もう一つの再会
木製で腰丈ほどのスイング式の扉を開けて、冒険者ギルドに入るジーノたち。
ギルド内は多くの冒険者たちでごった返していて、とても騒々しかった。
「ここには私のこと知ってる人いなさそうだ。それにしても、騒がしいねっ」
「昼間から酒飲んでるやつもいるが、いいのか? 無職の冒険者か?」
「冒険から帰ってきた冒険者さん、とかだと思います。……た、たぶん」
石造りの建物には、カウンター席とテーブル席があり、各々防具で身を固めた冒険者たちが語らっている。
掲示板の張り紙が依頼なのだろう、頭をひねらせながら吟味している者の姿もあるのだった。
「それでリリィちゃん、報告ってどこですんの? あそこのカウンターにいる事務員っぽいお姉さん?」
「自分で受けた場合はそうなんですけど、コルトン村の依頼を受けたのは、新人の私ではなく、S級冒険者のネイトさんなので……さ、探さないとっ」
リリィはキョロキョロとギルドを見回し、コルトン村でケンカ別れしたS級冒険者・ネイトを探す。
「確か金鎧の男だよな。それならそこにいたぞ、ほら、昼間っから酒飲んでるやつ」
ジーノが指さすと、八人くらい掛けられそうな大きなテーブル席に、金鎧のネイトが座っていた。
年は三〇半ばくらい、短く切り揃えられた金の髪。
得物の剣が、腰にさげられている。
他二名の合計三人パーティで、大きなテーブルを独占しているようだった。
リリィは「ほ、本当ですね、ネイトさんです」と言うと、深呼吸を始めた。
「すぅ~、はぁ~――よ、よしっ、行ってきます、お二人はここで待っててください!」
「待っててもやることないし、俺たちも行くが」
「うんうん。それにアイツ、なんか感じ悪かったしね。リリィちゃんになんか言ってきたら、私がガツンとキメちゃうから安心してね!」
「ジーノさん、クリスティーナさん……で、では、みんなで行きましょうっ」
コルトン村でつらく当たられたことから、リリィの肩は強張っていた。
しかし、真祖すら仕留めた二人がいてくれたおかげで、緊張感は和らいでいた。
「ね、ネイトさん、ただいま戻りました、リリィですっ」
「んあ? おおリリィじゃねえか、やっと戻ってきやがったか」
「す、すみません、いろいろあって、帰りが遅くなってしまって……」
「ハッ、お前がとろくせぇのは今に始まったことじゃねぇよ。まぁ、死んでくれてなくてよかったぜ、俺の評価に響いちまうからな」
テーブル席についていたネイトに、リリィは意を決して声をかけた。
辛辣な物言いのネイトだったが、その表情はにこやかだ。
コルトン村では相当に機嫌の悪かった男だったが、気分屋なのか、はたまた手にした酒のせいか。
今は気分が良いみたいだった。
「んでリリィ、ちゃんと反省したんだろうなぁ?」
「は、反省……といいますとっ?」
「ハァ……ったく使えねぇ、一度だけ説明してやるから、ちゃんと聞いとけよ、ウスノロリリィ」
ネイトはやれやれといった表情をして、発言の意図を説明する。
「お前はあのコルトン村――だっけか? ヴァンパイアに襲われて、末期の眷属化状態っつう極限状態の村で、S級のこの俺に反抗したんだ。その間違いを反省したのかって、聞いてんだ」
「あ、あれはっ! ネイトさんが、依頼料を返さなかったから――」
「んん、なんのことだぁ? 俺は、反省したのかって聞いてるんだよ」
「そ、それは、その……」
リリィの意見をさえぎるネイト。わざとらしい態度だった。
コルトン村でのネイトは、満足に仕事をせず、依頼料をふんだくるという行為をはたらいていた。
リリィはそれが許せず、反論しようとしたのだが――
ネイトの高圧的な態度に、言葉が止まってしまっていた。
「ちょっとちょっと! さっきから話を聞く態度がなってないんじゃないかなS級冒険者の人! 真面目に聞く気がないってんなら、一度痛い目に――」
「ああ? なんだ奴隷、冒険者の話に入ってくるんじゃねぇよ。……ってかてめぇ、どこかで見た顔だな。確か、奴隷商が探していた――」
「ひ、人違いでしゅっ」
クリスティーナはまさかの身バレの危機に、変顔を始めた。
「ガツンとキメる」なんて威勢の良いことを言っていたが、借りてきた猫みたいな態度になってしまうのだった。
「いや、『勇者選定に』に残った女に似て――いや、今はどうでもいいな」と、ネイトは続けて言っていたが、酒を一口飲んで、話を戻す。
「リリィ。村での間違いを認めろ」
ネイトは木のジョッキを机に置くと、うつむき加減なリリィの顔をのぞき見る。
「俺の行為が正しかったと認めれば、また俺のパーティに――Sランクパーティに戻ることを、許してやってもいいぜ」
「ネイトさんの、パーティにっ……」
コルトン村でのネイトを認める。
それは、仕事を放棄し、依頼料だけをふんだくった男を認めろということ。
そうすれば、新人研修とはいえ、Sランクの冒険者パーティにまた戻れる。
それは、冒険者にとっては大きな魅力に違いない。
だがリリィは――
「わ、私は、ジーノさんと、クリスティーナさんと一緒に――」
「おい、いつまでどうでもいい話をしてるんだ」
せっかくの決心を口にしようとしたところで、いつかのように、またもジーノに阻まれてしまう。
隣で無表情で聞いていたその男は、ちょっとうんざりした様子でこう告げる。
「村の件はもう解決している。俺は仕事の報告を君にして、とっとと用事を済ませたいんだが」
「なんだおっさん……村の件が解決しただと? ハッ、そりゃ、村が全滅したってことかぁ?」
ニタニタと笑いながら言うネイト。
ジーノは「違う」と否定する。
「ヴァンパイアなら、もう倒した」
S級のネイトの話が気になるのか、騒がしかったギルドは彼らの会話に耳を傾けていた。
そんななかジーノは、S級ですら倒すのに苦戦するヴァンパイアを、倒してみせたと言い放つのだった。




