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第9話 決戦! その1


夜。俺は再び料理を作っていた。村の人々は何度も申し訳がないと私たちが作りますと言ってくれた。しかし俺はそれを固辞し料理を作っている。別に食事をどうしても作りたかったわけでもない。彼らの作る料理に不安があったというわけでもない。


ただ村人たちが料理を作ろうとした時に子供達が「もう作ってくれないの?」とぼそりといい。俺のことを潤んだ瞳で見つめられたからだ。あんな目でみるのは反則だろう。嫌だなんて口が裂けても言えないではないか。俺は頭痛に苛ませながら料理を作った。まあそんな頭痛も子供達の喜ぶ顔を見たら吹っ飛んだが。


食事の最中も昼間は何人かは村の周囲を警戒して食事をとる手がおぼつかなかったが今は見るからに安心できる壁があるため心置き無く食事を楽しんでいる。まあこれで防御は一安心だろう。この辺りのモンスターならばまず突破することは不可能だ。


次に必要なのは攻撃力だろう。村には戦力になりそうな人間が少ない。弓をもたせて戦ったとしても戦えるのはせいぜい20人にも満たない。剣を手に取り戦えるものは10人にも満たないだろう。


そうなったら設置型の兵器が必要だろう。木材は豊富にあるので作るとしたらバリスタだろう。どこぞのモンスターをハンターする道具に比べれば威力は劣るが連射性能とある程度教えるだけで使える使い勝手の良さから考えれば村中に設置する価値がある。


ただし今はもう木材が足りずバリスタを設置するための物見櫓を建てることができない。それにバリスタを使うには周囲が森に覆われ見通しが悪い。明日はその辺を含めみんなで周囲の木を伐採しよう。他にも足止め用に罠を設置しても良いかもしれない。ただそれだけのことをやるとなるとかなり大変だ。村人たちのことを考えると厳しいかもしれない。


「村長。食事中ですが少しよろしいですか?」


「なんでしょう。私に答えられることがあるのならば何なりと申してください。」


「実は明日もモンスターを撃退するために色々と作りたいのですが村の方々の疲労から考えて可能ですか?」


「そんなことでしたか。ほっほっほ。もちろん大丈夫ですとも。この食事のおかげで皆疲れが吹っ飛びました。明日は今日よりもさらに活躍できましょう。なあみんな!」


「もちろんですとも!それに村のためのことならなんでもいたしますとも!」

「そうです!村のためならちょっとやそっとの疲れなんて関係ありません!」

「それにこのうまい飯のおかげで力がみなぎってきますから!」


皆それぞれの思いの丈を俺にぶつけてくれる。どうやら本当に疲れなんてないようだ。むしろ昼間よりもそのやせ細っていた体には筋肉がついている。

もしかして飯につけた付与効果強すぎたのかな。まあ元気ならそれでいいけど。


「わかりました。では明日は今日よりも忙しくなるのでよろしくお願いします。モンスターが攻め込む前に準備を済ませたいですからね。


俺の言葉に村人全員から強い歓声が上がる。この調子なら明日にでも村の戦闘体制は全て整いそうだ。オーガが相手でも俺の手助けなしでなんとかしてくれるかもしれない。


そう安心しきった俺の耳に不穏な物音が聞こえる。つい険しい顔になってしまった俺に村人全員がどうしたのかと不安そうにしている。しかし俺はそんな表情を見せる村人たちに注意を払えない。


10、いや100近くか?いやこれはもっと多いぞ。確かに騒ぎすぎたのは間違いないかもしれないがこの足音の感じ…妙に連携が取れている。しかも一つだけ他の足音に比べはるかにでかい音がする。タイミングとして早すぎる。


「みなさん。落ち着いて聞いてください。どうやらこちらにモンスターの大群が押し寄せてきています。例のモンスターが統率しているようです」


「な!なんですと!」

「そんなバカな!まだ壁しかできていないのに…」

「ほ、本当なのですか!?」


村人全員がざわついている。それもそうだろう。いきなりこんなことを言われて落ち着いていられるわけがない。俺はなんとか村人たちを落ち着かせる。


「幸いなことに村を取り囲む壁もできています。この壁はゴブリンには突破できないでしょう。問題となるのはその強大なモンスターだけです。敵は一方向のみから近づいてきています。急いで戦闘の準備を始めましょう。着いてきてください。」


俺は未だに混乱している村人たちを連れてモンスターの来ている方へ向かう。本当は村人たちと共に作り上げたかったが仕方ない。俺一人で作り上げてしまおう。


モンスターが来ている方向の壁にたどり着いた俺は武器を変更する。装備したのは斧だ。なんの変哲もない斧で村人に渡したものと同じだ。俺は村人たちにそこで待機するように言ってから錬金術で階段を作り壁の外側へ行く。そして外に生えている木をすべて切り倒し回収する。


なぜこんな面倒なことをするか。それは今回のモンスターの討伐をこの村人たちだけでやってもらいたいからだ。強力なマジックアイテムで一瞬にして木々を切り倒すのなんて造作もないことだ。しかしそれをやれば村人たちは俺が全てのモンスターを倒してくれると思ってしまうかもしれない。


そう思っても構わない。しかしそれで全てを俺に押し付けるのは違う。押し付けないかもしれないがもし押し付けられたら彼らのためにならない。これは彼らの戦いなのだ。あくまで俺はそれを手助けするだけだ。それ以上は介入するべきではない。これは彼らのモンスターに対する復讐なのだ。


復讐は愚かな行為だと多くの人は言うだろう。復讐は何も生まないと。しかし俺はそうは思わない。いや、時と場合によっては思うかもしれないが彼らの場合はこの復讐は必要だろう。この復讐によって今まで殺されて来た仲間の仇を討って初めて彼らはこの先も生きていけるのだと俺は思う。


だから俺がするのはあともう一つだけだ。彼らに戦うための力を貸す。そこまでやったら残りは彼らだけの問題だ。


しかし斧で木を切り倒してみたけどやっぱりこの体すごいな。もう辺り一面開けた状態になったぞ。まあこれで材料は足りるだろう。とっとと戻ろう。再び足場を作って壁の中へと戻る。


「お待たせしました。少し準備するので離れておいてください。」


俺は瞬時に装備を変更し櫓と足場、武器の作成を始める。櫓は4つ、それぞれに2つづつのバリスタを設置。さらに壁に添うように高い位置に足場を設置する。武器は弓矢が良いかとも考えたが鏃がない。手持ちから出しても良いが今回の戦闘に必要なだけの分がもう無い。


斧を作った分で手持ちの鉄がなくなってしまった。そもそも鉄なんてそんなに持って来ていない。ミスリルばっかり持ち歩いたのは失敗だな。


そうなったら投げ槍を作ろう。重心を先端にして安定感を出す。数も必要だし重いと村人たちに扱いにくくなるので小さくても威力が出るように付与魔法をかけておく。数が多いため櫓のバリスタの弾も投げ槍も補充が必要になるだろう。


しかしそこも考えてある。村人の多くは直接戦闘に関わることは難しいだろう。だからそれを補助という役目で戦闘に関わらせる。この戦いは村人全員で勝利するということが大切なのだ。


「さあ皆さん配置についてください。櫓にはそれぞれ6人づつ登ってください。そこに設置されているバリスタの扱い方はそれぞれの場所で私が説明します。砲手は弓使いの職業についている人が行なってください。」


バリスタは巨大弩であるから弓使い職だと補正値が出るはずだ。そう思い声をかけたのだが何やら様子がおかしい。どうしたのかと聞いてみると自分の職業をしらないとのことだ。どういうことか聞きたいところだが今は時間が惜しい。手当たり次第に鑑定していき弓使い職を探すがレベル10以下の村人が多い。


この世界でもレベルが10にならないと職業は与えられないようだ。普段の生活だけでレベルが上がりそうなものだが小さな村では人によってはそこまで多くの経験値が入らないのだろう。それでもなんとか探し出し2人の女性に弓使いの職業を持つ人を見つけた。彼女たちは砲手決定だが残りは仕方ないので誰でも良いことにした。


そこで一つ思いついて砲手は疲れるから交代制にしようと言っておいた。向き不向きがあるということもあるがこの戦闘は村人たちのレベル上げにもってこいだ。この戦闘が終わったら薬草の栽培をして貰わなくてはならない。農業職についている人が一人でも多く欲しいのでここは村人全員をレベル10以上にしておきたい。


男たちには全員投げ槍部隊についてもらうことにした。力が必要な作業なので適材適所というやつである。俺は先に予備の武器を置いておき足りなくなったら運ぶように伝えておいた。問題はなさそうなので俺はバリスタの取り扱い方をそれぞれの櫓に登って説明しに行く。


「一度しか言いませんので皆さんしっかり聞いておいてください。そんなに難しいことではありません。この横のハンドルを回すと弦が引かれます。奥まで回すとカチと音がなるので音がなったら矢を設置してください。向きはこの向きです。そして打つ人はここに円がありますね?この円の中に敵が見えるようにしてください。そうすれば当たります。初めはゴブリン狙いで良いですが

巨大なモンスターが現れたらそいつを狙ってください。わかりましたか?」


「はい!」


これで良いだろう。残りの3つの櫓にも同じ説明をしてこよう。下で説明しても良かったが現物を見ながらの方がわかりやすいだろう。このバリスタは倍力機構を用いているので女性でも簡単に弦が引ける。ただそのせいで連射力は少し低くなっているがまあ仕方ないだろう。


最後のバリスタの説明をしている時に森の茂みの中から一匹のゴブリンが現れた。次第にその数は増えていき森の中はゴブリンだらけになってしまった。全てレッサーゴブリンなので大したことはないのだがバリスタについている女性たちはその光景に取り乱しむやみに矢を射っている。


恐怖のあまり櫓から一人の村の女が飛び降りた。落ちたがまあ死んではいないようだ。しかしこの戦闘には復帰できないだろう。手足の骨折くらいなので怪我を回復させても良いがあれはもう心が折れている。どんなに怪我を治してもトラウマという心の傷はそうそう治るものではない。


「うろたえるな!現実から目をそらすな!今まさに奴らは我らを殺しにかかってきている!逃げ場なんてものはもうない!奴らが勝つか我らが勝つかのどちらかだ!」


俺の言葉に全員の動きが止まる。声に力を入れすぎたかな。しかしこのくらいでちょうどいいのではないだろうか。何が正解かなんてわからないのでとりあえずなんとなくでこなしてみよう。


「今我らの眼前にいるのは皆の家族の、親族の、隣人の、友人の、生まれ育った故郷の仇だ!今我らにはその仇を討つだけの力がある!仇を討て!友の無念を晴らせ!無力だった、仲間が死んでいくのをただ見て逃げることしかできなかった、そんな自分自身の仇を討て!」


「「「「「おお!!」」」」」


たったこれだけの村人たち。しかも出会った頃は今にも死にそうな表情をしていたのと同じ人間から出た声とは思えない声が聞こえる。それは森中に轟くような力強い声だ。もう逃げるような奴はいないだろう。


「勝つぞ!勝って止まった時間を再び動かせ!モンスターから逃げて隠れて声を殺して生き延びてきたそんな時間に終りを告げるぞ!勝って新しい明日を迎えるぞ!勝って!勝って勝って!そして…そしてみんなでまた楽しくうまい飯を食うぞ!」


「「「「「おおおおお!!!!」」」」」


全員の顔つきが変わった。無駄な力が抜けて良い顔をしている。もうこれで完全に大丈夫だろう。最後に俺からしてやれることをしてやろう。支援魔法『ライオンズハート』。周囲にいるプレイヤー全ての身体強化と恐怖耐性を付与することのできる魔法。俺の首飾りのできる支援魔法の一つだ。この魔法ならこのレベル差があってもちゃんと作用する。


さあ、今度こそ本当に始めよう。俺がいる限り敗北はあり得ないがそれでも村人たちだけでこの戦いに勝てるように。村人たちとモンスターとの命をかけた戦いを。


「全員!攻撃開始!!」




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