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ジーノ&クリスティーナVS眷属×20 ――荒療治という名の戦闘

「グガァァァァっ!」

「ジーノさん、危ない――!」

「病人なら大人しく寝ていろ」


 眷属化し、長い爪と鋭い牙――そして赤い目を持つ、元村人の魔物の群れ。

 部屋に入った直後に襲われたジーノは、腕にオーラを宿し、一番に襲ってきた元村人を殴り倒した。


「ジーノさん、強い……!? で、でも、二〇()のヴァンパイアの眷属に囲まれたら、ひとたまりも……!」


 彼らの見てくれは今や、服を着た魔物だ。

 しかしそんな彼らを、リリィは二〇()とは数えなかった。

 口では言っても、まだ認めたくは――あきらめたくはないのだ。


「ご主人さま、私はなにをしたらいい!? 薬の知識なんてないけどもっ」

「時間がない、薬はこの場で俺が作る。手元にあるのは合計三体分の灰だけだ、この場の二〇人全員を治療したいのなら――ひと粒だってこぼすわけにはいかない」

「なるほどっ、そのあいだ、私が守ればいいんだね」


 ジーノは腰に巻きつけていた鞄から小瓶を取り出すと、白い花との合成を始める。

 手元にあるヴァンパイアの灰は三体分だけ――それで村人二〇人を治すとなると、一切の無駄は許されない。


 ジーノは追加でもう一つ注文(オーダー)を出す。


「それと絶対に殺すな。俺も、死人を蘇らせる自信はない」

「うんわかった! 思いっきり手加減する!」


 ヴァンパイアの眷属には知恵がある。

 

 襲うのをいったんやめた彼らは、間合いをはかりながら、ジーノとクリスティーナを部屋の中央へと誘導する。


 目の赤は妬みの赤。

 人間の体がほしい――腕の一本でも、指の一本でも、骨の一本でも、はらわたの一かたまりでも。


 奪い尽くして、人間ではなくさせたい。

 それが、彼らの本能だった。


「一斉に来るよご主人さま!」

「分かってる。背中は任せたぞ、クリスティーナ」

 

 ジーノとクリスティーナは、お互いの背中を預ける。

 総勢二〇体のヴァンパイアの眷属が、二人に襲いかかった。


「ちょっと痛いかもしれないけど――許してねみんな!」


 クリスティーナは太陽のエッセンスを含んだ剣は使わず、素手で半分の一〇体をなぎ払う。

 宣言どおり思い切り手加減したため、戦闘不能に追いやるだけの威力はない。

 一〇体が態勢を立て直している間に、別の一〇体がジーノに――


「次は別の一〇人の番! ご主人さま、真後ろを向いて!」

「いいぞクリスティーナ、彼らを俺に近づけるな」


 襲いかかる前に、クリスティーナが体をねじ込ませて、かろうじて間に合わせる。

 そうしてジーノは方向を変えて、再びクリスティーナに背中を預ける。

 

 まるでダンスを踊るかのように、ピッタリと息を合わせる二人なのだった。


「す、すごい、ネイトさん以上の実力者なんじゃ……! あ、あの人たちは、いったい……!?」


 リリィは目の前の光景に息をのむ。

 そのとき、ジーノは二つ薬を作り上げた。


「クリスティーナ、俺がこれを二人に塗るあいだ――」

「私が守る! ご主人さま、タイミングを合わせて!」


 クリスティーナは縦横無尽に駆け回りながら、タイミングを見計らって、一八体を同時にさばいて隙を作り出す。

 ジーノは素早く飛び込むと、オーラの宿る左右の腕で孤立していた二体の傷あと――首筋に、薬を塗り込んだ。


「クリスティーナ!」

「ふひひいぃー、一八体はまだピンピンしてる、また薬を作るあいだ、それから守れってことだね!」


 ジーノの呼び声一つで、クリスティーナは次なる役割を理解する。


「薬が……効いてる!?」


 薬を塗られた二体は、床の上を転がってもがいていた。

 リリィはそれを見て薬が効いていると理解した。


 だが――


「だ、ダメです……姿は全然戻らないですっ!」


 眷属の爪も牙も――そして目も、赤のままだった。

 リリィは絶望し、冒険者として務めを果たそうと、叫んだ。


「も、もう無理ですよジーノさん! 早く逃げてください、本当に死んじゃいますよ!」

「いや、効いている――まだ間に合う!」


 返ってきたジーノの言葉は、確信に満ちたものだった。

 クリスティーナはジーノの言葉を聞いて、笑った。


「ご主人さまならそう言ってくれると信じてた! ――やろう、ご主人さま! 絶望に落ちるコルトン村を救って、『名誉』をごっそりいただこう!」

「無職の俺にそんなたいそうなものは必要ない。手柄は全部お前にくれてやる、クリスティーナ」


 二人は襲われながら、そんな言葉をかわす。

 そうして薬を作り上げ、元村人たちの首筋に塗っていく。


 ヴァンパイアの眷属は姿こそそのままだが、その薬によって少しずつ、着実に動ける数を減らしていた。


 しかし――悪条件は予想以上に二人を苦しめていた。


「残り一〇! くぅ、いちち……手加減しまくり、武器も使えないとなると、なかなかにしんどいね。そんでもって、寝不足でめっちゃ眠い!」


 ヴァンパイアの灰を一粒もこぼしてはいけない。

 敵を殺さず、重篤な傷を負わせてもならない。


 特に最前線のクリスティーナは、ぼろぼろにされかけていた。


「ど、どうしてそこまで……クリスティーナさんなんて、あんなひどいこと言われてたのに……!」


 それでも踏ん張るクリスティーナを見て、リリィはそう思う。

 杖を握り締めていた手に力が入ったのは、自分の無力さを痛感しているからか、それとも、奇跡を祈ってか――


「クリスティーナ! 左のやつはまだ倒れていない!」

「っ、しまっ――」


 眷属には知恵がある。

 数を減らした彼らだったが、治療されて、もがく仲間に隠れながら、一体が機をうかがっていた。

 死角からの攻撃に、クリスティーナの反応が遅れた。


技術(スキル)・壁建築!」


 ジーノは薬品にクラフトしていた灰を一瞬、空中へ放って、地面に手をつけて技術(スキル)を放つ。

 クリスティーナはその技術(スキル)によって危機を脱するが――


「だ、ダメだご主人さま! ご主人さまが戦ったら、灰が――」


 残りわずかの灰が詰まった二つの瓶は、宙を舞っていた。

 戦闘中に失えば、風に舞って回収不可能になる。


 村の誰かを、見捨てなくてはならなくなる。


「っ、まだ、間に合う――」

「大丈夫だ、こぼれないよう計算して――」


 ジーノは瓶が逆さにならないよう、灰がこぼれないように計算して放っていた。

 だがとっさに取った行動は、疲労状態のクリスティーナにまでは伝わらなかった。

 お互いに空中の瓶を拾おうと動き出し、体がぶつかる。


「一つは拾った、あともう一つ――!」

「ダメ、間に合わ――」


 一つはジーノが拾った。もう一つも、足を目いっぱいに伸ばせば届く距離。


 だがそこには、長い爪を振りかぶる眷属がいた。


 知恵のある眷属は、それが危険な素材(アイテム)と知っている。

 小瓶を破壊し、中身を粉々にしようと腕を振り下ろした。


「――せせせ、セーフ! ですよね、中身こぼれてませんよね!?」


 本当に、ごくわずかな『隙間』だった。

 無我夢中にリリィは飛び込んで、ひっくり返すことなく、小瓶を両手でキャッチしていたのである。


「リリィちゃんっ、ナイスっ!!」

「みなさんが頑張ってるんです、わ、私だって……頑張らないと!」

「クリスティーナ、リリィ、敵はもう半分だ、絶対に灰をこぼすな!」


 ジーノのかけ声に、クリスティーナも、リリィもここ一番の集中を見せる。

 敵の猛攻をかいくぐりながら、どうにか全員に薬を塗ることに成功した。


「コリーにも塗ったよご主人さま! みんな苦しんで、効いているように見えるけど――」

「誰一人として、姿が戻りませんっ!」


 床で苦しみもがく元村人たち。

 未だその姿は魔物のまま。

 そのとき、奇妙なことに、同じタイミングで村人全員の動きが止まった。 


 静まり返る室内。

 クリスティーナとリリィは、固唾(かたず)をのんで見守る。


「戻ってこい、コリー!」

「お願いします、効いてくださいっ!」


 二人が祈りを口にして叫ぶと――村人たちの姿が徐々に、徐々にと元の姿に戻っていく。

 静かだった部屋に、咳をする声や、激しい息づかいが響く。


 治療は、成功した。


「な、効いてるって言ったろ」


 ジーノだけは、そう確信していたようだった。


「す、すごい……本当にあの状態から治しちゃうなんて……! ジーノさんっていったい――というかまず、お二人はどうして、報酬もなしにここまでの働きをしたんですかっ? こんな自己犠牲、神さまか聖人さまくらいしか――」


 リリィにとっては、まずそこが疑問だった。

 どうして二人は、ここまでのことをしたのか、と。

 

 ジーノとクリスティーナは、それぞれこう答えた。


「素材の効力を知るために、ついでに人を救っただけだ」

「私はただただ『名誉』のため! ぐふふ、壊滅の危機に瀕した村を救ったし、これはなかなかいい名誉になるぞぉ~」

「……そ、それって、自分のためってことですかー!?」


 ちょっと感動していたリリィだったが、台無しにされてツッコむのだった。


「ふぁぁ、もう限界……おやすみ~」

「わわっ、クリスティーナさん、寝る前に傷の手当てを――あ、えっ?」


 細かな傷だったが、あちこちから出血しているクリスティーナを治療しようとするリリィ。


 異変に気づいた。


「く、クリスティーナさんの体から湯気が……?」

「正しくは〝血〟からだ。直接触れないほうがいい、人肌を焼く高温だ」


 彼女の体から――流れ出た血から、蒸気が立ち上っていた。

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