9 初めての護衛依頼(2)
「あ、すまない。失言だったか。悪い意味ではないのだが……」
「いいえ、大丈夫ですっ。気にしてないです!」
「……あちらのベンチで落ち着いて食べたらどうだ?」
そう言ったライオネル様の視線の先を辿ると、屋台から少し離れた場所にベンチがあった。
「……はい、そうですね。そうします」
神殿前広場の中央にある噴水前のベンチに並んで座る。
私ばかり一人で食べていたことに気が付いて、静かに隣で座っていたライオネル様に揚げ菓子の包みを差し出した。
「ライオネル様もいかがですか?」
「いや、俺は」
「揚げ菓子はお嫌いですか?」
「嫌いというか、菓子自体あまり食べる習慣がないんだ」
「そうなんですね。折角ですし、お一つどうですか?」
包み紙をぐぐいと目の前に差し出すと、ライオネル様はかすかに眉間に皺を寄せた。
う、強引過ぎたかな……と思っていると、
「そう……だな。一つもらおうか」
革手袋を外すと、ひょいと揚げ菓子をつまんで口に放り込んだ。
「ん、丁度いい甘さだな。……うまい」
「そうですよね! 良かったです」
自分で作ったわけでもないのに嬉しくなった。
「王都の揚げ菓子はおいしいですね。私の故郷の村でも食べたんですけど、もっと素朴な味でした。特別な時しか食べられなかったんで、妹といつも取り合いで。でも最後は妹に譲ってました。やっぱり妹には弱いんですよね~、ふふっ」
揚げ菓子で昔のことを思い出したせいか、関係ない話が口をついて出た。ライオネル様の表情は変わらないが、静かに耳を傾けてくれている。空気感はとても穏やかだった。
「君にも妹がいるのか?」
「は、はい、そうです……」
「そんなに仲の良い姉妹なら、君が王都に来て寂しがっているのではないか? まだ幼いのだろう?」
「あ、いえ……」
もう亡くなっていることを話そうか悩んだが、ライオネル様なら聞いてくれる気がして話すことにした。
「……実はもういないんです。八年前に魔物に村が襲われて、その時、家族全員犠牲に……」
「そうか……。……辛かったな」
「はい……」
私は素直に頷く。
ライオネル様は騎士団で魔物討伐に行ったりして、深刻な被害を目の当たりにしてるはずだ。私以外の多くの被害者を見てきたと思う。きっと誰よりも状況を知っている。
だからこそ私は隠すことなく話せたのかもしれない。
「……聖女になれば、人々を助けることが出来る。被害者を助けることが出来れば、私のように辛い思いをする人を減らせるかもしれない。そう思うんです。……そう思ってはいるんですが、魔力も弱くてずっと見習いのままで、全然役に立ってないんですが……」
私は情けなくなって苦笑いをした。
「人を助けたいという思いに、聖女か見習い聖女かは関係ない。神殿に君のような人がいてくれるだけで心強い。君はまだ小さいのに立派だな」
こちらを見るライオネル様の金色の瞳がとても澄んでいて吸い込まれそうだ。
脈拍が急に上がってきて、顔が熱い。普段こんなふうに褒められたことはないので、照れくさい。
恥ずかしさに耐えられないので、話を変えようと他の話題を探す。
(な、何か話題はないかな? 話題は……っ)
「あの、えっと、そう! エリゼはとてもいい子ですね! 彼女にはいつも助けてもらってるんです」
「エリゼ? そういえば、君には心を許しているようだったな。これからも仲良くしてやってほしい」
そう言ったライオネル様はとても優しく、お兄さんの顔だった。
「はい! こちらこそ仲良くしてほしいと思ってます。実は私の妹が五つ下なんですが、今生きてればエリゼと同じくらいだなって。だからエリゼのこと妹みたいに可愛いく思ってるんですよ」
エリゼの方がしっかりしているし、こんなこと本人には言えないけど、などと思っていると、ライオネル様の反応がないことに気づいた。
顔を見上げると、固まっている。
(え? どうしたんだろう? 公爵令嬢のエリゼのことを妹みたいだなんて無礼だったのかも?)
「……ライオネル様?」
恐る恐る呼びかける。
「誰と……誰が……同じだと?」
「え? エリゼと妹です」
「君の……年齢を聞いても……?」
「私ですか? 十八ですが」
「十八……」
ずっと硬直していたライオネル様が、今度はがばっと頭を下げた。
(え!? 何事!?)
「す、すまない。てっきり君はエリゼと同じくらいの年齢だと思っていたんだ。だ、だから子供扱いというか、色々失礼なことをしたかもしれない」
いつも落ち着いた口調で話すライオネル様には、考えられないほどの早口だった。かなり動揺してるようだ。
いや、全然失礼なことなんてなかった。それに子供に間違えられるのは日常茶飯事だから、別に気にしてない。
このライオネル様の話から察するに、自ら護衛をしてくれたりお菓子をごちそうしてくれたのは、子供だと思っていたからということだろう。
それよりも、副団長様が私のような者に頭を下げている状況を、誰かに見られたらまずい。
「あのっ、頭を上げてくださいっ! 私もすみません。すっかり甘えてしまってました。お菓子の代金もお支払いしますのでっ」
自分の巾着袋から、なけなしのお金を取り出した。
「いや、いい。それは俺が勝手に買ったものだ。気にしないでくれ」
ライオネル様はこちらに手のひらを出し制止したので、これ以上は言えず手を引っ込める。
「はい……、ありがとうございます。あの、あと護衛のことなんですが、もうやめますよね?」
「ん? なぜだ?」
「だって、子供だと思って心配して護衛してくださったんですよね? 私、一応十八ですし……」
「前にも言ったと思うが、聖女という立場上、護衛は必要だ。それにさっきも怪しい輩に声を掛けられていたばかりではないか」
「それは、そうですが……」
このまま引き続きお願いしてもいいのだろうかと、躊躇している私に、爆弾発言が落とされる。
「子供ではなくても、か弱い女性を一人で歩かせるわけにはいかないだろう」
「へ? かっ……!?」
(か弱い女性!? いや、確かに強くはないですが、そんなふうに言われたのは初めてですよ!)
またもや心拍数が上昇してきた。
ライオネル様って何者ですか。天然たらしですか。心臓に悪いです。
私は熱くなった頬を両手で押さえた。




