クリスティーナ(+リリィ)VS真祖 ② ――名誉
「く、クリスティーナさん、今私が治療をっ!」
「リリィちゃん、近寄ったらダメ!」
危険をかえりみず、リリィは治癒魔法をかけるため走り出した。
しかし、大量に出血しているクリスティーナに止められた。
「フハハハ! どこまでも愚かな人間よ、ヒーラーまで遠ざけようとは。一人の人間がそこまで出血をすれば、間違いなく死ぬ――っ、なんだ、この穢らわしい血は!」
クリスティーナの血は、蒸気を発していた。
血をかぶった地面の草から、火が出るほどの高温だった。
「おとぎの竜の、〝邪竜の血〟。……真祖なら、聞いたことくらい……あるんじゃ……ないかな」
「邪竜の血……おとぎ話のアレか、実在していたとはな。フフ、そうか、それでか。貴様が奴隷の身分でいる理由は!」
クリスティーナは首の傷口を押さえながら語る。
もはや虫の息のクリスティーナに、真祖は言い放った。
「悲しいなぁ奴隷の小娘よ。今守ろうとしている人間からも迫害されているというのに、そんな人間を守るために、命を落とすのだからな」
コリーは思い切り突き飛ばしたので、この血で傷つくことはない。
しかし高温の血は地面を焼き、今や炎となっている。
自ら招いた災厄で、炎に囲まれたクリスティーナは――
「私が守ったのは、人間じゃない――名誉だ」
まだ、立っていた。
その手には戦う意思である、木剣も握られたまま。
「村を救う名誉……コリーを救う名誉……一つだって、逃すものか……!」
自分自身の肌ですら、その血で焦がしていたというのに、立っていた。
「いつか絶対に、じぃじとばぁばと穏やかになった時の中で――ご飯を食べるためだ! 私は……それまでにっ……死ぬなんて『不名誉』は、絶対に犯さない!」
死の淵にありながら、笑って立っていた。
「だから真祖……お前もここで終わりだ……私の名誉に……なってもらうから……ねっ……!」
「こ……こいつは――なんだ……!?」
虫の息のクリスティーナを前にして、真祖は後ずさりした。
「同族のためでもなく、名誉などという、手には掴めぬものに、なぜそこまで……!!」
後ずさりなど、真祖と名乗ってから、初めてだった。
「小娘とは思えぬ胆力っ! この人間は、生かしておいてはならぬ!」
真祖は爪を構え、勝負を決めようとした。
「首から致死量の出血……意識も……朦朧としてきた……」
「く、クリスティーナさん! もういいです、急いで治療を――」
絶対絶命のなか、クリスティーナは続けてこう言った。
「やっと、本気が出せる」
「強がりを――!」と真祖が言ったところで、突如突風が巻き起こった。
「はわわーっ!」と、クリスティーナに近寄ろうとしていたリリィは飛ばされる。
「技術――邪竜解放!」
突風は火を消し、遠くの木々を大きくしならせる。
風は、クリスティーナを中心に起きている。
彼女の奥の手が、発動したのだ。
「こ、れは……竜!?」
「邪竜形態――全快の状態で本気を出したら、完全消滅させちゃうから……ね……死にかけの今なら、灰を残して、真祖を倒せる……!」
今のクリスティーナは、どこからどう見ても人間だ。
しかし、その白い肌の表面には黒く線上の刻印が現れ、顔にまで及んでいる。
それだけでなく、体より外側の部分にも、角や巨大な羽をかたどるかのように現れる。
黒の刻印は、まるで太い血管のように。
その姿は竜のよう。
クリスティーナは、竜に変身していたのである。
「本気を出していたら、だと……!? あの忌々しい錬金術師がほざいたセリフを、貴様ものたまうか、小娘!」
真祖はまだ戦意を喪失していない。
なぜなら、クリスティーナの傷は、変身したからと消えていないからである。
「日没までもう時間がない……でも、ご主人さまはきっと間に合う、それまでにお前を倒す!」
日はもうほとんど沈み、完全な闇が訪れようとしている。
両者が最後の一撃をかわそうとする。
「――クリスティーナ!」
「ジーノさんっ!!」
そんなギリギリのタイミングで、ジーノが間に合った。
魔物猪にまたがり、遠くから砂埃を上げて爆走している。
「くっ、その忌々しい声――もう村までたどり着いたか、無色の錬金術師め!」
真祖は分が悪いと判断し、空へと飛び立つ。
それを見て間に合わないと判断したジーノは、落ちていた枝を拾って槍に錬成。猪にまたがったまま、思い切り放り投げた。
「あっ、外れた」
「バカめ! どこを狙って――」
「ナイスコントロール、ご主人さま!」
武器が苦手なジーノ。真祖がいるはるか上空にまで外してしまうが――
そこには、飛び上がっていたクリスティーナがいた。
勢いだけは無駄にあった槍を、見事にキャッチする。
「これが私の名誉の一撃! 技術・邪竜武装――投げ槍!」
そして、真祖に向けて投げ放った。
直下に放たれた槍は凄まじいスピードで真祖を射貫き、地面にまで叩きつけられる。
「ぐっ、おおおおっ!? こ、こんなもの――!」
「おっと、もう逃がさんぞ」
「こ、これは――水!?」
「ただの水じゃない。聖水だ。戻る途中で作っておいた」
暴走猪から飛び降りたジーノは、同じ過ちを繰り返さぬと、聖水をふりかけた。
「お、おのれ、真祖たる余が、こんなぁぁぁぁっ!」
「お前が拷問にかけてきた人たちに比べたら手ぬるいものだ。往生するんだな」
日が落ちていくなか、真祖の体は灰へと還っていく。
ここに真祖は、完全に消滅するのだった。




