、他の冒険者たちが青ざめるなか――
「おいジジイ、やっぱりデタラメだろ!? どうして真祖の灰なんてものを目の前にして、そんな余裕でいられやがるんだ!」
「フン、わしくらい超一流になれば、これと同列の素材くらい、過去に何度も見ておるわ」
バルフォアだけは、真祖の灰を前にしても、動じずにいるのだった。
テーブル席につき、頬杖をつくバルフォアに、ネイトはまだまだ当たり散らす。
「過去だぁ? ハッ、つまり、今はとんと見ていないってことだよなぁ? ――近ごろジジイんところの剣の品質が落ちているのは、それが原因かぁ?」
「な、なんじゃと!? わしの剣は超一流じゃ! わしの腕が落ちとるのではない、使うお前らや、『王国の盾』の腕が落ちとるだけじゃ!」
余裕なバルフォアだったが、手痛いところを突かれたのか、表情を一変させて怒鳴り返していた。
「それに」と、あとに続く言葉で、さらに自分以外の誰かのせいにする。
「使えん新人店員共が、指示した素材を一個も採ってこられないのが悪いんじゃ……! わしの腕が悪いわけではないわ!!」
「ハッ、さっきの言葉をそのまま返してやる! てめぇこそ、そうやって誰かのせいにして、自分の腕が落ちているのを認めてるようなもんじゃねぇか、クソジジイ!」
口の回るネイトは、しっぺ返しを見舞う。
バルフォアは「ぐぬっ、小僧が!」と、拳を強く握るが――それ以上は言い返さない。
ネイトの言うとおり、これ以上の言い訳は、品質低下を認めることに――
自分の腕が落ちたのを、認めるだけにしかならないからだ。
「そうじゃ……決してアイツがいなくなったから、店の評判が落ちたわけじゃない……! 薄汚い、アイツなんかのせいじゃ……!」
最後にバルフォアは、誰かに対して、恨めしそうに呟くのだった。
「ね、ネイトさん、これが本物の灰だとしたら、俺たちマズイんじゃ……!」
「男のほうか、女のほうか分からないが、もしも復讐にきたら……い、今のうちに逃げたほうが」
「るせぇっ! てめぇら、まさか逃げるつもりじゃねぇだろうなぁ!?」
ネイトは剣を抜いて、言ってきた冒険者や、ギルドから逃げ出そうと冒険者に脅しをかける。
ネイトは性格に大きな難があるが――S級であることは本物だ。
そんなS級の恫喝を前にして、冒険者たちは、男も女も足を止めていた。
「ヴァンパイアがなんだ、真祖がなんだ。ヴァンパイアごとき、S級で十分倒せるし、真祖だって、伝説級って噂だけで、大したことなかっただけかもしれねぇ」
ネイトは笑みを浮かべて、逃げる者を許さない。
「あんな乞食と奴隷ごとき、俺たち冒険者の敵じゃねぇ。復讐――? 上等じゃねぇか、ここにいる全員で、ズタズタにしてやりゃあいいんだよ」
勇みよく言うネイトだったが――
その笑みは、歪に引きつっていた。
「乞食じゃと……? おいバカタレ、そいつ、ジーノとかいう錬金術師じゃなかろうな?」
「乞食の名前なんざ、いちいち覚えちゃいねぇが……確か洞窟でそんなふうに呼ばれていたかもな」
「ジーノ……! あのバカタレが、真祖の灰を……!」
バルフォアは拳を強く握る。
まるで、その男を憎むように。
「おいジジイ、仕事は以上だろ? だったらとっとと失せな、あんたにもう用はねぇ。これからギルドは、戦場になるかもしれねぇんだからよぉ」
「フン! この超一流のわしが、そんなバカなことに付き合うわけないわバカタレ!」
「言われずとも帰るつもりじゃったわい!」と、バルフォアは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
唯一冒険者ではなかった老人だけは、去ることを許されるのだった。
「さぁてめぇら……身の程知らずな復讐者共を、歓迎してやろうぜ」
冒険者たちは息をのむ。
間もなく冒険者ギルドは、戦場となるだろう。




