今このときだけのリーダー
「このずっと先に洞窟スライムが沸いててな。足元には注意してな」
「ふわわー……きれいな水晶ですっ」
案内された鉱山は、透き通る水晶があちこちから顔を出している、幻想的な洞窟だった。
「入り口近辺の水晶はそこまで価値のあるもんじゃないんだが、奥の『魔水晶』は、まずまず買い手がいるらしくてな、ここ五番坑道は特に高品質な魔水晶が採れるんだぜ」
「ふむふむ。そんなところに洞窟スライムが沸いたら、確かに厄介です」
「そういうこった。ほんじゃあ、終わったら教えてくれ。くれぐれも、遺跡には注意してな」
ヴィリヤミは片手をあげてあとを任せると、本来の業務へ戻っていった。
ネイトはニヤニヤと、リリィに言う。
「おら、テストは始まってるんだぜ? のろのろしてると――」
「はいっ。――たいまつは今のところいりませんね、壁のランプで明かりは十分です」
リリィは、言われる前には洞窟の周囲を観察していた。
「トロッコがありますね。これに水晶を入れて運んでいたみたいです。たぶん今は休止していると思いますが、一応レールの上を歩くのはやめておきましょう」
今回は新人のリリィがパーティの先導役だが――
そのリリィは、しっかりと先導役をこなしていた。
ネイトは意外だったのか、少し不満そうな顔をしていた。
「ふふーん、さすがはリリィちゃんだ! んじゃ行こっか、前衛は私がやるね!」
「は、はいっ。私はヒーラーなので中衛を。ネイトさんも前衛をお願いしますね」
「ちっ……ああ、分かってるよ」
ネイトが不機嫌そうなのは、リリィがてきぱき仕事をこなしているからだろう。
並んだクリスティーナは、おちょくるような笑顔でネイトに言う。
「へへーん、すごいでしょ、うちのリリィちゃんは」
「うっせっ、まだ洞窟の入り口じゃねえか。――本番は、これからだ」
とはいえ、ネイトの顔にはまだ余裕があった。
「最後にジーノさんですが……あれ、そういえばジーノさんって、戦闘時はなにが得意――」
「俺はどこでもいい。まぁ今回は、空いていそうな最後列にいるとするか」
「わ、分かりました、ではお願いしますね」
リリィは最後に、ジーノの配置を決めようとしたが、ふと気づく。
「そういえば私、ジーノさんが直接戦ってるところ見たことないかもです……いったい、どれだけ強いんだろう……」
真祖戦で彼女が見たものは、せいぜいジーノが槍を投擲したところだけ。
リリィが見たのは、クリスティーナが戦っているところだけだ。
真祖をも圧倒していたクリスティーナ、ジーノはその主人だ。
いったい、どれだけ強いのかと、生唾を飲むリリィなのだった。
洞窟とはいえ、ここはある程度人の手が入っている鉱山だ。
大きなトラブルもなく、一行は洞窟スライムが沸いている現場に近づいていく。
そろそろといったところで、リリィは一行に確認を取った。
「私なんかが心配する必要もないと思いますが――みなさん、問題なくついてきてますよね?」
「ハッ、問題ねぇよ」
「たいちょー、ご主人さまがまたいませーん」
「そうですか、ではこのままスライム退治に……って、ジーノさんまたですかーっ!?」
「ふおおおおお洞窟薬草がいっぱい生えてるぞーっ!」
ジーノだけ、はぐれていた。
理由は簡単。気になる素材に道草食っていたのである。
ちなみに、これが二度目だった。
「んもうジーノさんっ、モンスターがまだいるんですから、一緒に行動しないとっ」
「す、すまん、体が勝手に……ネイト君、今のはリリィの採点に入らないだろ?」
「それを決めるのはてめぇじゃねぇ、俺だ。……まぁ、いなくなった時点で気づけなかったってことは、減点対象だよなぁ?」
「不正だーっ、嫌がらせだーっ! なーんかネイトってさ、ねちねちしてるよね」
「う、うるせぇ! 今の悪口も減点にするぞ!」
公平さを欠く採点に、抗議の声をあげるのはクリスティーナ。
彼女も彼女で、リリィにかなり肩入れしているので、公平かどうかは怪しいものだが。
「大丈夫です、クリスティーナさん」
リリィはそんななか、一人冷静に言う。
「テストも大事ですけど、今一番大事なのは、怪我なく依頼を達成することですから!」
「……ちっ、その通りだぜリリィ。気に入らねぇがな」
この場でもっとも大事なことを、リリィはちゃんと理解していた。
減点したネイトだったが、このときばかりは、リリィを認めるしかないのだった。
「リリィちゃん……そうだね、こっから巻き返していこ! ねちねちネイトの嫌がらせに負けるなーっ!」
「誰がねちねちネイトだ!」
態勢を整えた一行は、洞窟スライムの沸く現場付近へと到着する。
隣の部屋をのぞくと、全部で七匹の洞窟スライムが、一角を占拠していた。
「い、いました、数は七匹です……洞窟スライムは物理攻撃が効きにくいはずですから、注意してかかりましょう」
「だって。ちゃんと聞いてたご主人さま?」
「ああ。洞窟スライムからはたいした素材手に入らないからな、やる気出ないから指示してくれ」
「ジーノさん、そんなはっきりと……ま、まぁとにかく、みんなでかかれば大した敵では――」
「おおっと! ――ちょっと待ってもらおうじゃねぇか」
戦闘に移ろうとしたそのとき、ネイトは待ったをかけた。
何ごとかと、リリィら三人は視線を金鎧の男に集中させる。
「てめぇらはヴァンパイアに、なんとあの真祖まで仕留めたそうじゃねぇか」
「なになにねちねちネイト。いきなりそのこと認めたの?」
頭にくるあだ名だったろうが、ネイトはツッコまなかった。
彼の口ぶりから、もちろん、ヴァンパイア討伐の件を信じたわけでもない。
「ってことはだ――こんな洞窟スライムごとき、瞬殺で倒しちまうはずだよなぁ? それじゃ、このリリィのテストにはならねぇ。これはリリィのテストで、あんたら二人のテストじゃねえ。――だから」
ネイトは底意地悪そうに、口の端を持ち上げる。
「この洞窟スライム七匹は、リリィの単独で、片付けてもらおうか!」
「わ、私が、単独で……!?」
ネイトはここに来て、危険な試験を課するのである。




