22 アイリスの魔法(1)
先日の魔力検査の結果が出たというので、私はライオネル様と再びアンディさんの研究室を訪れていた。
「アイリスちゃん、この間はごめんね~。これはお詫びだよ。お菓子作ったから食べてね~」
アンディさんはテーブルの上に、ビスケットが乗ったお皿を置いた。普通のビスケットの他に、クリームが挟んであるもの、ドライフルーツの入ったものもある。
「え!? これアンディさんが作ったんですか!? すごいですね!」
「うん、そうだよ~。結構料理は得意なんだ。魔法実験も料理も同じ要領だしね~」
「え? そうなんですか?」
よく分からないが、お菓子はとてもおいしそうだった。
「じゃ、いただいてもいいですか?」
「どうぞ~」
クリームサンドを手に取って食べてみた。サクッとした歯ごたえで、バターの風味とクリームの甘さが合わさってとてもおいしい。
「ん! おいしいです!」
「そう? 良かった~」
これは止まらない。もう一個手に取って頬張る。
「あはは、アイリスちゃん、ここにクリーム付いてるよ~」
アンディさんは自分の口の横に指差してみせた。私はそれを見て手で拭う。
「違う違う、反対だよ~」
「え、こっちですか?」
私は言われた通り反対を拭いた。
「もうちょっと横の方、ここだよー」
アンディさんが見かねて私の方に手を伸ばした時、その手首をライオネル様がガシッと掴んだ。
「は?」
「え?」
何事かと、私とアンディさんは同時に彼の方を向いた。ライオネル様は、どこか不機嫌そうなオーラを漂わせている。
「え、何、おまえ。顔怖いんだけど?」
「あまり軽々しく女性に触れようとするものではない」
「は? あ、あぁ、わかったよ~」
アンディさんが手を引っ込めようとしたので、ライオネル様はその手を放す。
私はハンカチを取り出して口元を拭った。
「そっかそっか、なるほど~」
アンディさんは腕を組んで、一人で納得したように頷いている。
「ライオネルは、俺とアイリスちゃんが仲良くしてたから嫉妬したんだね~」
「!?」
アンディさんの言葉に心臓が跳ねる。
(ライオネル様が嫉妬!? まさか、そんなことっ)
「……嫉妬? 何のことだ?」
ライオネル様は訝しげな顔をしている。やっぱりライオネル様が嫉妬なんてするわけないと、ちょっとがっかりしてしまった。
「無自覚かよ~」
アンディさんは独り言のように呟き苦笑いすると、私に向かってウインクをする。
(う、うぅ。アンディさんは、私の気持ちに気づいているんだわ。恥ずかしい……)
私はハンカチを握りしめながら顔を伏せた。
「それより、検査の結果はどうだったんだ」
「あー、うん。これこれ」
ライオネル様に促されたアンディさんは、紙を取り出しテーブルの上に置いた。
その紙を覗き込んで見ると、そこには縦に線のようなものが一本書かれていた。
アンディさんが線を指差しながら説明を始める。
「えっとね~、どの位置に棒が書かれてるかによって、魔力の属性が分かるわけ。ここの聖属性の場所に棒があるから、聖属性ってことだね」
私達は頷きながら真剣に話を聞く。
「魔法の種類は、これが回復魔法で、隣にも線があるでしょ? 見える?」
アンディさんがトントンと指先を叩いた方を見ると、薄っすらと線が書かれていた。
「あ……、はい」
「これは、神聖魔法だよ」
「……しん、せい魔法……?」
私はあまり聞き馴染みがなくて首を傾げる。
「やはりそうか……」
ライオネル様は納得したらしく、顎に手を当てながら何度も頷いていた。
「神聖魔法はとても稀有な魔法で、この魔法を使える人は、聖女の中でも千人に一人だとか言われているらしいよ~」
「千人に一人!?」
私は驚いて声を上げた。
「そう、前回神聖魔法が使えた聖女は、二百年ほど前だったみたいだね~。これは魔術師団に保管されている文献だけど」
アンディさんは古びた文献を取り出し、慎重にページをめくる。
「当時のことが記録してあるよ。なになに『聖女シルビアは“覚醒”し、神聖魔法で魔物による傷を完治させた。それは“真の聖女”の誕生である』だってさ~。やっぱり魔物の傷に効くようだね」
「そうなんですね。あの、覚醒とは……?」
(それに真の聖女って何だろう?)
それにしても魔物による傷を完治させる魔法があるなんて……。その神聖魔法を、私が使えるということなのだろうか。
「残念ながら、覚醒については詳しく記載されてなかったんだ。憶測だけど、君の神聖魔法が覚醒し始めてるってことかもしれないね~」
「覚醒し始めてる……?」
「それより、俺が気になったのはこっちの方だよ」
アンディさんがもう一枚の紙を、指先でトントンと叩いた。こちらは細い横線が山のような形をしていた。
「こっちはアイリスちゃんの魔力量の推移を表したものなんだけど、魔力が途中で急激に減少してる。まるで意図的に制限させてるみたいにね」
「! まさか」
ライオネル様は何か察したのか深刻そうな表情をした。
「ん、そう。魔力抑制魔法と酷似してる」
「魔力……抑制魔法? ってなんですか?」
私がそう尋ねると、
「それについては私から説明しよう」
声と共に、突然壁から男性が現れる。
「ひゃっ!?」
私は驚いて飛び上がりそうになった。




