絶対に諦めない二人
目の前に広がる光景は、まさに地獄絵図だった。
案内された場所は村一番の建物で、普段は集会所として活用されているのだろう。
村人全員を収められる、木造の広い一室。
地べたに寝かされていた二〇人以上の村人が、ヴァンパイアの呪い――眷属化に苦しみ、もがいていた。
「う、ぁぁぁ……助けてくれぇ、苦しいっ」
「私を……殺してぇぇっ、痛いぃぃ!」
「な、なぜわしらが、こんな目に……!」
「パパ、ママぁ……痛いよ、苦しいよぉ……っ」
命乞いをする者に、死を願う者。
男も女も、子供も老人も、平等にその苦しみに襲われていた。
「深刻な状況だ。噛まれてから数日は経っているな」
ジーノとクリスティーナは、部屋の窓から村人の様子を見せられていた。
悲惨な村人たちを前にコリーは言葉を失い、代わりにリリィが答える。
「は、はい、私たちが到着した頃にはもう噛まれていたらしくて……コルトン村の村人全員が噛まれて、ここに集められています……」
「全員……コリー、お前も」
クリスティーナに言われ、コリーは首筋を見せる。
そこには、牙で穿たれた傷があった。
「俺は……俺はいい! けど、そこで苦しんでいる俺の娘が、かわいそうで見てられないんだ……! まだ三歳だぞ、どうしてこんなひどい目に……!」
コリーは涙を浮かべて訴える。
そして、聞いてきたクリスティーナにつかみかかった。
「なにもかもお前のせいだ、クリスティーナ! お前さえ、お前さえ戻って来なければ……生まれさえしなければ!!」
「ちょ、ちょっとコリーさん、言いすぎです! お二人の事情は分かりませんけど、ケンカしたってなんの解決には!」
「懐かしいなコリー! 昔もこうやってよくケンカしてたな! 私の一〇〇戦一〇〇勝だったけど!」
掴みかかろうとしたコリーだったのだが、クリスティーナは片手で簡単にその頭を抑えていた。
クリスティーナは、コリーの暴言を気にも留めていなかった。
「シネ、シネ、シネェェェ!!」
「コ、コリーさん、ケンカはやめ――って、コ、コリーさん、その牙は!?」
リリィはコリーがまだ激情しているものと思い、説得していたが――
その口から牙が生え、目は赤く光りだす。
もう、言葉の通じない魔物に変化していた。
「そ、そんな、もう手遅れ――」
と、リリィが絶望したそのとき。
クリスティーナは、コリーだった魔物を蹴り飛ばしていた。
「――しっかりしろコリー。三歳の子供を置いて先にいくなよ」
魔物は部屋の壁を突き破る。
窓は壊れ、向こう側にいた村人たちが目を向ける。
「ご主人さま、灰はまだあるはずだよね」
村人は、続々と魔物化していた。
向けられた目は、助けを請う目ではなかった。
獲物を狩る赤い目で、ジーノらを射貫いているのだ。
「私の名誉にかけて、一生のお願いだ! その灰で、この人たちを救ってほしい!」
「なに言ってるんだ、元よりそのつもりでここに来ただろ。行くぞクリスティーナ、やりすぎて村人を殺すなよ」
もはや魔物の群れと化した部屋に、ジーノは入っていく。
クリスティーナはたくましくニカっと笑い、その背中を追った。
「だ……ダメですよジーノさん、クリスティーナさん! もう村人さんはみんな魔物化しちゃっています! 今から治療してももう間に合いません、逆にお二人に危険が――わ、私がなんとか引きつけますから、お二人は早く逃げて!」
新人で力のないくせして、リリィは冒険者として、より力のなさそうなジーノらの安全を第一に考える。
そんなリリィに、ジーノはこう返した。
「今から治療しても、間に合わないかもしれない」
クリスティーナが、その意図に気づいて笑った。
「でも――間に合うかもしれないんだね。了解ご主人さま、私もできることを手伝うから、指示ちょーだい!」
魔界の入り口に足を踏み入れるジーノとクリスティーナ。
眷属化を止めるため、死力を尽くす戦いが始まる。




