因縁の再会と、伝説の勇者 ①
「もう王都には戻らないと思っていたんだが、戻ってきてしまったな」
「す、すみません、無理言ってしまって。……ところで、クリスティーナさんはどうして変顔なんてしてるんです?」
「だ、だって、奴隷商に見つかったら大変だしっ」
晴れ渡るセントクロヴィスの城下町。
城下町の城門のチェックを通った三人は、人通りの激しい大通りを歩いていた。
「それなら門番が言っていただろ。一つの街にとどまる商人ではないから、もう遠くの地に旅立ったと」
「念には念をってやつだよ、ご主人さまっ」
「変顔してるのにちょっとかわいいのズルイですっ!」
クリスティーナは奴隷商から逃げ出した身。
見つかれば即捕縛の身なのだが、その奴隷商はもう旅立っていた。
見つかることはなさそうだったが、クリスティーナは顔をくちゃくちゃにして、苦しまぎれに誤魔化していた。
「そういえば、ジーノさんも戻りたくなさそうでしたよね? ――はっ、ジーノさんが体臭のことをすごく気にしちゃうのと、なにか関係があるのでは……!」
「おいやめろ臭いのことは。ただこの街に、クビにされたばかりの鍛冶屋があるだけだ」
「傷つくぞ……」と無表情に言うジーノ。
リリィは、「そんなに臭くないですよ」とフォローするが、「臭いってことじゃん……」と、ジーノはますますへそを曲げてしまった。
「それにしても、ジーノさんがクビですかぁ……よっぽどお店の経営が苦しかったんでしょうねぇ」
「いや、連日行列で大盛況だったぞ」
「………………えっ!?」
思っていた事情とは違ったのか、リリィは心底驚いていた。
へそを曲げるのをやめたジーノが「まぁ俺は採取地へ行ってるばかりで、大盛況になったのはクビ直前のころだったが」と補足し、さらにこう続けた。
「なんでも勇者が魔王を倒したらしく、その勇者が使っていた剣が、親方の――俺が勤めていた、『バルフォア錬金鍛冶工房』の名前を世界的に有名にしたらしい」
「えぇーっ!? ジーノさんって、あの『バルフォア錬金鍛冶工房』の店員さんだったんですかー!?」
「リリィちゃんリリィちゃん、その店って有名なのん? 私、魔王討伐の時期、ちょうど奴隷やってたからあんまり知らないんだけど」
「まだ変顔してるんですね……」とツッコまれつつ、変顔クリスティーナが話に入ってくる。
リリィは咳払いを一つして、話を戻した。
「有名も有名、超有名店ですよ! 魔王討伐は勇者さんの手で達成されたんですけど、そのとき使われていた剣が、『錬金鍛冶』という独自製法によって生み出された剣で、話題になったんですっ」
「へー、あの勇者の技術に耐える剣、見つかったんだぁ」
よく知らないと言うわりに、勇者についてはどことなく知った素振りを見せるクリスティーナ。疲れたのか、変顔はやめていた。
リリィは、不思議そうな顔で続ける。
「で、でもでも、不思議ですっ。いくら超有名店でも、ジーノさんほどの腕前の人をクビにするなんて」
「私もそこは疑問なんだよね。S級冒険者だって苦労するヴァンパイアを楽々倒して、錬金術の腕だってすんごいのに。……いったいなにをやらかしたのご主人さま」
「どうも親方は、前から俺のことが気に入らなかったらしい」
「六つくらい理由を言われたよ」と言うジーノ。
リリィとクリスティーナは、不思議で仕方ない様子だった。
ジーノはそんな二人に、「とにかく、だ」と、区切り、こうつなげた。
「バルフォア錬金鍛冶工房は、連日大行列の人気店なんだ。親方も忙しくしているだろうし、もう会うこともないだろう――」
「むっ、お前は――!? まだこの街におったのか、このバカタレが!」
言いかけた矢先のことだった。
ジーノ一行の目の前には、派手な格好をした老人――
バルフォアが、立っていたのである。




