第5話 とある村人達の危機
今回は別視点です。やっと話が進むという感じです。
「じゃあ行ってくる。留守の間、村を頼んだぞ。」
「わかりました。お任せください。」
今から狩に行く俺たちの代わりに村を守る若い男が意気揚々に返事をした。これまでのモンスターの襲撃で今では若い男は彼を含め6人しかいない。彼を狩に連れて行っても良かったがまだ腕前に心配がある上これ以上村の若い衆を死なせるわけにはいかない。
「お父さん頑張ってね!」
「おお!任せておけ。今日こそはおっきな鹿を取ってきてやるぞ。」
俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む俺の娘。しかし嬉しそうに微笑むその顔は栄養が足りておらず肌はかさつき頰はこけている。自分の娘にこんな思いをいつまでも味あわせたくはない。今日こそはなんらかの収穫が欲しいところだ。それにリンガ村から来たあの家族のことを考えると今日何か取れないとおそらくもう無理だろう…
あの家族の母親は病気で体力が落ちている。せめて飯くらいはなんとかしてやらないとまずいだろう。先週も何人か死んでいるからな。食料だけは俺たちの手でなんとかしてやりたい。
「よし行こう。みんな準備は大丈夫か?」
「「「おう!」」」
狩に行くのは俺を含めた7人。少しづつ減ってとうとうこの人数まで来てしまったか。この周囲の20の村々全ての人間が集まっているというのにこの村には50人にも満たないほどの村民しかいない。
ことの始まりは半年前。モンスターの大量発生が起きた。本来ならば近くの国から救援の兵士が送られてくるのだがそれが今回に限ってこなかった。見放されたということはないのでおそらく本国にもなんらかの問題が起きたのだろう。
まあそれ自体はなんとかなった。モンスターの大量発生というのはより多くの餌を求めるため俺たちのような小さな村の人間にはあまり見向きもせず大きな人の多い国へと移動する。被害は出たがすぐに収まるのでそこまでの問題は起きなかった。
問題があるのはその後だ。モンスターの大量発生が落ち着いた後にこの村の近くに強力なモンスターが居着いたのだ。それも本来なら本国からの兵士か冒険者達によって討伐されるはずだった。しかしいつまでたっても本国からの兵士が送られてこない。何人かの村人が本国へ救援要請に向かったのだがその彼らも戻ってこない。
それからは俺たちはモンスターの恐怖に怯え村人達を一番土地の広いハンガ村に移り住みこうして暮らしている。当初は数百人もいた人口が今では100人にも満たない。正直誰が生きていて誰が死んでいるかもよくわからないくらいだ。死んでもまともに墓を掘ってやることもできない。火葬しようにもその匂いでモンスターがよってくる可能性もある。
俺たちは村の防衛を任せて狩に出る。これ以上誰も死なせないために今日こそ狩を成功させるのだ。手頃な動物はみんなあいつに食われてしまった。それでも生き延びた動物を俺たちは血まなこになって探す。
森を移動しているときはモンスターに見つからないように必死にあたりを警戒する。俺たちの装備は鉄剣が2本、残りは弓矢が3本、残りは棍棒だ。それなりに聞こえるかもしれないが鉄剣はすでにボロボロ。折れていないのが不思議なくらいだ。弓矢だって鏃なんてものはもうない。木の枝の先を尖らせただけだ。まっすぐに飛ぶかも怪しい。
村を出てから1時間は経っただろうか。いつも通り山菜とキノコは採れた。薬草も少しばかりは採取できた。あとは目的の動物が何か見つかれば良いのだがやはりなかなか見つからない。もうしばらく経ったら一度村に戻らなくてはならないというのにやはり今日もダメなのか。
「ガルの旦那。あそこ…」
マリオンに小声で言われた方を見る。そこには一頭の鹿がいた。群れからはぐれたのかはわからないが格好の獲物だ。俺たちは周囲を囲むようにしてゆっくりと獲物に近づく。配置についた時点でまずは矢を射る。しかし獲物に当たることもなく手前で弱々しく落ちる。
しかしこれも予定通りだ。矢に驚いた鹿は矢が射られた反対側のこちら側に向かってくる。さらに左右に移動されないように残りの棍棒を持っている奴が追い立てる。そして鹿は一直線に茂みに隠れている俺たちの方へくる。そして手に届く範囲まで来たところで俺とマリオンの二人で斬りかかる。
ボロボロの鉄剣だが致命傷を負わせることができた。しかしまだ死んではいない。俺たちは一斉に飛びかかり獲物を押さえつけトドメを刺す。見事トドメを刺すことには成功したがトドメを刺した際に痙攣した鹿のせいで鉄剣の一つが中程から折れてしまった。これでまともに使える鉄剣は残り一本だ。
しかし見事な大物を獲ることができた。これで村のみんなも生きながらえることができる。娘の喜ぶ顔も見られるってものだ。つい声をあげそうになるがそんなことをしたら周囲のモンスターに気がつかれる。俺たちは獲物から血が滴り落ちないように着ていた衣服で傷口を覆う。血が垂れると血の匂いでモンスターが村まで追ってくる可能性があるからだ。
俺たちは急いで村へと戻る。どんなに獲物を狩れたとしても一番危険なのは獲物を運ぶときなのだ。獲物のせいで茂みの中に隠れることはできないし走ることもできない。その上体力を使うため帰るまでに時間がかかる。
しかし無事に帰ることさえできれば村のみんなが大喜びだ。他の奴らもいつにも増して周囲を警戒している。なんとしてでもこの獲物だけは村まで運ばなければ。
1時間ほどが経過したであろうか。村までは後半分といったところであろうか。しかし俺たちは進めずにいた。目の前にゴブリンの群れが現れたからだ。迂回しようにももう動くことはできない。全員が必死に茂みに隠れ息を殺しやり過ごそうとしている。
ゴブリンの群れは20近く入るだろうか。見つかったら間違いなく死あるのみだ。必死に耐えていると近くから物音が聞こえた。バカな誰かが動いたのかと思い音のした方を見た。そこにはゴブリンがいた。なぜこんなところにと思い浮かぶだけの悪態を心の中で唱えた。しかしどんなに悪態をつこうと現実は変わらない。
気がつかれないことを祈ったが次の瞬間ゴブリンと目があった。俺はとっさに持っていた鉄剣で奴の胸を突き刺した。これでなんとかなると思ったがそれは大きな間違いだった。すぐ近くにもう一匹いたのだ。
俺はすぐにそこで判断した。俺はもうダメだと。だから俺は群れに突撃し自分に注意を向けさせ仲間を逃がそうと思った。だがそれは叶わなかった。隠れていた味方が全員飛び出して着たのだ。このままでは全滅してしまう。
「馬鹿野郎!なんで隠れてなかった!俺が囮になればお前達だけでも……」
「そういうわけには行くかよガル。お前を見捨てたらお前のとこの母娘に顔向けできやしねぇ」
「これ以上村のやつを死なせるわけにはいかねぇんだよ。」
「そういうわけさガルの旦那。俺たちはもうこれ以上誰も死なせたくないんだ。」
全員が俺を見て頷く。全く馬鹿な野郎どもだ。仕方ない。いっちょやるか。こんな馬鹿どもは俺がいないとどうしようもないからな。
「逃げに徹するぞ!獲物はもったいないが命には変えられない。獲物を切って血の匂いを振りまけ!奴らがそれに注意を取られている間に逃げ延びるんだ。村に奴らを連れて行くわけにはいかないからな。」
すぐに鹿を切りつけ内臓をぶちまける。それに気を取られている間に村とは逆の方向へ走り出す。思った通り奴らは匂いにつられている。何体かはこちらに向かってくるがこれならうまく撒けそうだ。
そう思ったのもつかの間。俺は絶望することになった。俺たちの背後に気がつかないうちに回り込まれていたのだ。完全に囲まれている。いや、これは回り込まれているというより別集団と考えた方が自然だろう。いや、そんなことを思っても意味はない。絶望的な状況に変わりはないのだから。
「ど、どうする!」
「完全に囲まれているぞ。このままじゃあ…」
「右だ!右に向かって走れ!俺が先頭を行く!強行突破するぞ!」
俺を先頭にして他の全員がついてくる。この方向は奴らの侵攻方向とは逆の方向だ。この方向なら他のモンスターもいないだろう。そう考えて必死に走る。
目の前には数体のゴブリンしかいない。こいつらさえなんとかすればここを抜け出せるはずだ。そう思い目の前のゴブリンに斬りかかる。重傷を負わせることはできたはずだがまだ死んでもおらずこちらに攻撃を加えてくる。
それに対処し無理やり道をこじ開け逃げようとしたら最後尾にいたハラスの悲鳴が聞こえた。思わず振り向くと周囲のゴブリンよりひとまわり体の大きいゴブリンがハラスに襲いかかっていた。間違いなく助けるべきではない。助けに行けば確実に共倒れだ。しかし奴は…奴らは俺のために立ち上がってくれた。俺を死なせないと立ち上がってくれたのだ。そんなやつを見捨てるわけにはいかない。
俺はハラスの元へ走り寄り襲いかかっていたひときわ大きいゴブリンに切りかかった。だがそのゴブリンに傷をつけることもなく俺の持っていた鉄剣は砕け散る。それでも諦めず体当たりを食らわせる。ほとんど効果がないように思えたがそれでも注意を俺にひくことができた。
「今のうちだ!お前達逃げる……ぞ…」
なんていうことだ。俺が仲間達の方を振り返ると俺たちの逃げていた方にゴブリンが固まっている。しかもこのでかいゴブリンまでいやがる。しかもその数は2体。完全に逃げ場を失った。
そこから先はよく覚えていない。ただわかるのは一方的な虐殺だった。なんとか逃げ場を作ろうとした仲間達にゴブリン達が襲いかかり棍棒で手足を砕き食いちぎる。殴られ引っ掻かれた顔はぐちゃぐちゃだ。
だが最悪なのはそこじゃない。一方的な攻撃が始まってから時間が経つというのに未だに誰も死んでいないのだ。いや死なせてもらえないのだ。奴らは完全に俺たちで遊んでいやがる。ゴブリンは残忍なモンスターだとは聞いてはいたがまさかここまでとは思いもしなかった。
俺は…俺だけは未だ五体満足に動いている。それはなぜか。ただ一方的にゴブリン達に殴られているからだ。今でも剣の柄を離さず振り回す俺で楽しんでいるんだろう。耳障りな笑い声が鳴り止まない。
誰か…誰かこの地獄から助けてくれ…救ってくれ……
「おや…なんだかレッサーゴブリンの楽しげな声が聞こえてきたと思ったら人がいるじゃんか。しかもかなりのピンチだな。生きているかも怪しいレベルだぞ。」
突如現れた一人の男。ゴブリン達も全く気がついていなかったようで驚いている。男の姿は杖を持ったマント姿でなんとも頼りない格好だ。急いで逃げるように言おうとしたがもう声が出ない。これ以上犠牲を増やしたくないというのに…
ゴブリン達も唖然としていたがすぐに我に帰り男へと襲い掛かる。また無駄な犠牲者を出してしまった。俺はなんて無力なんだ。それにしてもこの男は誰なんだ。村の人間ではないし旅の人間のようだがなぜこんな危険な森に。
「ギャーギャーやかましい。大人しくしていなさい。」
男はなんともめんどくさそうに言うと手に持っていた杖を地面に打ち付ける。次の瞬間俺は自分の目を疑った。周囲にいたゴブリン達にのみ地面から生えてきた木の蔦が絡まって行くのだ。その木の蔦はゴブリン達の身動きを完全に奪った。
「大丈夫ですか?と言うか俺の言葉伝わっています?ハロー?」
男は俺に言葉が通じているのか確かめているようだが俺は声を出せない。とりあえずうなだれるように頭を下げる。
「通じていんのかな?まあこのままじゃあ受け答えは無理か。回復用の装備は…この指輪だったかな?」
男の指輪が輝く。それはなんとも美しく優しかった。暖かい。なんと心地よい光なのだろう。目を閉じてその光を浴びていると体が楽になってきた。目を開くと傷ひとつない体があった。
「ど、どう言うことだ…これは一体……」
「う、うぅ…あ、あれ?生きてる?」
「なくなったはずの手足がある?」
「夢?いや…でも周りにゴブリン達が…」
あれほど重傷だった仲間達が皆元通りだ。誰も死んでいない。俺はその光景に思わず涙が出てくる。俺はこの奇跡を起こしてくれた男に礼を言おうと男の方へ振り向く。
「あ、ありが…ありがとう。」
「あー…いえいえ。それよりもこの周りのゴブリンの処理お願いしますね?」
男は困ったような笑みをこちらに向けながらそう言った。
次回は主人公視点に戻ります。




