13 魔術師のアンディさん
「やぁ、こんにちは。君がアイリスちゃんかな~?」
魔伝言鳩をライオネル様に飛ばした後、神殿の裏門で待っていると、黒地に模様が入ったローブ姿の青年に声を掛けられた。
「え? えっと……、その……」
(なんで名前を知ってるの? ちょっと怖い……)
私は警戒して後ずさる。
「あー、ごめんごめん。そんな警戒しないで。怪しい者じゃないよ~。ライオネルから頼まれたんだ」
「ライオネル様ですか!?」
「そ。護衛の代理?」
そういえば、来られない時は代わりの人をよこすと言っていたことを思い出した。
「あっ、そうなんですね! 失礼な態度をしてすみませんでした。アイリスです。よろしくお願いします」
私は深々とお辞儀をした。
「いいよいいよ。気にしないで~。今、王都内も危ないから、それくらい警戒した方がいいからね~」
そう言って片手をひらひら振りながら、人懐こい笑顔を見せてくれる。顔にかかる癖のある、柔らかそうなブロンズの髪が風に揺れた。
でも護衛をしてくれるっていうけど、この人は騎士様じゃなさそう。ローブを羽織っているし、この服装は魔術師の方だろうか。
「俺はね、アンディ・ミルズ。見ての通り魔術師さ。主に魔道具の開発をしてるよ。ライオネルとは幼馴染なんだ」
ライオネル様の幼馴染……。クールなライオネル様とは正反対の、陽気な雰囲気の人だと思った。
「まぁ護衛するのは初めてだし、正直戦闘向きじゃないんだけど~。でも、こう見えてその辺の奴らより相当強いから、安心して?」
ミルズ様は自慢げに口角を吊り上げた。
「はい! ミルズ様、ありがとうございます!」
「あ、アンディでいいよ~。堅苦しいのは好きじゃないんだ」
そう言ってひらひらと片手を振る。
「じゃあ、アンディさん……でいいですか?」
「まぁ呼び捨てでもいいんだけど、強要するつもりもないし好きに呼んで」
「はい、わかりました」
「ん。じゃ行こっか。市場でいいんだよね?」
「はい。よろしくお願いします」
市場で買い物を済ませると、アンディさんが辺りを見回して言った。
「ところでアイリスちゃんさ。何か食べたい物ある?」
「へ? 食べたい物ですか?」
「色んな屋台あるし、好きな物言っていいよ~」
突然のことに戸惑ってしまう。何か買ってくれるってことだろうか。そんな初対面の人に奢ってもらうなんて悪い。まぁ、ライオネル様には奢ってもらっちゃったけど……。
「いいえ、いいえ、大丈夫ですよっ」
私は両手を振る。
「遠慮しないでいいよー。どうせ、ライオネルのお金だからね~」
「ライオネル様のお金!?」
「そ。きっとアイリスちゃんがお腹空かしてるだろうから、何かおやつ買ってあげてくれってさ」
「は……」
(それってまだ子供扱い!?)
恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
「特に無いんだったらさ、俺が選んでもいい? 市場の屋台久々なんだよね~」
「あ、はい。どうぞ」
「やった。何にしようかな~。人の奢りって嬉しいよね~」
アンディさんもライオネル様の奢りらしい。青い瞳を子供のように輝かせて、鼻歌交じりに屋台を見回している。
「よし、あれにしよ~。あ、荷物邪魔だな」
アンディさんが持ってくれていた買い物の籠を持ち上げたので、私は受け取ろうと手を出す。
「すみません。私が持ちますのでっ」
「あー、いいよいいよ。可愛い女の子に荷物持たせるなんてしないよ~。まぁ見てて」
アンディさんはローブの中から黄色い紙のようなものを取り出すと、それを籠に貼り付けた。
その黄色い紙がパタパタと動き出し、籠が空中に浮かび上がる。まるで鳥が、翼を羽ばたかせているかのような姿だった。
「わ、すごい! 鳥みたい!」
「そうでしょ。運搬鳥っていうんだけど、荷物を運ぶ魔道具なんだ。まだ試作品なんだけどね~」
「へ~、そうなんですね」
自分の胸の高さで羽ばたいている籠に向かって手を出すと、スッと避けられてしまう。
(すごい、生きてるみたいだわ……)
「まだ重い物は無理だし、遠くには行かないんだ。いずれは、指定の場所まで飛ばしたいと思ってるんだよ~」
「へぇ、なるほど……」
「ってことで買ってくるから、ちょっと待ってて~」
アンディさんが屋台に向かうと、籠も後ろを飛んでついて行った。なんとも不思議な光景だ……。
アンディさんが、両手にいっぱい食べ物を抱えて戻ってきた。
「おっまたせ~。あっちのベンチで食べよ~」
噴水前のベンチに座ると、焼き菓子の入った紙袋と、棒付きパン、串刺しの肉を渡される。
「はい。これはアイリスちゃんの分ね~」
「ありがとうございます……」
(すごい量……。こんなに食べられるかなぁ……?)
「うん、やっぱ旨いや! 最近研究所に引きこもってたから、いい気分転換になったな~って、護衛してたんだった。忘れてた~」
「研究所って魔道具を作ってるんですか? もしかして魔伝言鳩とかも?」
「うん、そうだよ~。使ったことある? あれもね、うちの研究所で開発したんだよ。大変だったな~、なかなか目的地に飛んで行かなくて苦労したよ~」
アンディさんは串焼き肉にかぶりつきながら、ころころと表情を変えた。
(ライオネル様と幼馴染って言っていたよね。タイプの違う二人だけど、意外と相性がいいのかな?)
おしゃべりなアンディさんの話を、静かに聞くライオネル様の姿を想像できて微笑ましくなった。
「ふふっ」
「ん? どしたの~?」
「あ、いえ、ライオネル様と幼馴染とおっしゃってたので」
「そうなんだよ。俺の叔父も魔術師なんだけど、ライオネルに魔術を教えてたんだよね~。それでたまに一緒に魔術を勉強するようになって、仲良くなったんだ~」
「え? ライオネル様も魔術を?」
「うん。ライオネルは元々は凄い魔力の持ち主で、魔術師を目指してたんだ。でも訳あって騎士に変更したんだよ」
「そうだったんですか!?」
「子供の頃のライオネルは、騎士なんて出来そうな奴じゃなかったよ。大人しいし、チビでひょろひょろで、本ばっか読んでたし、小動物が好きでさ~」
「えっ!?」
(チビでひょろひょろ!?)
今の姿からは想像できない。とても長身だし、体も騎士様の中では細い方だけど、しっかり鍛えられていた。
この間肩を貸したときも、ガッチリとしていたし……と、ふと、その時のライオネル様の温もりと、耳元で聞いた息づかいを思い出して熱が上がってくる。
「ん? 顔が赤いけど大丈夫? 調子悪い?」
「あ、いえ! な、何でもないです!」
私は誤魔化すように、棒付きパンにかじりつく。
(うん、おいしいわ!)
「じゃ、遅くなっちゃうし、そろそろ帰ろっか。食べきれなかったのは持ち帰っていいからね~」
「はい。ありがとうございます」
アンディさんに会って、ライオネル様の子供の頃の話を聞けて嬉しかった。
今度ライオネル様に会ったら、おやつのお礼しなくちゃと思いつつ神殿へと戻った。




