37 夢が醒めるのは突然に(ライオネルside)
「アイリスッ、アイリスッ!」
呼び掛けるが、彼女の瞳は閉じられたままだ。俺の腕の中でぐったりとしている。
「ライオネル、自分で魔法解いちゃったんだね。それにしても強力な光の防御だな~」
「……あぁ、そうらしいな」
アイリスを守りたい一心で、俺は自分に掛けられていた魔力抑制魔法を解き、防御魔法を発動させたらしい。
全身を巡るこの魔力は、とても懐かしい感覚だ。
「呪死魔法を解くにはどうすればいいんだ。――フェリシティ嬢は!?」
「あそこで倒れてるよ~。攻撃魔法で魔力を使い果たしたんじゃないかな?」
「くっ、そうか」
話を聞ける状態ではなさそうだ。
ホールの方を見やると誰もいない。人々は皆外へ避難していたようだ。
俺は様子を窺っていた王宮近衛騎士に、フェリシティ嬢を任せた。王宮内で騒ぎを起こし、禁術を使い次期大聖女に危害を加えたのだ、重い罪に問われることになるだろう。
「あ! 団長に聞いてみるから、ちょっと待ってて!」
アンディはそう言うと慌てて魔伝言鳩を取り出し、団長に飛ばした。
「う……っ」
「アイリス!?」
アイリスの口から声が漏れたので呼び掛けるが、やはり反応は無かった。
顔を歪ませ、苦しそうに呼吸を繰り返している。
(……くそっ、どうすればいいんだ!)
「あ、団長からだ!」
白鳩がアンディの手の上に収まる。
「――団長はなんて!?」
「ちょっ待って! 今聞いてるから! …………なるほど、そうか、わかった! どんな魔法にも、魔法の核があるんだ。そこを破壊すれば魔法は解かれるって」
「魔法の核……。呪死魔法の核は分かるか?」
「あ、調べてみるよ」
アイリスを床に横たえると、アンディが魔法を鑑定する魔術の呪文を唱える。金色の光が彼女を包み込んだ。
「出現せよ」
しかし、アイリスから呪死魔法の魔法陣は出現しなかった。
「あれ? おっかしいな~? 失敗した?」
彼女の様子を観察していると、僅かに口の中から光が漏れ出しているのに気付いた。アイリスの唇を少し開けてみる。
「え、なにこれ~? 口の中から魔法陣の光が!? どーゆーこと!?」
アンディが驚いたように声を上げている。
俺はそこで、はっと気付いた。さっきアイリスが飲んでいた飲み物が疑わしい。
「アンディ! あの床の液体を鑑定してくれ!」
「分かった!」
アンディが鑑定すると、液体から呪死魔法と思われる魔法陣が出現した。
(やはり、そうだったか……)
アイリスがケーシー侯爵令嬢からグラスを渡され、バルコニーへ出ていくのは気付いていた。しかし、部外者の俺が口出しするわけにはいかないと、静観していたことを後悔する。
まさか、ケーシー侯爵令嬢を利用して、仕掛けてくるとは思わなかった。
呪死魔法など、特殊な魔術は人体にかかりづらい。
真の聖女である彼女に確実にかける為、体内から発動するようにしたのか、それとも、飲み物を渡そうとしたケーシー侯爵令嬢に罪を擦り付けようとする為だったのか、フェリシティ嬢の意図は不明だ。
問題は体内にある魔法の核を、どうやって破壊すればいいのかってことだが……。
良い方法が浮かばず、頭を抱える。
「マジかよ~。魔法の核を破壊しようにも、体の中じゃどうすることも……、あ、いや、方法は一つある!」
「な、何だ!?」
縋るような気持ちでアンディを見つめる。
「口から体内に魔力を注入して、破壊するんだよ! 一歩魔力量を間違うとアイリスちゃんまで傷つけちゃうかもだけど、そのまま解術できない方がもっと危険だからねー」
「そうか……。で、口から魔力を注入するとはどうするんだ?」
「そりゃあ、……口移し?」
「口うつ……し……。――はっ? 待て、それって、その、つまり、アレではないか!」
俺は動揺してしどろもどろになってしまう。
「そ、アレだね~」
「ま、まだ婚約もしてないのに、そのような行為はっ! 」
「仕方ないでしょ~。おまえが無理って言うなら、俺がやるけど?」
「それは駄目だ!」
「じゃ、さっさと魔法解かなくちゃ。時間がないよ!」
「わ、分かった……」
俺は目を閉じ意識を集中させる。
八年ぶりに解き放たれた魔力はまだ暴走気味だ。もし力加減を誤ると彼女を傷つけかねないんだ、失敗は許されない。
深呼吸を続けていると全身を巡る魔力が徐々に鎮静化し、俺の身体、精神と融合する。
俺はアイリスの小さな唇を指でそっと開けると、そこに自分の唇を重ねた。
(お願いだ、上手くいってくれ……)
目を覚ましたら、君に伝えたい事があるんだ。だから、あの澄んだ黒い瞳で俺を見つめ、笑いかけてほしい。
俺は祈りながら、ゆっくりと彼女の体内に魔力を注ぎ込んだ。




