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次なる目的地

「じゃあお二人とも! 王都に戻りますか!」

「いや、戻らないが」

「なんで戻らないと行けないの?」

「………………じゃあ私たちって、どこ向かってるんですかっ!?」


 村をあとにした三人は、街道の途中でそんな会話を繰り広げていた。


「俺は『境海』へ行くつもりだったが、違うのか?」

「私はご主人さまについていくだけだけど――リリィちゃんは王都に行きたいの?」

「行きたいところというか、行かなきゃいけない場所ですよっ」


 白のローブのリリィは、顔に力を込める。


「冒険者ギルドに戻って、コルトン村が救われたことを、ちゃんと伝えないと!」

「あ~、そういえば最初に村に来たとき、別の冒険者と揉めてたね~。そっか、ちゃんと伝えないと、最悪冒険者たちが討伐に来ちゃうかもしれないのか」

「ですです。なので、『境海』に行くのはその後にしてほしいです」

「王都に戻るのか……報告なら、リリィ一人でよくないか。あまり戻りたくはない場所なんだが」

「私も、脱走した身だからなぁ。バレると面倒そう」


 渋るジーノ。王都には思うところがあるからだ。

 続くクリスティーナも、同じワケありだった。


「そうですか……お二人は冒険者ではないので、無理強いはできませんが……そうなると、私たちはここまで、ということになりますね……」


 リリィは強くは言えず、しょんぼりしていた。

 二人は未知の世界を巡るつもりだったが、リリィには帰る場所がある。

 死線をくぐり抜けたパーティは、ここで解散となってしまうことになる。


「リリィちゃん……。ご、ご主人さま、冒険者ギルドに立ち寄るくらいなら、いいのではっ? それ(・・)を見せれば終わりだし」

「こんなにはいらないと返された、『真祖の灰』か」


 『それ』とは、瓶詰めされている、わずかばかりの『真祖の灰』だった。

「こんなには申し訳ないです」と、少しだけ分けてもらっていたのだ。 


「ご主人さま……ダメ、かな?」


 クリスティーナはリリィの悲しそうな表情を見て、意見を変える。

 クリスティーナもクリスティーナで、普段の自信満々な表情は消え失せ、すがるような瞳で訴えてきた。


「まぁ、『境海』に行くなら、港のある王都はその道中とも言えるからな。急いでいるわけでもない、一度戻るか、王都セントクロヴィスに」


 それを聞いたクリスティーナとリリィの表情が、ぱぁっと明るくなった。

 結構性格の違う二人だと思ったが、分かりやすいところは似ているようだった。


「では――目指すは王都セントクロヴィス、海に面した港の都ですねっ! ジーノさんたちは、その後に『境海』に行く――えっ、『境海』……?」


 しかしリリィは、ピタリと止まった。

 柔軟性がまるでない、かたい動きで、ジーノたちを見てたずねる。


「私の勘違い、ですよね? お祈りの『教会』のほうですよね? ま、まさか、世界の果ての『境海』のほうじゃないですよね?」


「もしくはなにかの『協会』かなーっ」と、リリィはとぼけた感じで言う。

 ジーノは自分の顔の前で手をパタパタと横に振って、「この流れで『境海』以外はおかしいだろ」と否定して、こう続ける。


「そうだ、境海――遙か海の先に存在する、もう一つの世界だ」

「神が造ったなんて言われる超巨大な海門の先の――人類未踏の世界のほうの、境海だね!」


 堂々とした表情に戻ったクリスティーナが引き継いだ。

 リリィは、目をまん丸にして驚いた。


「ままま、マジですかーっ!? 境海って、向かったが最後、帰った者は一人としていない、自殺の名所ですよ!? そこに、死にに行くわけじゃなくて、探索しに行くってことですかーっ!?」

「もちろんだ」


 境海。

 それは、海の果て――さらにその先にある、未知の世界のことである。


 世界は広い。

 世界には未踏の地がいくつもある。

 採取のために三〇年も世界を放浪していたジーノだって、行ったことのない地のほうが多いくらいに――世界は広い。


 だが境海は、そんな世界において、最も〝特異〟な場所だった。


「そ、そんな〝自殺の名所〟に行こうとしていたなんて……た、確かに、今でも謎を解き明かすつもりで向かう『無謀な人』はいるみたいですけど……」

「誰一人として帰ってきた者はいない、でしょ? つまり、そこを踏破できたら、最高の名誉になるってことだね!」

「俺はそこにどんな素材があるのか、どんな道具(アイテム)があるのか知りたい。神か悪魔の世界とまで言われているんだ、きっと見たこともない素材であふれているに違いない」

「た、確かに……実際見たことはありませんけど、開きっぱなしの『境海門』は、神さまにしか造れない大きさだって聞きますし……」


 人が造ったとは思えない巨大さを誇る海門――『境海門』。

 門そのものも巨大だが、防壁のように門を支える壁は、海を長く横断している。

 

 世界は広く、海の全てを横断するほどではない。

 だが、境海の先を目指すなら、開きっぱなしの境海門から入るのが通例とされていた。


 ――『境海』とは、門の先にある果ての世界。

 〝特異点〟として、世界の誰もその謎を解き明かした者はいなかった。


「リリィも来るか?」

「軽っ! む、無理無理無理っ、私みたいな新人冒険者なんて、本当に自殺しにいくだけになっちゃいますっ」


 リリィは「無理無理無理」と、しばらく首をブンブン横に振っていた。

 そして、少し寂しそうな口ぶりで、こう続けた。


「でも――私と違って、真祖すら倒したジーノさんや、クリスティーナさんなら……本当に踏破できちゃうんだろうなぁ」


 かたや新人冒険者。

 かたや真祖を倒して村を救った二人の英雄。


 同じ場所にいたのに、こうも違うんだなと、感じていたのだろうか。


「なに言ってる。君もいたから村を救えたんだ」

「えっ――でも、私なにも」

「こぼれそうだった灰を、ダイビングキャッチしただろ」


 リリィは思わぬ言葉に、ジーノを見上げた。

 クリスティーナは自分の首元の包帯に手を当て、こうも続けた。


「リリィちゃんがいなかったら、私は死んでた。リリィちゃんも、()村人の私を立派に救ってくれたんだよ」

「ジーノさん、クリスティーナさん……」


 そこはリリィが必死に治療した箇所だった。

 両手に包帯を巻いているリリィは手を組む。

 そして、意を決したかのように、口を開いた。


「あ、あの、私も――」

「まぁ、ダイビングキャッチの場面は脚を伸ばせば届いていたし、クリスティーナの傷に関しても、最初の方法が間に合わなかったら、別の方法で治す予定だったんだけどな」

「……私の努力、無駄だったってことですかー!?」


 両手に深手(傷あとも残さずに治療されたが)を負ってまで治療したリリィだったが、どうやら無駄に等しかったらしい。


 衝撃の事実に、伝えたいことが吹き飛ばされてしまった。


「たははっ、ご主人さまは空気読めないなぁ~」

「あっそうだ、クリスティーナにこれ(・・)戻しとかないとな」

「手かせされたーっ!? ど、どういうことご主人さま!?」

「村の一連も片付いたし、君は元の奴隷商のところにだな」

「私、まだご主人さまに認められてなかったのーっ!?」


 以前のように手かせされたクリスティーナは、まさかの事態にツッコんだ。

 両親に主人と紹介したことを武器に、どうにか説得。手かせは解かれ、仲間と認められるのだった。


「もう、ジーノさんったら」と、ぷくーっと頬を膨らませたリリィは、こう続ける。


「それにしても、境海ですかぁ。――そういえば、魔王も境海から現れたって話みたいですよ」

「ほへー。ひと月くらい前に勇者が倒したって魔物だよね? やっぱりいるんだね、境海の先にも魔物」


「聞いた話ですよ」と、リリィはつけ足す。

 そうして旅を続けていると、やがて王都の門が見えてきた。


 賑やかな門の前には、大勢の人と――門番がいた。

 そのうちの一人である、ヒゲとたくわえたベテラン門番がこう言った。


「おっ、あの汚い格好――ほぅら、戻ってきただろう?」


 ジーノは再び、王都セントクロヴィスに足を踏み入れる。



これにて一章は終了となります。


一章は、クリスティーナの話が中心でした。

二章では、ジーノの話が動き出しつつ、リリィにフォーカスが当たります。

今のところリアクション芸人なリリィさんですが、ちゃんとした役割もありますヨ。


新たなバトルももちろんありますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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