第11話 決戦!その3
音が聞こえる。ゴブリンではない。そんなゴブリンよりもはるかにでかい足音。本命がついに来たか。俺はすぐに見晴らしの良い櫓の一つに登る。俺の登場にバリスタを撃っていた女性が動き止める。ちょうど良いのでそのまま待機してもらう。
しばらく待つとそれは森の中から現れた。ゴブリンをはるかに超える巨躯。大きさにして3mは超えているだろう。額には角が生えている。まさにオーガ特有の特徴だ。しかしいくつも違う部分が出てくる。
まずはその耳だ。本来オーガには小さな耳しかない。しかしこいつの耳は大きく先が尖っている。次にその眼だ。オーガや他のモンスターに比べてもその眼は大きい。そしてその色を見ればこいつがどういうものか鑑定しなくてもわかる。
ゴブリンとオーガの雑種。名付けるならそのまま連ねてゴブリンオーガとでも言おうか。試しに鑑定を行ってみると本当にゴブリンオーガという名前で出て来た。これは今俺が名付けたということなのだろうか。それとも元から…ゲームの時から存在するモンスターなのだろうか。
いやゲームの時は見たことも聞いたこともなかった。レベルを見てみると36とのことだ。ゴブリンと比べるとはるかに、圧倒的に格上だ。しかし村人達だけでも倒せない敵ではない。レベル差はある。しかしダメージを与えられるだろう。あの体表面。見た目は完全にゴブリンのものだ。もしかしたらオーガ特有のあの防御力はないのかもしれない。
「あのでかいのに1発食らわせてやれ。頭ではなくて確実に当たる胴体を狙うんだ。」
「は、はい!」
バリスタの狙いを慎重にあのゴブリンオーガに向けしっかりと狙う。そして1発の矢が撃たれる。矢はまっすぐに飛んでいきゴブリンオーガの腹部に突き刺さる。しかし矢は貫通せず数センチほど刺さった程度だ。
「そ、そんな…まるで効いていない…」
「そんなことないぞ。ちゃんと刺さっているからな。多分…100発も直撃したら倒せるんじゃないか?次は動きを止めるために足を狙ってみようか。」
俺の言葉になんとも言えない表情になる女性達。しかし俺はそんなことは気にもせず観察を続ける。俺の予想ではオーガだった場合木だけの矢なんて効かず跳ね返されると思っていた。その時はもったいないがミスリルを少し使おうかと思っていたがこれなら問題なさそうだ。
どうやらあのゴブリンオーガはゴブリンとしての特性が強く出ているらしい。正直素材としても微妙だ。少し期待していたのだがまあ今までにない素材ということで許してやろう。一通り調べるだけの価値はあるだろう。
その後もバリスタを何本も命中させるのだがダメージとして効いているそぶりを見せない。実際効いていないのだろう。ゴブリンとしての特性が強く出ているということは体力が多めのはずだ。一撃を狙って見ても良いがやはり頭にバリスタの矢が飛んで来た時はしっかりと守っている。
ゴブリンオーガはしばらくするとゴブリンのような気味の悪い笑みを浮かべる。すると近くにいたレッサーゴブリンを掴む。何をするのかと思って見ているとなんとこちらに向かって投げて来たではないか。直撃するとさすがにまずいのでここは世界樹を召喚して守る。
しばらく近くのレッサーゴブリンを投げていたが俺が守っているので効果がないと判断したのだろう。投げるのを辞めこちらに向かって走って来た。その巨体のせいであまり早くはないがこのままでは壁まで到達される。壁の下にはゴブリンの死体が積み重なっているので突破されてしまうだろう。しかもバリスタでこのダメージということは投げ槍ではほぼダメージは入らないだろう。
「まあ行かせないけどな。そこで転けろ。」
俺はすぐにゴブリンオーガの足を世界樹でからめ取る。スピードも上がっていたので簡単に転んだ。転んだ勢のせいで腹部など体の前面に刺さっていたバリスタの矢や地面に突き刺さっていた槍やバリスタの矢の残骸が深く突き刺さる。
さすがにこのダメージは効いたみたいで大声をあげて痛みに耐えている。
「ほら転んだぞ。格好の的だ。頭を狙ってやれ。」
「お、鬼ですね…まあチャンスなのでやりますけど。」
そんなことを言いながらしっかりと頭に狙いをつけ射る女性。それにしても何が鬼なものか。転んだあいつが悪い。鬼というのであれば転んで頭が来る位置に爆発系のトラップを仕込んだり転んだ後に異次元につながる落とし穴に嵌めるくらいを最低でもやらないと鬼なんて呼べないぞ。
他の櫓からも矢が射られる。全て頭を狙って射るようだ。俺のことを鬼といったが全員同じ考えだったようだぞ。
数本の矢は外れたがそれでも何本かは頭に的中する。かなりの大ダメージになったかもしくは死んだのではと思ったがよく見てみると全く突き刺さっていない。あれではかすり傷くらいのものだろう。
もしかしてだけど骨の硬さはオーガ並みということなのだろうか。そんな馬鹿なと思ったが体つきはオーガとほぼ同じなのだ。つまりそれを支えるためにはオーガ並みの骨の強度がないとダメなのだろう。
俺はすぐに狙いを刺さりやすい腹部に変えるようにいう。ゴブリンオーガはなかなか立ち上がることができずその背中に矢が刺さっていく。まるでハリネズミのように思えたがあれらは全て大して効いていないだろう。背中の方が筋肉や背骨もあるので矢が刺さらないのだろう。
周囲のゴブリンはある程度片付けられて来た。しかしあのゴブリンオーガを倒すだけの一撃が足りない。矢が刺さりすぎて次の矢が刺さっている矢に邪魔され始めた。あれだけ刺したというのに体力を削りきれていない。
「も、持って来ました!」
櫓の下から大きな声がする。俺はすぐに声のした方を確認する。そこには戦いの初めに櫓から飛び降りて戦闘不能になったあの女性がいた。俺はすぐに下に降りてその女性の元へ行く。
「ちょうどよかった!頼んでいたものは揃えられた?」
「はい!それと勝手な判断ですが同じようなものを集めておきましたが邪魔ですか?」
俺はその女性が集めて来たものを見る。俺が頼んだもの以外にも色々ある。鑑定して見たがこれは最高の仕事をしてくれた。これならあいつにも勝てる。
「完璧だ。これであいつにも勝てる。」
俺は早速作業を開始する。起死回生のアイテムを作ろうではないか。
「ゴブリンどもは片付け終えた!後はあいつだけだ!」
「だ、だけどガル…」
「あんな針山みたいになっても生きているようなやつどうやって…」
確かに。今もバリスタを射っているが刺さる場所がなくなり他の刺さっている矢に弾かれている。このままでは無駄に攻めて矢を無駄に消費するだけだ。せっかく奴が倒れこんだまま動かないというのに何もできることがない。
もしや奴はこちらが無駄に攻撃して矢を使い切るのを狙っているのか?もしもそうだとしたら今のこの状態は奴の思い通りということになる。残りの矢の数を見て見るがかなり少ない。このままではまずい。一旦攻撃を止めよう。
「バリスタ!一旦攻撃を「どいてくださーい!!」」
俺が指示を出した瞬間誰かがこの足場に登って来た。誰かと思って見るとカレーラではないか。確か戦闘が始まってすぐに櫓から飛び降りて戦線を離脱して全く姿を見ていなかったが急に現れた。おまけに怪我も治っている。一体何をするのかと思ったら何かが入った瓶をあのオーガ目掛けて投げたではないか。
「一体何を…」
そう思い見ているとその瓶は奴の背中に当たり割れて中に入っていたものが飛び散る。よく見えないが何か粉のようなものに見える。その状況をただ見ていると櫓の方にも少し何らかの動きがあったようだ。何やら声がかすかに聞こえる。
「グギャァァァァ!!」
櫓の方に目を取られていると急に空気が張り裂けるかのような声が辺りに響き渡った。何事かと思い見てみるとあのオーガが何やら苦悶の表情を浮かべ暴れまわっているではないか。しかも暴れた衝撃で周囲に刺さっていた矢が抜けて散らばっていく。
これで再び攻撃を当てられると思っていたら一斉に櫓から矢が飛んでいく。それは今までと同じようにまっすぐに敵の方へと飛んでいきオーガに突き刺さる。しかし同じように見えたのはそこまでで矢が刺さった方のオーガは何やら今刺さった矢を必死に抜こうとしている。
さらにカレーラは先ほど投げたものと同じと思われる瓶をもう一度投げる。今度は上体を上げていたオーガの顔面に当たり瓶が砕ける。するとオーガは再び先ほどよりも大きな悲鳴をあげて悶えている。
「い、一体何が…」
「毒ですよ。」
俺のつぶやきに答えた声の主人の方を振り向く。するとそこには彼が立っていた。俺と目があうと優しく微笑み俺の先ほどのつぶやきに事細かに説明してくれた。
「あの瓶の中には今射られている矢と同じ毒が入っています。」
「矢にも毒が…しかし一体どこにそんなものが…」
「この村にいくらでも生えていましたよ。無毒なものを日頃から食べていたせいで毒草のみが村中に蔓延っていましたから。彼女に頼んで集めて貰っていたのです。」
「いつの間にそんなことを…しかしあの化け物が苦しむような毒などこの村にありましたか?せいぜい腹を壊すものや舌先が痺れるものとかそのくらいしか…」
「それだけあれば十分です。私は物作りに関してはそれなりに優秀だと自負しているんですよ。だからそれだけの弱い効果のものでも組み合わせや作成方法によってはその毒性を何十倍にもできるんですよ。」
彼は微笑んでいる。しかし俺はその微笑みにどこか恐怖を感じ身震いした。最低限の毒でもあんな化け物に苦痛を与え苦悶の表情を浮かべさせる。ただの木材からあっという間にあれだけのゴブリン達の攻撃を受けても全く壊れない壁を作り、ゴブリン達をいともたやすく倒せる武器を作る。
もしもこの人がどこかの国に加担したら…その国は世界征服だって容易いのではないだろうか。最弱の兵隊でもどんな敵をも防ぐ砦からどんな敵をも倒す武器で敵を蹴散らす。まるでおとぎ話のようだが彼ならば…彼ならそんなおとぎ話のようなことをいともたやすく行ってしまいそうだ。
絶対にこの人だけは敵に回してはいけない。そう心に刻んだ。
俺が再び前を向くとそこにはちょうど苦悶の表情を浮かべたまま息絶えたオーガが倒れるところだった。




