異変
「おうお疲れさん。ほれ、これが洞窟薬品草二〇束な。現金のほうはギルドから受け取ってくれよな」
「むひょおおおお! なかなか状態も良さそうな薬草だ! 配合を変えてより良いポーションを作るぞー!」
仮設住宅が集合する会議場に戻ったジーノたち。
報酬の道具はギルドの管理下におけないのか、この場で受け取ることができた。
ヴィリヤミから報酬を受け取ったジーノは、普段の無表情を崩して喜んでいた。
「はぁ~、なんとか依頼達成できました……みなさんのおかげです、ありがとうございました!」
「でへへー、それほどでもっ。ちょっぴり名誉にもなったし!」
部屋の中心にある大きな木のテーブルにつく三人。
リリィはこの場の皆に礼を言った。
「それに――」と、リリィは自分の両の手のひらを見る。
「まさかまさか、初期のヒール以外の魔法を使える日が来るなんて、思いもしませんでした……ジーノさん、本当にありがとうございます!」
「ここをこうして――んん? なんかしたっけ?」
早速無色のオーラでポーションを作製しているジーノは、あまり話を聞いていなかった。
リリィはそれでも構わないと、話を続ける。
「それと、かばってもらってすみませんでした。自分が弱いからって、守ってもらう理由にはなりませんよね!」
「え? あれは洞窟薬品の効果を知りたかっただけで――」
「そういうことにしておきますっ」
「ジーノさんらしいです」と、リリィはつけ加える。
リリィは最後に、こんな約束をお願いする。
「でもジーノさん、いきなりあんな危険なことはやめてくださいね。ジーノさんになにかあったら、私もクリスティーナさんも、悲しいです」
「む、そうか。なら、ザコ相手以外には慎むか」
「できればザコとか関係なく慎んでほしいです……」
「そのザコに必死な私とは……」と、激戦の相手をザコと評され、少ししょぼくれるリリィなのであった。
ジーノが素材に夢中になっていることから、すぐには出発する様子ではなかった。
リリィは肩にかけていた鞄を大きなテーブルに置いて、一休みする。
すると、話が一段落したとみたのか、ヴィリヤミがこんな確認を取ってくる。
「遺跡には手出ししてないよな? 魔水晶の遺跡が近くに露出していたはずだが」
「あ、はい! すごくキレイでしたね~……昔の人が作ったんでしょうか」
「どうだかな、俺ら鉱夫には分からねぇや。まぁ遺跡と洞窟――というか、魔水晶が無事なら、俺らは問題ねぇんだが……ところで」
ヴィリヤミはリリィから視線を外すと、先ほどから気になっていたあるものに視線を移す。
「その赤い石――嬢ちゃんたちが帰ってきた辺りからずっと光ってるんだが。なんだそれ?」
「魔動コアだ。光っているのはたぶん、なにかに共鳴して――」
「ハッ、てめぇらまだここにいたのかよ」
そのとき、遅れてネイトが戻ってきた。
戻って早々憎まれ口を叩いた男に、ジーノは話を中断される。
かさばるからと、この場に置いていた魔動コアが赤く光るなか、ネイトは続けて言う。
「依頼は終わったんだろ? なんの話をしてやがった」
「遺跡の話だよねちねち。壊さなかったかって、その確認だよ」
魔動コアの話は中断されたので、遺跡のことを話すクリスティーナ。
「ね、ネイトくらい付けろ!」と、ネイトはクリスティーナにツッコむ。
「遺跡……ああ、そういえば、出発前にそんなこと言って――」
ネイトが思い出したかのように呟くと、突如足元が揺れた。
「じ、地震ですっ!?」
「だがもう収まったぞ。揺れも小さかったな」
「まーセントクロヴィスの周辺はたま~に地震あるし、自然現象では?」
海沿いに面するセントクロヴィス周辺では、地震はそこまで珍しいものではない。
だがそれでも、看過できない者もいる。
鉱山労働責任者のヴィリヤミである。
「かぁーっ、地震かよ! 野郎どもに退避命令出さにゃならねぇ」
「そっか、落盤事故とかになったら一大事ですもんね。――あ、あの、よかったら私もなにかお手伝いをっ」
「いいのかい? ほんなら、一番と二番坑道の確認頼めるか? ま、取り越し苦労だろうがよ」
「最近監査が厳しくてな」と、ヴィリヤミはぼやく。
そのやり取りを見ていたネイトが、誰にも聞こえないような小声で呟く。
「ちっ……リリィのやつ、テスト終わったってのに、点数稼ぎのつもりかよ」
ネイトは、もはやリリィの一挙手一投足が憎いのだろう。
露骨に不機嫌そうな態度をしているのだった。
「私たちも行こっ、――名誉のために! ほらほらご主人さまも!」
「おお? 待て待てポーションを持っていくから」
ヴィリヤミ、リリィに続いて、ジーノはクリスティーナに引っ張られて、会議場をあとにする。
「大げさなやつらだ、たいして揺れてねぇってのに、くそ」
会議場にはネイトだけが残される。
金鎧の男は、きょろきょろと辺りを見回した。
「ちっ、このまま帰るわけには……ん、ありゃ、リリィがいつも大切そうにしてる鞄か」
赤く光っている魔動コアなんかよりも、ネイトはリリィの持ち物に目が奪われる。
リリィは杖こそ持っていったが、鞄は置いていったままだった。
「なんかねぇのか、ウスノロリリィを困らせる、なんか――」
始めは、虫でも忍ばせて驚かそうと思っていただけのネイトだったが――
あるものを手にして、考えが変わる。
「ああん? んだこりゃ、本……いや、書きかけのノートか?」
それは、リリィの宝である、自筆の小説だった。




