小さな村の英雄たち
二〇人の村人を一斉に治療した村の集会所。
ジーノ、クリスティーナ、リリィらは、その集会所にて、コルトン村を救った英雄として歓待を受けていた。
「冒険者に錬金術師のかた、この度は村を救ってくださって、本当にありがとう。金もなくなったこの村ができるお返しは、これが精一杯だが、ぜひ受け取ってほしい!」
村の青年コリーが代表して感謝の言葉を述べる。
呪いから解放された村人たちは、笑顔で村の英雄たちに拍手を送る。
彼らも、すっかり元気になったようだった。
「これはすごいごちそうだな。人が作った料理など、何十年ぶりだろうか。そもそも、人家で食事するのが何十年ぶりだ」
「ごちそうもすごいですけど、その狂った生活感もすごいです……」
「コルトン村は回りが森で囲まれてて、川も近くに流れてるからね。おいしいものいっぱい採れるんだ! それじゃ、いただきまーすバグバグガツガツガツ!!」
「ふわわーっ!? クリスティーナさんの食事ペース早すぎますー!?」
どこからか引っ張り出されてきた縦長テーブルが部屋の中央に置かれ、ジーノたちは席に着いてそこに並べられているごちそうにむしゃぶりついた。
女が厨房で炊事を、子供や若い男たちが食事を運んでいたが、クリスティーナのペースはそれを凌ぐ勢いだった。
「あっといけないいけない! リリィちゃん手のやけどは大丈夫? スプーン持てないならあーんしてあげよっか?」
「だ、大丈夫ですっ、ジーノさんに手当してもらいましたから! クリスティーナさんこそ首の傷、もういいんですか?」
『あーん』を断るリリィだったが、クリスティーナはいたずらっぽい笑みで、手にしたスプーンを近づけてくる。
リリィはしかたなく、あーんを受け取る。お互いに、少し照れていた。
「リリィもクリスティーナも、完治はしていない、まぁ七〇%といったところだ。この辺りの素材で作れるポーションでは、そのくらいが限界だった。だが安心しろ、傷跡は残らないように処置している。嫁入り前のカラダが傷つくのは、マズイんだろう?」
「がはごほっ! かかか、カラダって……! なんかえっちだ……!」
真面目なジーノが傷の具合を補足する。
下ネタ(とも言えないレベルだが))に過敏すぎるクリスティーナは、頬をぽっぽさせるのだった。
「それより――おいクリスティーナ、お前俺の作ったカエルコウモリ鍋のときはそんなじゃなかったよな……」
「むぐっ!? ……や、やだなぁご主人さま、べ、別にご主人さまの作ったワイルドすぎる料理がまずいとかじゃあ……」
「なんだ勘違いか。じゃあ次はヤモリネズミ鍋をごちそうしよう。俺が一番得意な料理だぞ」
「や、ヤモリネズミ――ご主人さま、料理の担当は次から私がやりましゅ! 食べるのも好きだけど、作るのもそこそこ得意なので!」
「っていうか、なんでも鍋にぶち込むんですね……」
宴の最中、村の老人らがジーノに近寄ってくる。
「おぉ神さま、今年も豊作でありますように」
「ありがたやありがたや……」
そんな風にお祈りをするのだった。
「おじいさんにおばあさん、俺は神様じゃないですよ、無職の錬金術師です。――クリスティーナにも最初言われたが、俺のどこにそんな要素があるんだ。服は貧乏だし、裸足だし」
「そこじゃないですかね……」
リリィのツッコミが謎を解決したのだが――無自覚な彼の格好が変わるのは、おそらくは、この先も訪れそうになかった。
「でもご主人さまはすごいね。もう一日は寝ていないはずなのに、あくび一つしてないんだもん」
「採取地では眠れないことのほうが多いからな。ただ――さすがに眠い。少し寝るか」
「やっぱりジーノさんも寝てなかったんだ……そうですね、ご飯食べ終わったらゆっくり寝て――って、今寝るんですかー!?」
「ぐぅぐぅパクパク」
「しかも寝ながら食べてる!!」
採取地での休まらない生活が長かったジーノの変わった技術(?)だった。
なんだかいろんなことが起きる宴の時間。
食事のペースが落ち、お開きといったころ――コリーが切り出した。
「クリスティーナ……すまなかった……!」
「んぐが?」
一人まだなにか頬張っていたクリスティーナは、「なんのこと?」と言わんばかりに、不思議そうな顔を向けて聞き返した。
村人たちが集まり、沈痛な面持ちとなる。
騒がしかった宴の場が、静まり返る。
「俺は――いや、俺だけじゃない、村のみんなで、お前やお前の家族を追い出したってのに、お前は俺たちのために、命を賭けて戦ってくれたんだ。それはとても……こんなもてなしだけで返せるようなことじゃない。俺たちは、償いをしなきゃ――」
「そんなこと、しなくていいよ」
静かに響いたコリーの謝罪の声。
クリスティーナは笑う。
「私の夢は『大名誉』を得ること! 誰かに謝ってもらうことじゃないからねっ!」
村八分にあったことを、笑って済ます。
金髪に青い目をした奴隷の少女は、前向きなのだ。
どんな状況でも絶対に後ろ向きにはならない、底なしの明るさを持っているのだ。
「だ、だけどクリスティーナ、俺は酷いことを言ったんだ! 久しぶりに帰ってきたお前に、『生まれてこなければよかった』なんて酷いことを――だからなんでもいい、俺だけでも罰して――」
「パパ……泣いてるの?」
泣いて地面に伏し、頭を下げるコリー。
まだ三歳の娘エミリーは、そんな父親を悲しそうな表情で見つめていた。
クリスティーナはチラリとその様子を見る。
「しつこいぞコリー。あれは、お前の本心じゃないって私は知ってる」
そして、一つ間を置くと――ニヤリと笑ってこう返した。
「あれは、眷属化で凶暴になっちゃってただけ。だよね、コリー」
「クリスティーナ……ごめん、ごめんなっ……!」
娘を心配させるなと、目配せされたコリー。
器の大きなクリスティーナの前では、もう受け入れるしかないのである。
「いやクリスティーナ、完全に眷属化する前のことだから、彼の言動に因果関係なんてないぞ」
――が、常識外れなこの男だけは、空気を読まない。
「んもうジーノさんっ、良い感じにまとまったところなのに、野暮なこと言わないでくださいっ!」
「だって本当のことだぞ。ムニャムニャ」
「しかも寝言かい!」
クリスティーナのツッコみが炸裂し、宴の場に再び笑い声が戻る。
「えへへ、へんな神さまっ!」
三歳の幼き少女にも、笑顔は戻るのだった。




