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二つのタイムリミット

 日が沈む――

 森に囲まれたコルトン村から、茜の色が消えていく。

 少女に残された時間は、もう数分と残っていない。


「よし、灰は全て集めた。――クリスティーナ」

「行って……私はいいから、コリーの娘を……!」


 地上にゆっくりと降りて来たクリスティーナは、地に足をつけた直後には、倒れ込んでいた。

 仰向けの状態で、視線だけをジーノに投げる。


「分かっている。お前も、耐えろよ」

「もち……ろん……」


 タイムリミットは、クリスティーナにも迫っていた。


 人肌を焼く血のクリスティーナと、ヴァンパイア化が間もない少女。

 同時に救うことはできない。

 ジーノは、クリスティーナに願われたとおり、少女のほうを優先し、駆けていった。


「なに……してるの……」


 今も血を噴出する彼女の回りには、誰も近づけない。

 高温の血は蒸気を発し、再び辺りを焼け野原に変えようとしている。


「治療ですっ! 任せてください、私にだって、初期の治癒魔法くらい使えますっ――ヒール!」


 そんなクリスティーナに唯一手を差し伸べたのは、リリィだった。

 ただの新人冒険者で、上の者からはウスノロと罵られていた、年端もいかない少女。


 彼女は、自分の身をかえりみずに、傷口に手を押し当てて回復魔法を唱えていた。


「リリィちゃん、手が焼けちゃうよ……」

「焼けてません! ヒーラーをなめないください! こ、これ……くらいっ! あとで耳たぶで冷やせば問題なしですっ!」


 野焼きの臭いに混じり、肉の焦げる臭いがするのは、リリィの手のひらが焦げているからだ。


 それでもリリィはその手をどかそうとはせず、回復魔法をかけ続けた。

 痛みに涙を浮かべながら、彼女の治療に、全力を注ぐ。


「リリィちゃん、頼みがあるんだけど……」

「だ、ダメですっ、聞きたくありません! クリスティーナさんなら、自分でどうにかできるはずですっ!」

「じぃじと、ばぁばに、ごめんって……伝え……て……」

「だめですっ、クリスティーナさんはこんなところで死んじゃ、だめなんです!」


 新人が使える魔法なぞ、たかが知れている。

 初期のヒール――擦り傷などの軽傷だけしか治せない魔法。

 それを繰り返し繰り返し、何度も何度もかけ続けた。


 たいした効力がなかったとしても、リリィは渾身の力で回復魔法を使い続けた。


「だって私は、クリスティーナさんが作るおとぎ話の続きを、読んでみたいんですからっ!」


「ヒール! ヒール!」と、連続で魔法をかける。

 魔力が底をついて、魔法の輝きが消えても。

 リリィは気づかないまま、その手を離さずに魔法をかけ続けていた。


 魔法が尽きたからだろうか――


 やがて、クリスティーナの目から光が消えた。


「いやだっ、クリスティーナさんっ――!!」

「よくやった。クリスティーナ、それにリリィ」


 抑揚のない、渋いおっさんの声が背後からした。

 ジーノだった。腕に無色のオーラを宿らせた男は、クリスティーナの首に――傷口に、直接は触れずにかざした。


 まるでその(オーラ)が、消えたろうそくに火を灯すかのように――


「――がはっ、ごほっ! あ、あれ、私、死んだはずじゃ……!?」

「く、クリスティーナさん、起きたーっ!?」


 クリスティーナは目を覚まし、自分でもびっくりするかのように体を起こすのだった。


「ま、まさかご主人さまが……? ――そ、そうだ、私の名誉――じゃなくて、あの娘は!?」


 死にかけていたとは思えない元気さを取り戻したクリスティーナ。

 一番に聞くのは、やはり名誉のこと。


 ジーノは、親指で自分の背後をさして答える。


「パパーっ、痛いの治ったよーっ!」

「エミリーっ! よ、よかった……元気になったんだね!」


 日が完全に沈んだ村には、親子の歓喜の声が響き渡っていた。

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