20 王立魔術師団研究所(3)
魔術師団の研究所を出た私達は、迎えに来てくれた騎士団所有の馬車に乗り、神殿へと帰路を急ぐ。
私はガタガタと揺られながら、窓に映る景色をぼんやりと眺めている。そして、さっき棺の中で見た夢を思い出していた。
どうして、私だけ生き残ってしまったの?
それは私が神殿に来た頃、幾度となく思っていたことだった。
知らない場所に連れてこられ、周りは誰も知らない人達ばかり。先代の大聖女様は優しく接してくださったけど、私を蔑むように見る人達もいた。勉強をして、雑用をこなす日々。
私は毎晩、淋しくて、切なくて、泣いていた。
そして月日が経つにつれ、その気持ちは次第に薄れていき、立派な聖女になることだけを目標に生きてきた。
「……まだ体調が優れないか?」
私が静かに外を見ていたせいか、向かいに座るライオネル様が気遣って声をかけてくれた。
「あ……、いえ。全然平気です」
どうにか笑顔を返すが、どうも頭の中が夢に引きずられているようで上手くいかない。
「そうか……」
ライオネル様もそれ以上聞いては来なかった。
再び沈黙が流れ、ガタガタと車輪の音だけが響いている。段々と日が傾いてきて、街並みが朱色に染まりはじめた。
「……棺で君は……」
「え?」
独り言のような呟きが聞こえたのでライオネル様の方を見ると、彼も窓の外の景色を見つめていた。その横顔は夕日に照らされている。
「置いていかないでと……」
「!」
私は息を呑む。
(そんなこと言ってたんだ……)
こちらを向いたライオネル様と視線がぶつかる。全てを見透かしてしまいそうなその瞳を受け止められず、私は顔を伏せた。
「……そ、それは……」
声が震える。どうにか誤魔化さないとと考えていたが、まだ夢の余韻が残っている私にはこれ以上平静を保つのは難しく、涙が溢れ出してくる。
私は慌てて涙を指で擦った。
「無理に擦ってはいけない。これを」
ライオネル様が白いハンカチを差し出してくれる。
「すみませっ、ありがとう……ございます……」
「そこまで踏み込むつもりはなかったのだが……、悪かった」
「いえ、だいじょう……ぶ……です……。すみま……せ……」
差し出してくれたハンカチを受け取り首を振った。目をぎゅっとつぶり息を止め、これ以上泣かないようにじっと耐える。
「……我慢しなくていい」
ライオネル様の口調はとても優しい。
ずっと我慢していた思いが溢れ、涙は一向に止まらない。私がしばらく泣いている間、ライオネル様は何も言わなかった。
家族や村人達、多くの人が命を落とした中、どうして私は生き残ってしまったのか、そう自分に問いかけながら、ずっと心の奥に感じていたのは罪悪感だった。
(本当に私が生き残って良かったの? 私が生きていて意味があるの?)
もし聖女になって人々を救うことができたら、私は生きていてもいいと許されるのではと思った。
少し落ち着いてきた私は、ぽつりぽつりと語り始める。
「……前に、聖女になれば人々を救えて、私のように辛い思いをする人を減らしたいとお話ししたことは、覚えていますか?」
「……あぁ、覚えている」
「立派なこと言いましたけど、実はあれは嘘なんです。自分だけが生き残ってしまった罪悪感を消すために、ただ人助けの真似事をしてただけなんです。……だからずっと見習いのままなのかな。ふふっ、情けないですよね」
私は自虐的に笑う。
「……それは違う。自分を卑下するな。俺は君の言ったことが全て偽りだとは思わない。それは君の行動を見てきて分かっている」
「そんなことは……」
「君がどうして罪悪感を抱いているのかは分からないが、君が生きていて良かったと思っている人達がいることを忘れるな」
「……私が生きていて……?」
ライオネル様を見つめると、金色の瞳が優しく揺れている。
「少なくとも、俺は君に出会えて良かった。それにきっとエリゼもそうだ」
胸がぎゅっと締め付けられて、また泣きそうになった。私が顔を歪めたので、ライオネル様はうろたえている。
「どうした? やはりまだ具合が悪いのか!?」
私は慌てて首を振る。
「いえ、いえ、違うんです。嬉しくて……。ありがとうございます……」
ずっと心の奥にあったしこりのようなものが、スッと解けていくようだ。
『幸せになってほしいのですわ』
エリゼが涙ながらに語ってくれたことを思い出した。
「私も……」
「え?」
「……ライオネル様が……生きていて……、出会えて良かった……です」
ライオネル様が一瞬目を見開いたがすぐに目を伏せ、
「……そう……か……」
消え入りそうな声で呟いて、また窓の外を見つめた。




