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因縁の再会と、伝説の勇者 ②

 追放されて以来、初めて顔を合わせるジーノとバルフォア。

 二人の因縁をついさっき聞かされていたクリスティーナとリリィは、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「あ、あなたはっ!」

「フフン、一週間ぶりくいらかのう。久しぶりじゃな、ジーノ――」


 ジーノは無表情のまま驚くという器用な技を見せる。

 バルフォアは一人ではなく連れがいて、それは新しい店員だろう。

 店員ともども、ジーノを勝ち誇ったような表情で見下していたのだが――


「ええとすみません、どちらさまでしょうか。こんなゴージャスなご老人、俺は知りません」

「って、なんでじゃい!!」


 が、ジーノは気づかなかった。

 バルフォアは「もう忘れたのかジーノ」と言うと、改めて名乗る。


「わしじゃ――世界一の鍛冶職人・バルフォアじゃ!!」


「君らの知り合いか?」などと、ジーノはクリスティーナらに聞いていたのだが、バルフォアと名乗られて、相手の顔をよく見る。

 ジーノは、その老人こそバルフォアであると、ようやく気づいた。


「ああ、本当だ、親方じゃないですか。ずいぶん服装が変わっていたので気づきませんでした。その指輪、似合ってないですよ」

「う、うるさいわバカタレ! お前はどうしていつもいつも余計な一言を……!」


 バルフォアの五本の指全てには、金銀様々な指輪がはめられていた。

 鍛冶職人とは思えない見栄えになっていた。


「どうしたんですかこんなところで。鍛冶の仕事一筋で、工房にこもることの多かった親方が、街を出歩くなんて珍しいですね」

「フン、大して顔を合わせたこともないのに、知ったような口を聞きおって。世界一の鍛冶職人になったんじゃ、その手の汚れ仕事は若い衆に任せて、わしはお得意さまと明るい未来を語っておったんじゃ」


 つまり、営業中というところだろう。

 バルフォアは視線を隣に投げると、そこにはジーノの知らない人物が立っていた。


 リリィはその人物を見て、驚愕した。


「ふわわわわーっ! お、おじいさんの隣にいるおかたって……ま、ま、ま、まさかっ、まさかまさかまさかっ!?」

「ははは、そんなに驚かなくても」


 隣にいた人物は苦笑いしたあと、爽やかに手をかざして自己紹介をする。


「どうも、ボク、勇者やってますっ」


 そう、バルフォアの隣にいた、爽やかな人物こそ――

 

 勇者なのである。


「勇者……君が、親方の剣を使って魔王を倒したっていう、有名人か」

「や、やばっ、こんなところで勇者に……変顔変顔っ」


 クリスティーナはなにかバレてはならない事情があるのか、思い出したかのように変顔を始める。

 ジーノは、初めて見る勇者を足の先から頭の先まで、観察する。


「ふ~む、そうか、君が勇者なのか。魔王とかいうすごそうなやつを倒すくらいだ、相当の手練れを想像していたのだが……まさか」

「あはは、そうだよ、ボクはこう見えて、女なんだ」


 勇者は、若い女性だった。


 身長は一六五センチ以上はあり、クリスティーナよりも一回りは大きい。

 少し露出過多な気もする軽装鎧は動き重視の設計で、太ももの辺りまでを黒のスパッツでカバーしている。

 この辺りでは珍しい浅めの褐色肌は、その上から日焼けもしているらしく、スパッツと肌の間には日焼けあとが垣間見えた。


「改めて――ボクはリュッカ。一応、魔王を倒した勇者やってますっ。平和になった今は、王国を護る『王国の盾』っていう騎士団の団長もやってるんだ」


 鎧には赤いマントがくくりつけられており、風になびくマントには、盾の紋章が刺繍されていた。


 女勇者リュッカ。

 彼女こそ、セントクロヴィスの危機を救った、伝説の勇者なのである。


「きゃー! みてみてリュッカさまよーっ!」

「リュッカさまこっち向いてーっ! きゃーっ!」

「あ、あはは、まいったな、ボク、騒がれるようなスゴイ人でもないんだけど」


 リュッカは同性からの人気も高いらしく、黄色い声を浴びていた。

 わずかに赤みを帯びた髪の毛は短く、ピンと跳ねている。

 長いもみあげが特徴的だったが――彼女にはもう一つ、大きな(・・・)トレードマークがある。


「リュッカちゃんかわいいなぁ……そして今日も……揺れているっ」

「彼氏になりてーっ……あのたわわなおっぱいを毎日毎日……くそーっ!」


 それはそれは、巨乳なのである。


 露出過多の鎧が胸部分を一切守っていないのは、そういうデザインか、それともサイズがないのか。

 男性ファンの視線は、その巨乳に釘付けなのだった。


「勇者ってのは、すごい人気なんだな」

「あはは、視線がちょっといやらしいけど……ま、まぁその、女の子として見られるのは……ん、嫌いじゃないかも」


 リュッカは頬をかき、照れながら応える。

 リリィは「うらやましいです……」と、自分の胸をぺたぺたしていた。

 すると、鳴り止まぬ勇者への声援に、しびれを切らした者が怒鳴った。


「勇者勇者うるさいわバカタレども! ここには伝説の鍛冶屋バルフォアもおるのじゃぞ!」


 ギラギラした指輪と服装のバルフォアだった。

 もしかしたらこの服装は、趣味というよりも、目立つためにしたのかもしれない。


「すみませんバルフォアさん、ボクのせいで……」

「ぐぬぬ……ま、まぁ勇者殿は、わしの剣を世に知らしめてくださったおかたじゃ。わしは世界一の鍛冶職人、この程度では決して、怒りに震えはしませぬぞ」


 リュッカは騒がしい観衆をなだめつつ、バルフォアに謝る。

 衛兵が現れたためか、観衆たちは少し落ち着いた。


「それでバルフォアさん、例の剣のことなんですけど」

「おおそうじゃった勇者殿。このバカタレジーノと、バカタレ一般人のせいですっかり中断されてしまいましたな」


 バルフォアは薄くなった頭に触れると、ジーノたちの前でこう続ける。


「――して、わしの自慢の新作、どうでしたかの。『王国の盾』に採用していただけますかな」


 バルフォアは勇者リュッカに、営業の続きを行う。

 勇者が団長を務める『王国の盾』。

 そこに、自身の剣を売り込んでいたのである。


「そうですね、率直に言いますと、このままでは不採用です」

「そうでしょうそうでしょう、あれだけの逸品はもちろん採用――な、なぬっ!? 今、不採用と申されましたか!?」


 バルフォアは採用されるとばかり思っていたのか、反応が遅れていた。

 リュッカは腕を組み、大きな胸を強調させつつ意見を述べる。


「期待していた出来とはほど遠いものでした。あの剣に、騎士団のみんなの命を預けることは、ボクにはとてもできません」


 リュッカは毅然とした態度ではっきりと伝える。

 まだ若く、一〇代にも見える彼女だが――

 勇者としての器は、間違いなく備わっていた。


 一方のバルフォアは――


「な……なっ……! なにを言うかこのバカタ――ぐぐぅ」と、いつもの口癖が出そうになるのを、こらえるので精一杯だった。

 一つ深呼吸を挟むと、つとめて冷静に言う。


「ゆ、勇者殿、正気ですか。わしの剣は世界一の剣じゃ、超一流の剣なのじゃ。それを断るとなると、もう他に残されるのは、二流職人どもの剣しか――」

「バルフォアさんの腕がスゴイのは、ボクが一番知ってますっ。ボクの技術(スキル)に耐えうる剣は、結局バルフォアさんの剣しかなかったんですから」


 リュッカはなるべく言葉を選びつつ、最後にこう伝えた。


「あの剣の出来は本物でした。でも、近ごろのバルフォアさんの剣は、その――質が落ちていて」


 リュッカの発言を、短気なバルフォアは必死にこらえながらこう返した。


「ぐぬっ、ぐぬぬ……じ、じゃが、完全な不採用というわけでもありますまい」

「えと、そうですね。納得いくものを仕上げてもらえるまで、ボクは待つつもりです」


「早いと助かるというだけですから」と、リュッカはフォローする。

 ジーノは親方だったバルフォアの性格を知っている。

 大変そうだなぁと、他人事のようにその光景を眺めていると――


「ボクはもう……誰かが傷つく姿は見たくないんです」


 リュッカが寂しそうな目でぽつりと呟いたのを、ジーノだけは聞き逃さなかった。


「では、話は以上ですな。きっと勇者殿を満足させる剣を仕上げてみせますぞ」


「おい、行くぞ!」と、連れの若い衆に声をかけるバルフォア。

 老人は去り際、ジーノを見てニタっと笑う。


「ぐふふ、お前が去ってからわしの店は順調じゃ。連日の行列に、この大型契約。感謝するぞジーノ、お前が去ってくれたことにな」

「それはよかった、ありがとうございます」


「皮肉じゃバカタレ!」と最後に吐き捨てて、バルフォアは去って行った。

 残ったリュッカは――


「ごめんなさい!」と、唐突に頭を下げた。


「気分悪かったですよね、あんな言いかたされて。バルフォアさんも、昔はもう少し優しかったんだけど、魔王を倒してくらいから、雰囲気が変わってしまって……」

「そうか? 親方は前からあんな感じだった気がするが。だからあまり気にしていない、慣れている」


 会話から、ジーノとバルフォアが知り合いだということは、リュッカも気づいていただろう。

 込み入った話をするのも悪いと思ったのか、詮索はしてこなかった。


「それじゃあボクもこれでっ! ――ところで、さっきから気になっていたんだけど、そこの君はどうして変顔してるんだい?」

「こ、こういう顔でしゅ」


 今の会話のあいだ、ずーっと口を尖らせ、眉をしかめていたクリスティーナ。

 リュッカは、その金髪の少女に見覚えがあったのか、こう言った。


「あれ、君って……最後まで『勇者選定』に残って、そのあとどういうわけか奴隷にされた、あの女騎士じゃあ――」


 と、言われたところで、勇者ガチ勢(・・・・・)がなだれ込んできた。


「う、うわぁ大変なことに――ま、また会うことがあったら、そのときにーっ!」


 勇者はこの街の英雄。とても人気があるらしい。


 衛兵は必死に止めていたが、遂に決壊した。

「や、やっぱ街に出るときは変装しなきゃーっ!」と、リュッカは流れに飲み込まれて、群衆と共に姿を消していくのだった。


「――ふぅ! バレずにすんだ!」

「ほぼバレてませんでしたか……?」


 人っこ一人いなくなった街の真ん中で、クリスティーナとリリィは言葉を交わす。

 ジーノは一つ息を吐くと、本来の目的を口にした。


「なんだかいろいろあったが、とりあえず目的を果たそうか。――行くぞ、『境海』に!」

「冒険者ギルドですーっ!」


 そう、これから行くのは、冒険者ギルド。

 ヴァンパイア討伐の報告を済ませるだけなのである。



ということで勇者さんが出てきましたが、本格的に絡むのは少し後となります。


面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価等お願いいたします。

その一つで、とてもモチベがあがります。

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