ジーノパーティVS神造要塞 ② ――ザコ……?
「た、戦う――だって!? 正気かあんちゃん、靴すら履いていないってのに!」
「ご主人さま、会議場跡へ行って、私はどうしたらいいの!? こいつ倒して名誉ほしいんだけども!」
幾分正気を取り戻したヴィリヤミは、戦うと言い出した裸足の男に言葉をかける。
クリスティーナも、自分の都合から意見する。
「坑夫の皆さんと、そこで隠れていろ。まだ残る仮設住宅よりも、一度破壊された建物のほうが、ゴーレムの目に止まりにくいかもしれない。――それと、探してこい」
ゴーレムに掴まったままのクリスティーナと、リリィに向けてジーノは言う。
「リリィの宝を。仲間の宝を守るのも、名誉になると思うんだが?」
「じ、ジーノさんっ」
「えへへっ、確かに! さすがはご主人さまだ、その命令、了解したよっ!」
ジーノは、リリィが趣味を明かしたくないことを知っている。
この場には自分たち以外にもたくさんの坑夫がいる、だから、小説とは口にせず、宝とたとえた。
即座に命令を理解したクリスティーナは、ゴーレムから飛び降りた。
木のてっぺんよりもはるかに高い場所から飛び降りたわけだが、何ごともなさそうに着地する。
「リリィちゃんが先導して! 私が殿を守りながら、どっか行っちゃった坑夫を集めるから、そのあとリリィちゃんの宝を探そっ!」
「わ、分かりました! で、でも、私の宝なんか……小説なんか、探している場合じゃ……!」
「本当にそれでいいのか、リリィ」
凄絶極める状況。
新人ではあるものの、リリィはこの状況での優先順位くらい理解できている。
だから一度はそう申し出たのだが――
「――よくないです!! 本当は坑夫さんやネイトさんの命よりも、ずっとずっと私の小説のほうが、大事だって思ってます!!」
「はははっ、正直だな。だが分かるぞリリィ、俺だって素材のほうが大事だ」
「うんうん、私の名誉だってそうだもん!」
簡単に捨てられるほど、彼女の宝は安くはなかったのである。
普段は遠慮がちなリリィの本音を聞いたジーノは、珍しく笑っていた。
「作戦は理解したな。頼んだぞクリスティーナ、リリィ」
「おっけーご主人さま! 私は会議場跡を狙われた場合、全力でガードする!」
「私は、坑夫さんにお薬を飲ませて、怪我人の治療を、ですね!」
三人の付き合いはまだまだ短い。
大切なのは期間ではなく、その密度なのだろうか。
コルトン村での修羅場を乗り越えた三人は、完璧な意思疎通を図っていた。
だがそのとき――
鈍重な動きのゴーレムが、近場にいた人物に鉱物でできた腕を振り下ろしていた。
「じ、ジーノさん!? ゴーレムに狙われて――!」
「大丈夫、あんなとろとろな攻撃、ご主人さまなら避けられ――!」
狙われたのはジーノ。
ジーノは敵の攻撃に気づき、すぐそばのリリィが巻き込まれないよう突き飛ばす。
逃げる動作がワンテンポ遅れたが、それでもジーノなら間に合う。
なのにジーノは――潰されてしまった。
「そ、そんなっ! ジーノさんが!?」
「う、うそご主人さま……避けられなかった……!?」
地面を転がるリリィと、潰される場面を見ていたクリスティーナ。
ゴーレムがゆっくりと、振り下ろした拳を持ち上げる。
生々しい血が、紫色の魔水晶にこびりついていたのを見て、凍りついた。
「そ、そんなっ! ジーノさんが、死んで……!?」
「ご主人さまっ、ウソだ、ご主人さま!」
ジーノの命が奪われた。
その事実に、彼女たちの頭が追いついていなかったのだが――
「ふーむ、思ったより微妙だったな」
めり込んだ地面から、死んだはずのおっさんの声が聞こえてきた。
「よっと!」と、軽そうなかけ声とともに、穴から飛び出る人影。
「どうにも難しいな、洞窟薬品の配合は」
「………………も、もしかしてですけど、素材の効果を調べるために、わざと食らっただけですかーっ!?」
「えぇーっ!?」
人影は、ポーションの小瓶を片手に、のんきそうにしているジーノだった。
そう彼は、ポーションの効果を知るためにわざと攻撃を食らったのである。
「ご主人さまっ! さすがに死んだかと思ったよ! ややこしいから危ないことはやめて!?」
「ですです! 相手は洞窟スライムとは違います――危ないことはもうやめてくださいって、私、言いましたです!」
猛抗議するクリスティーナとリリィ。
ジーノは、こう言ってのける。
「いやだって、ザコだし」
穴から出たジーノは、不思議と怪我一つない状態だった。
どうやら受けた傷は、その『微妙』なポーションで完全回復させたようである。
リリィはそんなジーノを見て、思う。
「……もしかして、洞窟スライムから私をかばったのも、本当に薬の効果を知るためだけなのではっ……」
「リリィちゃん、ご主人さまの行動は深く考えちゃダメ」
絶対そうだと、確信してしまうリリィなのであった。
「って、ジーノさん、頭からすごい出血してますよ!?」
「っとと、さすがに要塞級の攻撃は重たいな、ポーションもう一つ二つ使っておこう」
神造要塞をザコと評したジーノだったが、さすがにそうはいかないらしい。
間を置いて、思いっきり頭から出血したジーノは、追加で二つポーションを飲んで、今度こそ全回復させた。
「それよりなにしてるんだ二人とも。急いで坑夫たちを一つに集めて、会議場跡に避難しないとダメだろ?」
「なにしてるはこっちのセリフだよご主人さまっ!」
そんなこんなありながら、クリスティーナとリリィは、己の役割を果たすためにこの場を急いで離れる。
ジーノと神造要塞の一対一が、ようやく始まる――かと思われたが。
思いがけないことが起きる。
「むっ、コイツどこ向いて」
肝心のゴーレムは、ジーノに興味を示していなかったのである。




