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落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜  作者: 滝里シエル


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33 夢のような夜会(1)

 何もかもが非現実的で、本当は全部夢なんじゃないかと思えてくる。

 王宮に向かう馬車に揺られながら、正面に座っているライオネル様をチラリと窺うと目が合った。


「ん? どうした?」


「あ、その……。元気なお姿が見られて安心しました」


「あぁ。……君が治療してくれなかったら、今の俺はなかった。本当に感謝している……」


 そう言ったライオネル様は、私に向かって頭を下げる。


「えっ!? ライオネル様、頭を上げてくださいっ!」

 私は焦って両手を振った。


「実は……君の魔法のお陰で、この間の怪我だけでなく、八年前の傷も全て完治したんだ」


「え、そうなんですか!? それは良かったです!」


 彼がもう、傷跡の後遺症に苦しむことがないと知り安堵する。私は初めて、自分の魔力に感謝したくなった。



「……俺はずっと、過去に囚われていたんだろう。母を犠牲にして生き残ったのだから、この国や家族の為に命を落とすのは本望だと思っていた。しかし、大切なものを守り続けるには、生き抜かなければ意味がないと気付いたんだ」


 そう話すライオネル様の表情はとても明るくて、なにか吹っ切れたようだった。


「君には、助けられてばかりいるな……」


「そんな! それは私の方ですよ! 危ない時はいつも助けてくださって、迷惑ばかりかけてますし。それに、今日もパートナーに誘ってくださったり……。誰もいなかったので助かりました」


 最初からライオネル様以外とは考えられなかったが、女性の方から直接誘ってはいけないらしく、大聖女様を通じてお願いしてみようと考えていたところだった。


「そうか。俺も必要に迫られた時以外は参加せず、王宮の警備に当たるのが常だったんだが」


 そうだったんだ。普段はあまり参加しないようだけど、他にパートナーに誘いたい方はいなかったのだろうか。


 私を特別に思ってくれてるのではと錯覚しそうになるが、私はまだあの時のシャーロット様と抱き合う光景が、ずっと頭から離れない。


(……聞いてみる? 怖いけど、聞くなら今しかないよね……?)


 深く息を吸ってから口を開いた。


「あの……、私で良かったんですか? 他に誘いたい方とかいなかったんですか? シャ……、シャーロット様とか……」


「……シャーロット? 誰だ?」


 私の言葉を聞いて怪訝そうな顔をしたライオネル様から聞き返されて、こちらの方が驚いてしまう。


「え、シャーロット・ケーシー様ですよ! この間、一緒に買い出し行きましたよね?」


「あぁ、ケーシー侯爵令嬢のことか。ん? 何で俺が彼女を誘わなくてはならないんだ?」


「だって! あの時、あんな親しげに抱き合っ……」


 そう言いかけて口を押さえた。まずい、見ていたのバレてしまう。


「あぁ、あれか。あれは事故のようなもので意味があるわけではないし、彼女に対して特別な感情はない」


「そうなんですか!?」


(それって、私の勘違いだったの? そうだったんだ……)

 ほっとして息を吐く。

 

「気になるのか?」


 ライオネル様の視線が真っ直ぐにこちらに注がれた。


「気になるといえば、そうなんですが……、あ、いえ、何と言いますか……」


「どうして、気になるんだ?」


 まるで獲物を捕らえて放さないかのような、鋭い視線で追及される。


「どうしてって……、その……」


 言葉に詰まる。それは好きだからです! とは言えるわけもない。

 無い頭をフルに回転させるが良い言葉は見つからなかったので、話を逸らすことにした。



「えっと、それよりも、王宮ってはじ――きゃっ!?」


 ガタンッ!!

 その時、急に馬車が音を立てて大きく揺れ、私の身体が前に大きく投げ出された。


「大丈夫かっ!?」

 ライオネル様に体を支えられ、どうにか体勢を持ち堪える。


「はい……、ありがとうござい――っ!?」


 なぜか私は、間近からライオネル様の顔を見下ろしていた。自分が彼の膝の上に乗っていることに気付き、頭が真っ白になる。


「す、す、すみませんっ、すぐにどきます!」


 慌てて体を退かそうとするが、掴まれていた腕に力が込められる。


「――アイリス」

 耳元で囁かれて心臓が飛び跳ねた。


「――っ」

 僅かに熱を帯びた真剣な眼差しで見つめられて、息を呑んだ。瞳を逸らすことはできない。


「アイリス。俺は――」


 その時、コンコンと扉をノックされる。


「ライオネル様、王宮に到着いたしました」

 馬車の外から御者に声を掛けられた。


「……あぁ、分かった。じゃあ、行こう」


 ライオネル様の手から解放されたので体を戻す。

 まだ心臓が早鐘を打っている。


(今のは何!? 何て言おうとしたの!?)


 ライオネル様の方に視線を送るが、何事も無かったような涼しげな顔をして馬車から降りていく。


 ……これから本番なのに、落ち着かないといけない。

 私は深呼吸をしてから、馬車の下でこちらに手を差し出している彼の手を取った。



 

(わ………、これが王宮……?)


 そびえ立つ絢爛豪華な王宮に私は圧倒されつつ、その煌びやかな世界に足を踏み入れた。

 高い天井にはキラキラと輝くシャンデリアが幾つも並び、漆喰の壁には金の装飾が施されている。


 目に映るもの全てが眩しくて、めまいがしそう。

 音楽の演奏が流れるホールで、豪華な衣装を身に纏った多くの参加者達は歓談を楽しんでいた。


 

「あの殿方はもしかして、騎士副団長のフォーレン様ではなくって?」

「あら、本当ですわ。いつ拝見しても麗しいですわ」

「隣の方はどちらのご令嬢かしら?」

「さぁ、私は存じ上げませんが」


 ヒソヒソと外野から好奇な目で噂されているのが耳に入る。


(ひっ、場違いですみません!)


 心で謝りながらも、顔は軽く笑みをたたえたままだ。心の中を悟られないよう、とにかく笑顔は崩さないようにと、マナーレッスンの時に教わった。

 ……頬がピクピクとしているが。


「ふっ、顔が引き攣ってるぞ」


 ライオネル様が私の顔を覗き込んで笑みをこぼすと、周りのご令嬢達からどよめきが起こる。


「きゃーっ、今のご覧になりました? 何て甘い顔でお笑いになるのかしらっ!」

「拝見致しましたわ! 氷のようなライオネル様に、あのような顔を向けられるあのご令嬢は、いったい何者ですの!?」


(うっ、何者って、元落ちこぼれの新米聖女です、すみませんっ)

 再び心の中で平身低頭する。


「会場で大聖女様と合流するのだったな?」

「はい、そうなんですが、人が多くて見つかりませんね」


 辺りをキョロキョロと見回すが、大聖女様と思しき姿はなかなか見つからない。

 本日は神殿代表としての参加なので、大聖女様と共に国王陛下と王妃殿下に謁見することになっている。大聖女様は夫である公爵様と参加されるので、王宮で合流することになっていた。



 人混みを縫って歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あ! ライオネルに、アイリスちゃーん!」


(この声はアンディさんだわ)

 そう思いつつ、近づいてきた男性を見た瞬間に私は驚きの声を上げた。


「え……? アンディさん!?」


 アンディさんはいつもの無造作な前髪を後ろに流し、紺色の正装でビシッと決めている。まるで別人のようだった。


「わ、貴族に見えます!」

「アイリスちゃ~ん、俺、これでも貴族なんだよ? まぁ、貴族っぽくないけどね~。ど? かっこい~?」

 無邪気に笑う仕草はいつもと同じだった。


「はい、かっこいいです!」

「ありがと。アイリスちゃんもすごく綺麗だね~。見違えたよー」

「ありがとうございます」


 アンディさんは私の右手を取ると、手の甲に口づけをするような仕草をする。


「後程、私にあなたと踊る栄誉を与えてくださいませんか?」

「え? えっと……?」

「あはっ、なんてね~」


 私が固まっているとアンディさんは悪戯っぽく微笑み、ライオネル様の方を向いた。


「ライオネル、あははっ、なんつー顔してんのさ、怖い怖いっ。じゃあまたね~」

 そう言うと軽く手を振り去っていった。


「はぁ、嵐のような奴だな」

 ライオネル様が溜息混じりに呟く。


(……同感です……)

 

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