幕間 ――ネイトパーティ、修羅場を迎える
「ねぇちょっとネイト、まだリリィを追うつもりなのかい?」
S級冒険者として名を馳せるネイト。
そのパーティのうちの一人、女剣士が呆れ気味に聞いた。
今彼らがいる場所は、冒険者ギルドでも、王都セントクロヴィスでもない。
王都からF級依頼の鉱山へ向かう街道――その道中だった。
「当然だ! S級の俺らを差し置いて、わけのわからねぇ乞食の男についていったんだぞ、あのウスノロリリィはよぉ!」
先頭を行く金鎧の男・ネイトは、振り返ると不機嫌そうに言った。
怒りの矛先はとぼけたジーノではなく、反抗したリリィのほうにある様子だった。
女剣士と、もう一人のパーティメンバーである男のヒーラーは、余計に呆れた。
「いいじゃないのさネイト、どのみちあの子はお荷物だったんだ。あっちから離れてくれるんなら、あたしたちは自分たちの仕事に専念できるんだよ」
「そうだぞネイト。S級冒険者の僕らが、たかが新人冒険者をつけ回すなんてどうかしてる、時間の無駄だ」
「バカどもが、ナメられてるんだ、俺たちは! あんなケツの青い新人にナメられたまま、引き下がるっていうのかよてめぇらは!」
S級としてのプライドを傷つけられたのだろう。
ネイトはそんな理由から、リリィをつけ回しているのだった。
道の途中で口論になるネイトパーティ。
ヒーラーの男がチクリと言う。
「ネイト、君の悪い癖だ。そうやって小さいことにねちねちと……出会ったころからそうだったが、『勇者選定』に落ちてから、特にひどいぞ」
「うるせぇ! 文句があるならてめぇも切っていいんだぞ!」
切っても、というのは、リリィと同じく追放にするという意味だろう。
『勇者選定』ということも原因にあるようだが、ネイトは激情するタイプのようだった。
しばらく睨み合うネイトとヒーラー。
するとネイトは、本当に剣を抜いた。
「ちょっと待ちなよネイト――マジでやるつもり?」
「ああ? そりゃそっちの態度次第ってやつだ。それより……てめぇもそっち側かよ?」
女剣士は、守るようにヒーラーの前に立っていた。
ネイトの剣は、切っ先をふらふらと相手に向ける軽い仕草程度のもの。
女剣士が警戒するような、本気で斬りかかるつもりはなさそうだったが――
その挑発的な態度は、決定的な理由となった。
「ネイト、あんたには付き合ってられない。あたしたちは今日限りで抜けるわ」
「お……おいおいおい……正気か? てめぇらなんか、俺がいなかったらA級にとどまれるかどうかも怪しいぜ?」
ネイトは思わず後ずさりした。
口では言っていたが、本当にそういう展開になるとは思ってもみなかったのだろう。
焦りから、顔が引きつる。
女剣士は視線をそらして言う。
「もう少しこのパーティで続けるつもりではいたけど……あたしたち、前々からやめることは話し合っていたんだ」
「な、なんだと、俺は聞いてねぇぞ! いったいどういう理由で――」
「そ、それは、その……」と、女剣士は急に顔を赤くして、腹の辺りをさする。
すると、ヒーラーの男が彼女の肩を抱き、こう告白した。
「すまんネイト――実は僕たち、結婚するんだ。彼女のお腹には、僕たちの子もいる」
「………………はぁぁぁぁぁ!? て、て、て、てめぇら、いつの間に!?」
つまり、寿退社だった。
ネイトは二人の関係にまったく気づいていなかったのか、度肝を抜かれていた。
「そういうわけで、近いうちに抜けるつもりだったが……す、スマンな、アラフォーのお前がまだ独身なのに、僕らだけ幸せになって――」
「うぐっ、この……! なんかコソコソしてやがるな~、なんて思ってたら、こういうことかよっ!」
「責めるならこの人じゃなくてあたしを責めてくれよネイト! さ、誘ったのはあたしなんだよ、ちょっと頼りないところもあるけど、言うところは言う男で、そういうところにほれたっていうか……も、もう、なに言わせるんだい、あんたっ!」
「痛い痛いっ――ははっ、すまないネイト、彼女こう見えて照れ屋で」
「うっざ!? バラした途端イチャつくんじゃねぇ!!」
ネイトはプルプルしながら、女剣士とヒーラーがイチャつくところ見せられる。
コホンと咳払いした女剣士は、襟元を正すと、改めて言う。
「――とにかく、あんたとはもうおしまいだよ、ネイト」
「世話になったな。コルトン村の依頼料は全部お前持ちでいい。……あの件は、引け目を感じていたしな」
最後にヒーラーは言う。
「お前との冒険は、ここまでだ」
キリっと居直る二人はネイトに背を向けて歩き出し――
途端にいちゃいちゃとし始めた。
ネイトは拳を振り上げて叫んだ。
「ハッ! てめぇらみてぇな仕事とプライベートを混同しているヤツなんざ、こっちから願い下げだ! どこへでも行きやがれ!」
「君もその性格は直したほうがいい。いつまでも独身を貫くつもりなら、なにも言わないがな」
こうしてネイトパーティは解散となり、彼は一人となる。
「――くっ、バカにしやがって、それもこれも、全部あの新人のせいだ……!」
ネイトは怨嗟の炎を燃やす。
「見てろよウスノロリリィ……てめぇは絶対に後悔させてやる」
仕事とプライベートを最も混同しているこの男は、執念深くリリィを――ジーノパーティを追う。




