冒険者試験
「あぁ……あんたらが依頼受けてくれた冒険者かい。……は~あ、そうかい、あんたらが……はぁぁぁ~……」
鉱山にたどりついたジーノ一行は、依頼を出した責任者に顔を合わせると、開口一番にそう言われた。
小柄だが厚みのある体で、ヒゲが特徴的な男性――責任者のこのドワーフは、露骨すぎるくらいに、がっかりしていた。
「まったく嬉しくなさそうだな」
「まぁ、ねぇ。いくら身だしなみ整えたからって、私たちみたいな貧乏っちぃのが来ちゃったら、ねぇ」
「伝説級の魔物にS級の魔物も倒したんですけどね……」
ぼろぼろの貧民が着るような服で裸足のおっさんと、奴隷で一枚布だけのクリスティーナ。
まともなのは白ローブのリリィくらいだが、見るからに新人だ。
ハズレを引いたと思い、当然の反応を示したのである。
リリィと同じくらいの背丈のドワーフは、あきらめて受け入れる。
「ま、いいや、洞窟スライム程度なら、お嬢ちゃんみたいな新人冒険者でもいけるだろ。俺は責任者のヴィリヤミってんだ、こっちついてきな、リーダーのお嬢ちゃん」
「私はリリィで――ちなみに、リーダーは私じゃなくて、ジーノさんですたぶん」
リーダーと間違われたリリィは軽く訂正して、一行はヴィリヤミについていく。
――エルナント鉱山。
そこは、王都セントクロヴィスから数日の距離にある小規模な鉱山だ。
崖には簡単な道が作られていて、上りの道と並行するように、鉱山の入り口――洞窟がある。
洞窟の入り口は七つあり、多くの人が忙しそうに出入りしている。
その種族もドワーフだけに限らず、ヒューマンなども混じっている。
小規模といえど、鉱業事業の大きさをうかがわせていた。
「ほい、長旅で疲れたろうに、入った入った。なんなら、荷物とかここに預けてもらってもいいぜ」
「仮設住宅か。ここで寝泊まりしているわけか」
「おうよ、食糧なんかは定期で配達してもらってるからな、腹減ってるならわけてやってもいいぜ。――だが、酒だけは絶対に手を出すんじゃねぇぞ!」
あばら屋と言って差し支えなさそうな、シンプルな家が立ち並ぶ。
その中でも一番大きなこの建物は、会議場となっているのだろう、大きなテーブルが部屋の真ん中を占拠していた。
「よぉ、ウスノロリリィ……いつものごとく、待たせてくれるじゃねぇか」
「へっ? ――あ、あれ、ネイトさん!? どうしてここにっ」
そして――その一角には、金鎧のネイトがふてぶてしい態度で座っていたのである。
「なんだ君か。どうした、鑑定結果でも伝えにきたのか?」
「んな使いっ走りみてぇなこと、S級の俺がするかよ! ――今日はてめぇを審査しに来たのさ、リリィ」
「テス、ト……?」
なんのことか分からず、リリィは繰り返す。
少し怯え気味のリリィを、ネイトはやれやれといったジェスチャーでからかう。
そして、テストの意味を語る。
「てめぇも冒険者になって三ヶ月経ったんだぜ? なら、そろそろ独り立ちする時期だろうが。それをこのS級冒険者のネイトさんが、テストしてやるって言ってるんだよ」
「もしかして、『冒険者試験』のことですかっ? い、今やるんですか?」
「でなきゃ、俺がわざわざF級依頼の場所まで来るわけねぇだろ」
ネイトは、リリィがいちいち聞き返してくることにいらだちつつも、答える。
常識に疎いジーノはリリィに聞く。
「なんだ冒険者試験って」
「い、一人前の冒険者になるための試験です。これをパスすることで、幅広く依頼を受けたりもできるようになるんですが――で、でもテストは、受ける側が『ギルド』に依頼してから、日程を決めたりするのが習わしで」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ。てめぇのテストのために、わざわざ足を運んでやったってのに、まさか断るつもりか?」
ネイトは意地悪そうにニタリと口の端を持ちあげる。
本当の理由は、リリィへの復讐だというのに。
するとネイトは、挑発するように言い放った。
「それとも――自信がないのかな、ウスノロリリィには」
「っ……」
手痛いところを突かれたリリィは、黙ってしまう。
どうしたらいいか迷っていると――
「リリィちゃんやろうっ! 大丈夫、リリィちゃんならできるよ、私が保証しゅるっ!」
クリスティーナがその背中を押してくれた。
身バレを防ぐために、変顔をしての言葉ではあったが。
「クリスティーナさん……!」とリリィは仲間の名を口にし、こう続けた。
「や、やります! 私だってできるってこと、しょ、しょ、しょ、証明してみせます!」
それでも、一人の少女を前に進めるには十分な一言であった。
緊張で噛みながらも、言い切ってみせるのである。
「ハッ……いい心意気だぜリリィ。――安心しろ、俺はS級冒険者だ」
リリィを逆恨みしていたネイト。
「ちゃーんと、公平な目で見てやるからよぉ……!」
怪しい笑顔で、そう発言をするのだった。
「まぁ、俺ら坑夫は、依頼をこなしてくれりゃあなんでもいい。……できたら、S級のお兄さんが仕事請け負ってくれると嬉しいんだがねぇ」
「F級の依頼を、S級の俺が? 冗談じゃねぇ、格が落ちる」
S級と聞いてドワーフのヴィリヤミはゴマをするが、ネイトは吐き捨てた。
ムっとするヴィリヤミだったが、こらえる。
そんななか、ジーノが軽く挙手をして、こう言った。
「テストするなら勝手にしてもらって構わないが、俺もついていくぞ。問題ないよな、ネイト君」
「うっ……! まぁ――いいぜ。ただし、手は出すなよ! きちんとした評価が出せねぇと、俺の評価にも響いちまうことを忘れるな!」
「もちろん私も、始めからそのつもり!」と、クリスティーナも両の拳を握りしめ、ついていくことを宣言する。
条件をつけ加えたネイトは、しぶしぶ許可を出したが――
「これはこれで……ウスノロリリィが恥をかくところを仲間に見せられるなら、しめたものか……!」
そんな考えに至ったことで、しめしめと小声で呟くのであった。
「じゃあ行くか。なにか注意点はあるか、ヴィリヤミ」
「ああ、あるぜ」
立派なあごヒゲをさすって、ドワーフのヴィリヤミは続ける。
「洞窟には遺跡があるんだ。別の冒険者に依頼したところ、古代のもので、その下にデカイなにかが埋まってるらしい。それは壊さないようにな、遺跡は知ったこっちゃないが、洞窟が崩れでもしたら大変だ」
「なるほどな。ところでネイト君」
「んだよ」
注意点を受けたジーノは、ふとネイトに聞く。
「君、いつから一人になったんだ?」
「う、うるせぇ! いろいろ事情があんだよ!」
F級の依頼とリリィのテストのために、一行は鉱山洞窟へ足を踏み入れる。




