第15話 ポーション作り
薬草の収穫が終わったのは収穫を始めてから4日後の昼だった。収穫も終わり今夜は祭りだ!と騒ぐ村人たちを落ち着かせ薬剤師職の村人たちを集める。薬草を収穫して貰ったのだからポーションの作成もしてもらわないといけないからだ。薬剤師職は村には5人しかいない。なかなか忙しい作業なのでもっと人数が欲しかったが仕方あるまい。
俺は俺が作っておいたポーション作成室へと連れて行く。薬を作るのは専用のスキルを使いこなして魔法で作業を行えるようになるまでそれぞれに合った専用の作成器具が必要となる。なので薬剤師のための調合室は地下1階から地下2階まで丸々使っている。
「さて、それではポーションの作り方を説明しますからしっかりと聞いておいてください。いいですか?」
「「「「「はい!よろしくお願いします。」」」」」
薬剤師の中にはあの櫓から飛び降りたカレーラもいる。あの毒薬をゴブリンオーガに振りかけたことで経験値が多量に入り無事レベル10を超えて職業を獲得したのだ。あの一件以来人が変わったようにどんなことにもカレーラは真面目に取り組むようになったと村中で評判になっている。今日も目に見えるほどやる気たっぷりだ。
「ではやり方を説明します。まずはこの天秤で薬草を測ってください。この作業を5回繰り返します。そして測ったものは一度細かくすり潰してください。それからこのでかい瓶の中に水を入れます。量はこの線の位置までです。そうしたら細かくすり潰した薬草をこの瓶に入れてこの器具に繋ぎます。そしたら煮込みます。ここまでいいですね?ではもう一台あるのでそちらでやってみましょう。」
「「「「「はい!」」」」」
さてどの程度できるかと見ていたがなんだか全然ダメだ。まあ初めてなのでしょうがないようにも思えるがそれでも見ていてもどかしくなってくる。
「せ、先生!天秤が全く水平になりません!」
「薬草が0.1g多いですね。これは正確に測れるように設定されている天秤なので少しの誤差でもわかりやすくなっています。汗が垂れそうですよ。薬草に汗が一滴でも垂れたら品質に問題が起こるので注意してください。」
汗を拭かせてから薬草を測り直させる。手袋をしているが緊張のためか湿ってきそうだったので、すぐに手袋を交換させてもう一度やらせる。やっとの思いで薬草を測り終えたと思ったらまた次の問題が起きた。
「せ、先生!このくらいすり潰せば…」
「ダメですね。このあたりの粉末が少し大きいです。根の部分は硬いのでしっかりとやってください。」
一瞬にして青ざめる女性。これで8度目のやり直しだ。しかしダメなものはダメだ。やけになって力を込め始めたので粉末が飛ばないようにだけ注意しておく。飛んだら天秤からやり直しだよといっておいたら震えながら作業を行なっていた。緊張感を持つのは実にいいことだ。
同時進行で行なっていた水入れは順調にいっているようだ。まあこれに関しては線まで水を入れれば良いだけなので簡単だし間違えることもないだろう。
「先生!水を入れ終えました!」
早速終わったようで俺に報告してきた。確かに線の位置ぴったりだし問題がないように思える。しかし俺は水の表面の一部を指差す。
「ここ。」
「え…?」
「ここに木片が入っています。入れ直しです。」
「木片って…こ、こんなに小さなゴミですよ?」
「入れ直しです。」
「は、はい……」
まあこれで全部入れ直しというのはさすがにかわいそうなのでゴミ掬いの道具周囲にあるもので作成しを渡す。それを受け取ると泣きながら喜んでいた。まあ仕事が楽になるからありがたいよな。無駄は省くべきだし。けど本当は他にもゴミがあったから全部入れ替えて欲しかった。別にあの顔が怖かったからじゃないんだぞ。
そんなことをしていると先に俺が作っておいたものが沸騰していた。
「一旦作業を止めて見てください。沸騰してきましたね。徐々に粉末から色が抜けてきました。しばらくすると蒸発されたものが隣の瓶に移ります。さらに待つと煮ているこちらの水分が蒸発して無色になります。そしたらこの中心のレバーを下ろします。すると瞬時に冷やされて蒸留が終わります。蒸留されたものは色がついています。この蒸留を計5回繰り返したら完成です。では頑張りましょう。」
「ご、5回…」
「だ、大丈夫よ。蒸留は細かいことはないわ。」
「そうよ!最初が大変なだけよ。」
「測ればこっちのものよ!」
「さあ頑張りましょう!」
「ちなみにこれがもう一度蒸留できたら最初の瓶が空くのでまた作れますよ。なので今のうちに準備して起きましょう。」
なんだか全員の顔から生気が失われた。一体どうしたというのだろう。せっかく大量生産ができるように瓶を5つもつなげるなんてことをしておいたのに。本当は2つの瓶でできるけど時間が勿体無いのからわざわざ材料用意したんだぞ。
それからは全員休むことなく…休む暇なく計量をしていく。蒸留を止めるタイミングは俺が逐一教えているのでなんの問題もない。それからしばらくするとついに最後の蒸留が終わる。
「これで完成だ。完成品のポーションは冷やしてから俺が用意しておいた瓶の中に入れる。一度に作れるポーションは20本。時間は1時間か。まあ連続作成で時間は短縮できるから頑張ってくれ。」
完成したポーションを見て先ほどまでの疲れ切った絶望の表情から打って変わってなんとも嬉しそうな顔に変わっている。ちなみにこれは俺が作ったものなので君たちが作っているやつはまだ4回目の蒸留中だぞ。
「せ、先生!それはどのくらいの性能なんですか?」
「ん?性能か。薬草ポーションなんて久しぶりに作ったけどどれくらいの効果なんだろうな。」
薬草のみのポーションなどゲームを始めた頃に熟練度がマックスになったのでそれ以降作っていない。なんせ本来ポーションは様々な薬草を混ぜ合わせる。今回のように薬草一種類などゲームの初期だけだ。ゲームの頃売られている一般的なものは回復量50程度だった気がする。最上級品質で確か100だったかな。
「えーっと回復量は…あ、まじか……」
「え?もしかして失敗ですか?」
不安そうな顔で聞いてくる。しかしうっすらと笑みが見えるぞ。あんなに偉そうにしていたのに失敗したのかよと言わんばかりの表情だ。まあ本人はうまく隠しているつもりなのだろう。
「いや…うまくいき過ぎた。これはさすがに売れないな。」
「え?どういうことですか?」
どういうことかは俺も聞きたい。いや多分俺の合計熟練度の高さとレベルとスキルによる補正値がつきまくったのだろう。最上級品質といってもレベルによって効果は変わってくる。例えば同じ最上級品質でもレベル10のプレイヤーとレベル100のプレイヤーではまるで結果が違う。また同じレベルでも合計熟練度の高さでまた変わってくる。
そして俺の場合は普通のポーションの回復量が500もある。一本でレベル30くらいのプレイヤーなら全回復できる。レベル60のプレイヤーだって数本使えば全回復できるのでかなり便利アイテムだろう。ただこれはさすがに売れない。なんせ性能が高すぎる。5倍に希釈しても最上級品質のままだ。
「あ、じゃあ希釈するか。10倍くらいに薄めても問題なさそうだな。」
「う、薄めるんですか!?そんなことしてもいいんですか!」
「いやダメだけど…ダメだけどこのままじゃ売れないし。」
試しに器の中にポーションを移し井戸水で薄めてみる。10倍に薄めて見たところで再び瓶に入れて鑑定してみる。効果は60回復ということになっていた。いや10倍に薄めたのに効果増えてるし。
おそらく希釈した際に大気中の魔力と井戸水をポーションが中和剤のように混ぜ合わせたか、俺のスキルが勝手に発動して液体中の魔力含有量が増えて回復量が増えたのだろう。しかしこれだけ薄めてもいいとは…つまり俺は今20本のポーションを完成させたのではなく200本分のポーションの元を完成させたということか。
「せ、先生…私たちが作ったポーションも完成しました。」
「あ、う、うん。回復量は…80か。初めてで上級とはやるじゃないか。じゃあみんなが作ったのを高級品として販売し俺が作ったやつを一般品で売るか。」
「な、なんかあんなに水で薄められた後にそんなこと言われても…」
そんなこと言われてもしょうがないじゃないか。俺だって思ってもみなかったんだから。こんなに希釈できるポーションなんて初めて聞いたよ。ある意味新アイテムだよ。けどこれでポーションを大量に短期間で作成できるな。
「あれ?もしかして村の井戸水よりも魔力含有率の高い水で希釈すればもっと増やせるかも…」
その可能性を考えていなかったな。試しにやってみるか。
「もう一度ポーションを作るのでしたらここ使いますか?」
「いや大丈夫。薬草だけもらうよ。」
俺は薬草を大量に掴み取る。これだけあれば100本くらい作れるかもな。
「『アイテム錬成。粉砕、アイテム『水の踊り子の水瓶』より水を生成、混合、薬効を抽出、分離、入れ物としてフラスコを作成、収納』これでいいか。あ、希釈するならフラスコに入れる必要ないじゃん。ってみんなどうした?」
「いえ…もうなんでもいいです……」
それから彼女たちは何かを悟ったようにポーションを無心で作り始めた。おかげで夜の宴が始まるまでに彼女たちは400本のポーションの作成に成功した。ただし宴が始まる前に彼女たちは村の全員から何があったのかと本気で心配されたし俺は割と本気で責められた。なぜだ。理不尽だろこれ。
ちなみに俺がスキルだけで作り上げたポーションはさらに回復量が上がっていた。さらに『水の踊り子の水瓶』によって生成された魔力のたっぷり含まれた水で希釈したところ20倍希釈で回復量が60ということになった。
それを見た時の彼女たちの顔は思い出すだけで身震いする。今後この作業は絶対に隠れて行おう。




